アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
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「ウィンター・ガラ、ザ・ワールド・ステージ」

 11月15日、ロイヤル・オぺラとバレエの合同ガラ公演「ウィンター・ガラ、ザ・ワールド・ステージ」が行われた。これは現在世界各国のアーティストを擁し、様々な国のオペラやバレエを上演する2つの団体による1夜限りの特別公演で、ロイヤル・ファミリーのご臨席こそなかったものの、男性はブラック・タイ、女性もフォーマルのドレス・コードがあり、チケットも天井桟敷中央でも60ポンド(15,000円)するというもの。
 直前までこれといった広報宣伝活動もなく、チケットも劇場窓口では販売せず、電話での申し込みのみ。出演アーティストがはっきりしないばかりか、演目は当日にならないとわからないというファン泣かせの企画であった。

 平日の夜7時に指定のドレス・コードで現れた我々が眼にしたのは、正面玄関を入ったつきあたり1階席入り口に飾られた何とも悪趣味な万国旗の飾りであった。この悪趣味なモチーフは、10ポンドのガラ公演プログラムの表紙や、当夜の緞帳にも使われ何度となく目にしなければならず苦痛極まりなかった。フランス、イタリアといったヨーロッパの国々に、ファッションの洗練度やデザイン、街づくりで今も大いに遅れをとる英国が、またしても趣味の悪さを露呈してしまったのである。

バレエの演目と出演者は下記の通り
『オマージュ・トゥ・ザ・クィーン』 アシュトン/ロイヤル・バレエ団
『レクイエム』より マクミラン/
「サンクトゥス」「ピエ・イェズ」リアン・ベンジャミン、ジョナサン・コープ
『ラ・シャ・メタモルフォス・アン・フェム』 アシュトン/アレクサンドラ・アンサネッリ
『カルメン』 ローラン・プティ/タマラ・ロッホ、ロベルト・ボッレ
『ニムバス』 ウェイン・マクレガー/ニュネズ、ヤノースキー、アンダーウッド、ワトソン
『ユンバ VS ノニノ』 クレイグ・レヴェル・ホーウッド/マイケル・ナン、
ギャリー・エイヴィス
『ザ・コンサート』 ミステイク・ワルツ ロビンス/ガリアッツィ、ラム、モレーラ、
チャップマン、カスバートソン、マクミーケン
『星条旗よ永遠なれ』 バランシン/アリーナ・コジョカル、スティーブン・マックレー

 ロイヤル・バレエが生んだ2大巨匠アシュトンとマクミラン作品、ロビンス、バランシン作品などガラの定番が並ぶ中、英国ではあまり上演されることのないプティ作品より『カルメン』と、ロイヤルを退団後、一時熊川哲也のKバレエのブレーンおよび主要ダンサーとして活躍、帰国して自らのカンパニーと共にダンサー、公演プロデューサー、ダンス・ドキュメンタリー映像作家として幅広い活躍をする<バレエ・ボーイズ>による男2人が燕尾服姿で踊るタンゴ小品『ユンバ VS ノニノ』、現常任振付家のマクレガーがこのガラのために振付けた新作小品「『ニムバス』の3作品の存在がバレエ・ファンを喜ばせた。

 だが『ユンバ VS ノニノ』は、元バレエ団プリンシパルのウィリアム・トレヴィットの急な怪我により、彼に身長や面影のよく似たギャリー・エイヴィスが、30分で作品を覚えて急遽代役に立ったことから、作品そのものの持つ面白みが薄れてしまったし、『カルメン』ではロッホはファム・ファタールには愛らしすぎ、ボッレはいつもながらの品位と節度のあるダンスール・ノーブルそのままで、愛のために身を滅ぼすホセの苦悩や激情を表現することなく、美しいという以外に強い印象を残せなかった。マクレガーの『ニムバ』」は先シーズンに振付けた『クローマ』同様、ダンサーの身体能力を極限まで引き出す作品で、視覚的な醍醐味こそあるものの往々にしてグロテスクであり、英国ロイヤル・バレエのこれまでの作品に慣れた観客に非常な違和感を感じさせてならなかった。

 また、交通事故のため引退公演に出演できずにバレエ団を後にしたジョナサン・コープのコベント・ガーデン最後の出演というのも大きな話題であったが、『レクイエム』の「サンクトゥス」と「ピエ・イェズ」の2曲では、彼らしい個性を発揮できない。

 これは、先シーズン末のバッセルの引退公演でも感じたことだが、バッセルやコープのようなバレエ団に長らく君臨した英国人ダンサーたちが、なぜ彼らが最も得意とした作品や、彼らに似合った作品で幕を引けないのか? ド・ヴァロワ、アシュトン、マクミラン、そしてダウエルが去った後のロイヤル・バレエは、今やスター・ダンサーを上手にプロデュースするノウハウを見失ってしまったように思えてならない。

 昨年の「バレエ団設立75周年」と「エリザベス女王の80歳のバースデー」を祝って催されたガラ公演に比べると、ギエム、バッセル、アコスタ、吉田といったスターたちも踊らず、コボー、サミョードロフ、ボネリ、そして台風の目であるバレエ・ボーイズのトレヴィットも怪我で出演できないという何とも淋しいガラ公演となった。
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