フラメンコのの魅力を様々な角度からお伝えするフラメンコエッセイ「アマポーラの一撃」と、フラメンコのステージに咲き競う花々をレポートする「巷に咲き競う、フラメンコの花々の評判記」。フラメンコに関する話題をご紹介いたします。





関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
スペイン国立バレエ団 2007年 日本公演

 スペイン国立バレエ団が2年ぶりに日本公演を行った。このカンパニーは1978年に創設され、初代の芸術監督は、日本でもお馴染みのアントニオ・ガデス。現在は、ガデスの次の世代であるホセ・アントニオが務めているが、彼は以前にも芸術監督だったことがあり、現在は2回目の就任となっている。

 今回の公演では、ホセ・グラネーロが振付けた『ボレロ』が上演されたが、これはかつて芸術監督だったホセ・アントニオが振付を依頼し、88年にバルセロナのリセオ劇場で、アントニオ自身も踊って世界初演した作品である。振付けたグラネーロが昨年、他界したこともあり、芸術監督のアントニオとしては、彼へのオマージュの気持ちを込めて日本で上演することを決めた、という。
『ボレロ』という曲は、元々、イダ・ルビンシュタインがスペイン人の役のためにフランスの作曲家モーリス・ラヴェルに依頼したもの。モーリス・ベジャールが振付け、ジョルジュ・ドンが踊った作品が世界的に大ヒットして、ダンスファンにはお馴染みのメロディとなっている。
 グラネーロは、セビリアの酒場を舞台にして、踊り子がダンスの練習をしているうちに、次第に気分が高まり、周囲の人々も参加して踊り始める、といった設定で振付けている。可動式の装置を使い、スモークを焚き、群舞を主体としたスペクタキュラーで力強い舞台になっている。

 Aプロでは、もう一曲『ラ・レジェンダ』が同時に上演された。
 こちらは、芸術監督を務めるホセ・アントニオが振付け、02年にマラガのテアトロ・カノバで世界初演している。
 この『ラ・レジェンダ』は、スペインの伝説的なバイラオーラ、カルメン・アマジャの人生を描いている。カルメン・アマジャは、アメリカのカーネギーホールやヨーロッパなどで賞賛と喝采の嵐を浴び、その激しくエネルギーに溢れ大地を貫くような踊りは、フラメンコ舞踊の神話になっている。今では、辛うじて映画『バルセロナ物語』の中に、彼女の踊りをみることができる。
 ホセ・アントニオは、カルメン・アマジャのプライヴェートで女性的な面と、何者にも屈することなく伝説となった触れることもはばかられる芸術的な面、そのふたつの面をそれぞれ表す白と黒の衣裳を着た、二人の女性ダンサーを使って振付けている。特に、終盤の白いドレスと黒いドレスの非常に長い裾を操って、フォーメーションを様々に変化させながら二人のカルメン・アマジャが踊るシーンは、客席も静まり返るほどの圧巻だった。

 スペイン国立バレエ団は、いたずらにいわゆる<スペイン情緒>に訴えるような雰囲気はまったくない。しかし、こころの奥深く、情熱のたぎる泉から絶えず熱い気持ちが沸き立っているようなダンサーたちによる力のこもった舞台だった。

『ラ・レジェンダ』
(9月28日、Bunkamura オーチャードホール)


『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』
鍵田真由美、佐藤浩希フラメンコ舞踊団の『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』

 鍵田真由美、佐藤浩希フラメンコ舞踊団は、『レモン哀歌〜智恵子の生涯〜』で能やハーモニカと、『FLAMENCO 曾根崎心中』ではロックとコラボレーションを行って各地で上演し、フラメンコと日本文化の融合を試みている。さらに2004年には、フラメンコの聖地へレスのフェスティバルに参加して成功を収めている。そして今年は、新作『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』を上演した。

 今回の草月ホールのステージは、コーナーのように舞台奥が狭くなっていて、おのずとタブラオを連想させる。照明も今では失われてしまった時代性を表していて、なかなか良い雰囲気を醸していた。
 音楽は、ジャズのテイストを加えた曲と3人の歌手にバイレをたっぷりと歌わせた。演出も歌手を舞台の袖で歌わせたり、楽隊のようにロビーや客席の通路を行進させて登場させたり、いろいろと工夫が凝らされていた。

『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』
 鍵田の踊りは、フラメンコ的ではないとも思われる大胆な表現も巧みに採りいれながら、スペインのプリミティヴな情感の奥底を鮮やかに浮き彫りにした。そしてフラメンコの祝祭の濃密な空間の中に、日本的な情念をそれとは感じさせずに静かに解放している。その観客を圧倒する素晴らしいコンセントレーションには感心させられた。
 小島章司から教えを受けたという佐藤浩希の踊りも見応えがあったが、やはりガデスなどの舞台に触れた観客には、もう一歩もの足りなく思えるかもしれない。思い切って遠慮なく、鍵田を押しのけるくらいのエネルギーを感じさせる舞台を期待したい。

『ARTE Y SOLERA 愛と犠牲』
(9月29日、草月ホール)

 

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