守屋光嗣 text by Koji Moriya
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----ここからは監督自身のことを伺います。まず、「監督」として過ごされる典型的な一日を教えてください。
(ちょっと困ったような表情で)典型的な一日なんて、ないわね。毎日が、将来のことと現在のことを同時に解決していくようなものだから。例えば、昨日は朝から怪我人や病気のダンサーの知らせがたくさんあり、急いでキャストの変更を考えなければならなかったわ。「カレント・クライシス」をどう解決するかに取り組んでいました。私たちはそんな状況を「ファイアー・ファイティング」と呼んでいるのよ。
 それと同時に、「将来」起きるであろうたくさんの事についても考えなければならない。例えば、あるダンサーが引退を考えている、といったことなどね。ミーティングの間、私たちは、本当に多くのことを話し合います。
 ある日は、丸一日電話につきっきり。あくる日は、全く電話はなくて、その代わりダンサーの話を聞くのに多くの時間を費やすわ。あるダンサーが何かの問題を抱えているとか、プリンシパル・ダンサーが海外の公演にゲスト出演するというのであれば、日程の調整と、先方の監督と話さなければならないこともある。ロイヤル・バレエがゲスト・ダンサーを迎えるときも同じね。
 たとえスタジオにいる時間がなくても、ハウス内には居たいわね。それに、どんなに忙しくても、毎日スタジオに行ってクラスやリハーサルは見たいわ。
 ある日はオーディションが予定されているかもしれない。オーディションがあれば、多くの人と会い、話し合わなければならない事がでてくる。別の日には、スクールに行ってディレクターと話し合うことがあるかもしれない。ある時は、シューズやコスチュームについて解決しなければならない事が起きるかもしれない。普通の生活ではありえない状況で、たくさんのことに取り組んでいる毎日ね。
 数分で解決すること、10分くらいで済むこと、そして大きなプロダクションを抱えていれば、何ヶ月にもわたって考えなければならない事がある。毎日、多くのことが幾重にも重なりあっている中で過ごしている、っていたところかしら。

----ダンサーとしてロイヤル・バレエで活躍されていた頃、どのような思いで過ごされていたのでしょうか。どんな喜びを感じていたのでしょうか。
 私が若かった頃、私は踊りたかった。他の何よりも、踊りたかった。そして、踊ることの喜びを表現したかった。同時にいつも、自分の気持ちを表現できる方法を探しつづけてもいたわ。
 何よりも私が幸運だったのは、アシュトン、マクミラン、そしてヴァロワのような偉大な人たちといられたこと。ダンサーとして、なんて幸運で、例外的で、そして稀な機会に恵まれているかといつも感じていた。偉大な人たち、たぐい稀なる才能との貴重な邂逅。
 アシュトンやマクミランといることは、時には、彼らへのサーヴァントのように感じたこともあったわ。彼らは、新しい作品を創り上げるために私たちに彼らとコラボレイトすることを求め、私たちは彼らの偉大な創造性に奉仕していたのよ。言い換えると、私たちは、彼らが創造している過程の中心にいたのだと思うわ。
 でも、忘れてはならないのは、同時に、才能に恵まれた他の多くのダンサーが常にいたこと。他の誰かが私の場所にいたかもしれない。私である必要はなかったかもしれない。競争は常に存在していたのよ。
 アシュトンやマクミランに選んで欲しい。何故なら、彼らと作品を創り上げる経験が如何に素晴らしいかをみなが知っているから。カンパニーにいる多くのダンサーが、その場に居たがった。そして、彼らが私を、もしくは他の誰かを選ぶとき、私はそれが、必ずどれほど素晴らしいことかを常に理解していた。
 偉大な才能と全く新しい作品を創り上げるとき、その過程がどれほど貴重で特別なことかを感じるのは素晴らしいことだわ。
 振付家を喜ばせるためには、誰でもどんなことでもですると思うはず。仮に彼らが、「耳でバランスを取ってみてくれないか?」、と求めてきたら、貴方はそれをするでしょう。何故なら彼らが望むことだから。
 貴方は彼らと新しい作品を創造することが如何に重要かを知っているからこそ、大きなことに挑戦している感覚が常にある。リハーサル・ルームは、いつも前向きで、創造力に溢れていたわ。自分自身に振付けられた作品を得たダンサーには、大きな喜び、歓喜、そしてリウォードがある。
 そして、ファースト・ナイトのカーテンが降りて、どれほど素晴らしく、美しく(ダンサーが)踊ってくれたか、その踊りを観てどれだけ振付家自身が幸福かを、振付家本人から直接伝えられたときのことを想像してみて。これ以上の喜びはないわ。お金でも物でもない、貴方の心に何かが伝わる。祝福されているよう。そんな特別なことを経験が出来て本当に幸運だと思うわ。

----昨年11月、『Chroma』と『DGV』を踊ったダンサー達は、全く同じ想いを持ったと思います。
 私もそう思うわ。

---先ごろ発表された2008年の日本公演には、『眠れる森の美女』と『シルヴィア』が上演予定となっています。
 いつも、ツアーとその予定については、心配が付きまとうのよ。


----で、『シルヴィア』は、日本にいるバレエ・ファンがこれまでのロイヤル・バレエの日本公演で観てきたアシュトンの全幕作品とは、ちょっと違うような印象があります。
 2005年の日本公演ではアシュトンの『シンデレラ』を上演しました。両作品の制作年はそれほど離れていないのよ。でも、貴方が言われたように、『シルヴィア』は『シンデレラ』とは違った要素をたくさん含んでいるわね。私は、『シルヴィア』を日本に持って行けるのをとても嬉しく思っています。

『シルヴィア』
バッセル、ハーヴェイ


『シルヴィア』
バッセル、ボッレ、ハーヴェイ

『シルヴィア』
ダーシー・バッセル

----2005年の日本公演については、どのような印象をお持ちですか。
 前回に限ったことではないのだけれど、日本に行くたびに、過去何年にもわたって、日本の観客の皆さんがどれほどバレエへの理解を深めてこられたかということに、いつも感銘を受けているのよ。
 まずいえるのは、ミスター・ササキ(日本舞台芸術振興会の佐々木専務理事)の長年にわたる情熱と努力ね。彼は東京だけでなく、日本の多くの都市に新しい文化を広めることを続けてきたと思っています。ロイヤル・バレエが初めて日本公演をしたとき(1975年)、東京だけでなく他の都市にも行きました。本当に残念だけれど、現在は、コストの高騰を考えると東京以外での公演は難しくなっています。
 そして日本の観客の皆さんは、芸術に対してとても真摯だと思います。たとえば数十年前、初めてバレエを観たとき、日本の皆さんは受け入れるのが難しかったのではないかしら。音楽やコスチュームのいくつかは、まるで別世界のものと感じられたのではないでしょうか。初めての日本公演のとき、私は観客の皆さんはとても保守的で、静かで、そしてバレエについて知らないことを不安に思われているのではないかと感じました。でも、そのあと何年にも渡って、西洋の文化であるバレエを皆さんの心の中に取り入れようとされてきた。
 2005年の日本公演、ロイヤル・バレエが初めて日本を訪れて30周年の時は、その違いは明らかでした。皆さん、バレエへの理解を深めていらして、ロイヤル・バレエのプロダクションを存分に楽しんでいたように感じたわ。言うまでもなく、現在、日本には多くの有名なバレエ団、オペラ・カンパニーやオーケストラが訪れています。日本の観客の皆さんは、私たちの文化をよく理解されているのではないでしょうか。

----そうですね。最近はロイヤル・オペラ・ハウスでロイヤル・バレエを観る方もかなり増えているようです。ただ、トリプル・ビルになると、今でも躊躇ってしまう方がまだ多いように思います。
 それは、ロンドンでも全く同じよ。ロンドンの観客にとっても、ミックス・ビルは今でも賭けみたいなものではないかしら。
 皆さんこう考えていると思うの。「このトリプル・ビルで上演される作品、全く知らないな。チケット代だってばかにならないし、年に1、2回しかバレエは観ないし。自分が楽しめることが判っている演目だけを観るべきか。それとも、何か新しい演目を経験してみようかな」。
 私の助言はこうね。「もし貴方がバレエを2回観にいける余裕があるなら、1回はよく知っている作品にしてみなさい。そしてあと1回は、Take a risk!」。
 監督してトリプル・ビルを計画するとき、いつも自分に問い掛けるのよ。「本当にこのプログラムは、私自身がチケットを買いたくなるものかしら?」ってね。

----最後に、まだ1年以上も先ですが、2008年の公演に向けて、日本のバレエ・ファンに伝えたいことはありますか?
 前回の公演から3年もあくから、恐らく新しいプリンシパル・ダンサーがいるかもしれないわね。それに、もし皆さんが『シルヴィア』を観たことがないのであれば、リーディング・ロールをどのダンサーで観てみたいかを考えるのも楽しいことでしょう。
 逆に、もう観ることが出来ないダンサーがいるかもしれない。どうなるかわからないけど、もしかしたらダーシー(・バッセル)や(吉田)都ね。都については、もしかりに日本公演でトリプル・ビルが可能だったら、もしかしたらとは思ってはいるのだけれど。なんとも言えないわね。
 でも、私は都がこれから日本で踊る機会が増えるのはとても素晴らしいことだと思っています。しかもテディ(熊川哲也)と一緒にKバレエで彼女のキャリアが続くなんて。なんと言っても、都は偉大なダンサーですからね。まぁ、ロンドンのファンは不満かもしれないけど。

----ええ、不満です。
  やっぱり(笑)。
 ダンサーたちは、日本にいけるのをいつも楽しみにしているわ。日本の観客の皆さんはバレエをよく知っているから、彼らは試され、批評され、価値を見出され、そして理解される。これはとても良いことです。
 ダンサーたちにはいつもこう伝えています。「日本は、決して簡単な場所ではない。観客の皆さんは、ロイヤル・バレエが素晴らしいということを期待しているし、私たちはいつも、私たちのスタンダードを高くしていなければならない」。これは、世界中、どこの国に行っても同じこと。でも、日本はある意味、特別ね。日本は、ロイヤル・バレエにとって、訪れることがいつも幸せに思える国だと思います。

2007年5月11日(金)に、ロイヤル・オペラ・ハウスのリンベリー劇場で、メイソン監督への公開インタヴューが催される。インタヴューアーは、グラモフォン誌等のオペラ批評家として知られるクリストファー・クック氏。チケットは、ロイヤル・オペラ・ハウスのウェブから購入可能
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