アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
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コジョカルが金平糖の精を踊った『くるみ割り人形』

 ロイヤル・バレエは、クリスマスからお正月にかけてイワーノフ、ピーター・ライト版くるみ割り人形』とアシュトン振付『ベアトリクス・ポターの世界』を上演した。
 『くるみ割り人形」上演に先立ってロンドンの街頭や地下鉄構内に張り出されたポスターの金平糖の精はベテランの吉田都。日本人でありながら、ロイヤル・バレエのプリンシパルの中で、最も良く英国バレエを体現するアーティストとなった吉田が、この冬、その功績を称えられ大英帝国OBE勲章を贈られたことは日本でも大きな話題となった。
 日本人バレリーナでこの勲章を与えられたのはスコティッシュ・バレエで長く活躍後、バレエ・ミストレスとしても腕をふるった大原永子に続いて2人目である。
 日本で踊る機会を増やすため、ロイヤルのゲスト・プリンシパルとなった彼女の主演公演を見るのは、今やロンドンのバレエ・ファンにとって非常に貴重な体験である。この冬は怪我のため、最終的に『くるみ割り人形』主演も12月14日1度きりになってしまったのが残念であった。

 12月28日、コジョカルとコボー主演公演を観る。現在市販されているDVD収録時にはクララ役があまりにも良く似合ったコジョカルも、今ではバレエ団を背負って立つプリンシパル。私生活のパートナーでもあるコボーとは、現在バレエ団で最も完成されたパートナー・シップを見せるが、それぞれの怪我もあり、今回『くるみ割り人形』で久々の顔合わせとなった。

 ギエム、バッセルなき今、バレエ団の2大女性スターといえばコジョカルとロッホ。
 身体能力と音楽性に優れ古典からマクレガーの現代作品までを得意とするコジョカル。ウルトラC級の旋回の美技と、踊る女優として演技力に秀でるロッホ。清純で繊細、野に咲く小さな花のようなコジョカルに対して、ロッホは艶やかに咲き誇る牡丹かダリアのよう。男性の庇護欲をそそるコジョカルに対して、ロッホは男性を惹きつけ、甘やかに、だがしっかりとその魅力で彼らを支配する。何においても対照的な二人である。
 コジョカルに何らかの問題があるとすれば、バレリーナとして様々な美質を持ちながら、スター性が希薄なために、時として古典バレエの豪華絢爛な舞台セットにのまれたり、衣装に負けてしまうこと、現代作品においては作品や群舞にのまれて見えなくなってしまうことであった。
 だが、研鑽と努力によって近年だいぶ存在感や、貫禄が備わってきており、当日の金平糖の精でも、コボーと共に登場して輝くスターのオーラを放った。
 主役以外で当日観る者の目を楽しませたのは、雄弁なマイムと明るい個性、跳躍に旋回、指先からつま先までコントロールの行き届いたハンス・ペーターとくるみ割り人形2役のリッカルド・セルヴェーラ、「アラビアの踊り」で妖艶な魅力をふるった蔵健太、「ロシアの踊り」で勇壮なジャンプを見せたスティーブン・マックレー、「花のワルツ」の薔薇の精役で、たくさんのバレリーナに囲まれ抜きんでたバランスや身体のコントロールを見せたラウラ・モレーラであった。

英国スタイルが蘇った舞台『スケートをする人々』

(c) Angela Kase
 1月8日、『スケートをする人々』と『ベアトリクス・ポターの世界』最終日を観る。
『スケートをする人々』は、ロイヤル・バレエ団創設時の振付家サー・フレデリック・アシュトンによる1937年振付作品である。
 今も上演されるアシュトン卿の当時の作品としては『ファサード』(31年)、『レ・ランデブー』(33年)と共に、最も初期の物である。

 幕が開くとそこは古き良き時代のイギリス。
 上流階級の令嬢、子息の若者たちが、色とりどりのランタンの明かりが灯る真白き氷上でスケートに興じている。
 グループでスケートを楽しむブラウン・ガール、ブラウン・ボーイ、高速スピンを見せる超絶技巧のスケーター、ブルー・ボーイと2人のおしゃまなブルー・ガールの3人組、ロマンティックなホワイト・カップル。
 時に氷上で転んでしまおうとも、それは上流階級の令嬢たちのこと。まるで「ごめんあそばせ」とでもいう言葉が聞こえてきそうなほどに、失態をクールに取り繕う姿が観客の笑いを誘う。

(c) Angela Kase (c) Angela Kase

 テクニックと体のコントロールが要求されるブルー・ボーイやブルー・ガール役は、技巧に秀でた日本人ダンサーによく似合うことから、ロイヤル・バレエ時代の熊川哲也は『ラ・バヤデール』のブロンズ・アイドルと共に、この作品のブルー・ボーイを当たり役としたし、吉田都も良くブルー・ガールに配役された。
 また若者たちが主人公であるこの作品は、バレエ・スクールの生徒たちによって踊られることも多い。
 今回この作品でブルー・ボーイに抜擢され話題になったバレエ団の新星スティーブン・マックレーは、スクール在学中にバーミンガムでのガラ公演で同役を披露している。

 30分弱のこの小品は、見ている観客の目にこそ楽しく映るが、ダンサーにとっては個々の品性と音楽性、技巧を大いに問われる作品である。
 特に群舞のブラウンには、男女が向き合って互いの手を取り見つめあいながら小さくジャンプし、つま先を打つステップ、男性には難易度の高いリフトもあり、一時たりとも気をぬくことが許されない。
 私が観た最終日は、ブラウン、ブルー、ホワイトの全ダンサーが、アシュトンのスタイルを見事に体現しており、大いに感心させられた。

(c) Angela Kase
(c) Angela Kase  

 ヨーロッパの冬、鉛色の空に疲れた観客たちは、群舞のブラウンから、ブルーの3人組マルティン、ラム、ガリアッツィの一人一人が発散する快活さや若さの華やぎに大いに元気付けられたし、マーゴ・フォンティーンを髣髴とさせる品格と優美さをもって、ロマンティックなパ・ド・ドゥを踊ったホワイト・カップルのアンサネッリに、しばしの夢を見せてもらったのである。

 ロイヤル・バレエは、長いこと芸術監督として腕をふるったアントニー・ダウエル勇退後、外部の芸術監督を迎え試行錯誤した時代があった。バレエ団には付属のバレエ・スクールでの教育を受けたことの無い外国人ダンサーが増え、マクミランやアシュトン作品を踊っても群舞や中堅のダンサーがロイヤル・スタイルを体現することができなくなっていた。
 それがどうだろう、モニカ・メイソンが芸術監督を引き継いで5シーズン目の今、バレエ団の群舞からソリスト、プリンシパルに到るまでが、英国ロイヤル・スタイルを再び魅力的に表現できるように蘇り、関係者を大いに安堵させた。

(c) Angela Kase (c) Angela Kase (c) Angela Kase
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