守屋光嗣 text by Koji Moriya
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ニネット・ド・ヴァロワの『眠れる森の美女』

 カンパニー創立75周年を記念して、芸術監督のモニカ・メイソンとクリストファー・ニュートンが復活させたニネット・ド・ヴァロワによる『眠れる森の美女』が時をおかずして再演された。今回は21回と上演回数が多く、7人のオーロラ姫が舞台を彩った。また、この長丁場のためであろう、一部のプリンシパル・ダンサーを除き、昨夜はライラック・フェアリー、明日はオーロラ、もしくは、今日は青い鳥、次回はコール・ドの一人という具合に、多くのダンサーたちがいろいろな役に挑戦していた。彼らにとっては体力的には難しい時期だったかもしれないが、日ごろ見る機会のない若手の実力を知るにはうってつけだった。

 今年5月に演じたオーロラ役でプリンシパル昇進を果たしたサラ・ラム。この夏、ヴァルナ国際コンクールで銀メダルを獲得したローレン・カスバートソン。そして誰もが認めるロイヤル・バレエのプリマ・バレリーナのタマラ・ロホ。3人のオーロラを見比べることが出来た。この3人の中では、ロホの圧勝、といったところだ。

『眠れる森の美女』
(2006年春)


『眠れる森の美女』
(2006年春)

『眠れる森の美女』
(2006年春)

『眠れる森の美女』
(2006年春)

 ラムは、舞台に登場してきたときから、緊張しているのが明らかだった。彼女の技術への評価は既に高いので、どうしてこれほどまで緊張しているのだろう、と不思議に思ったほど。第1幕では彼女をオーロラ姫と観ることは出来なかった。サラ・ラムというダンサーが、必死に踊っている、そんなとても硬い印象の舞台だった。
 引退したジェイミー・タッパーの代わりにオーロラ姫に抜擢されたカスバートソンは、今シーズンからファースト・ソロイストに昇進したばかり。イギリス人ダンサーを育て上げたいカンパニーの思惑が見え隠れする。一方で、皮肉ではなく、カスバートソンは現在の自分の技量を充分に理解した上で、その技術の上限いっぱいで彼女が表現できるオーロラ姫を演じていて好感の持てるものだった。ありていに言えば、古典バレエを踊るプリマ・バレリーナにとっての最難関の一つ、第1幕のローズ・アダージオで、こちらが望む古典バレエの技術の醍醐味を感じることはなかった。が、オーロラ姫が抱くであろう求婚された喜びは、カスバートソンはきちんと表現していた。ただ、カンパニーには不満がある。どうしてカスバートソンにだけ、あんな醜悪な髷をつけさせたのか。彼女はまだ20代前半のはずだが、どう見ても実年齢より10歳は上に見えてしまった。
 5月の上演時にも、タマラ・ロホの舞台には華があった。一人のバレエ・ファンとして思うのは、ローズ・アダージオを前にして、いつもいつもはらはらするのは心臓によくない。ロホの場合は、満足の溜息が自然に出てきた。技術あってこその古典、その上でダンサーの個性と役柄が見事に合わさった舞台をロホは創り上げていた。あくる夜に、サドラーズ・ウェルズ劇場にオランダ国立バレエを観にきていたロホに尋ねたところ、本人にとっても会心の舞台だったとのこと。
 ロホのプリンスは、フロリムント・デビューを果たしたカルロス・アコスタ。丁寧なパートナリングが、一際映えていた。偶然にも、二人にとっては、この『眠れる森の美女』が今シーズンの初舞台。観客の多くが待ち焦がれていた夜だったはずだ。



『眠れる森の美女』
(2006年春)

『眠れる森の美女』
(2006年春)

オランダ国立バレエ団の4作品

 5年ぶりのロンドン公演(サドラーズ・ウェルズ劇場)を行ったオランダ国立バレエは、20世紀後半と21世紀にはいって創作されたコンテンポラリーの振付をそれぞれ2作、計4作を持ってきた。既に定評のあるダンサーたちの身体能力の高さは、噂にたがわぬものだった。

 上演された振付は順に、『Vier letzte Lieder』(1977年作、振付:ルディ・ヴァン・ダンツィヒ、音楽:リヒャルト・シュトラウス)、『Suite for Two』 (2006年作、振付:Krzysztof Pastor、音楽:バッハBWV1008)、『Frank Bridge Variations』(2005年作、振付:ハンス・ファン・マーネン、音楽:ベンジャミン・ブリテン)、そして『The Second Detail』 (1991年作、振付:ウィリアム・フォーサイス、音楽:トム・ウィレムス)。コンテンポラリーと括られる4作だが、振付と音楽がどれほど強く結びついているかによって、振付の普遍性がより一層高まる、ということを強く感じた。言い換えれば、片方だけよくても駄目なのだ、と。

 フォーサイスを除いては、音楽は振付家が選ぶ前から、どれもとても強い個性を持っていた曲ばかり。残念ながら、最初の2作は、まず音楽と拮抗できるほどの強さ、独自性を持っていなかったように感じた。『Suite for Two』は、現在、マーネンとともにカンパニー所属の振付家であるKrzysztof Pastorが今回の公演のために振付けたものとのこと。言っても仕方ないことだが、もう少し時間があれば、違ったものになった可能性も。『Vier letzte Lieder』は、この作品より数年先んじて創作されたケネス・マクミランの『大地の歌』を思い浮かべるシーンが、いくつもあった。「死」を扱うにしては、どこかもう一歩踏み込む勢いがなく、シュトラウスの旋律が舞台の主導権を握っていたようだった。



『Vier Letzte Lieder』

『Vier Letzte Lieder』

『Vier Letzte Lieder』

 対照的に、後半の2作は、共に音楽を上手く味方につけた振付、という印象だった。2005年から、カンパニーの振付家に戻ったマーネンは、1932年生まれ。今回、イギリス初演となった『Frank Bridge Variations』は、彼の年齢への偏見を跡形もなく砕いてしまうほど、軽快でウィットに富んだものだった。男女のペア5組が交互に踊るもので、カップルの間に緊張が高まったかと思うと、肩の力をすっと抜いたような踊りがその緊張の直後に続くなど、舞台への集中力が全くそがれなかった。

 フォーサイスの『The Second Detail』は、創作された年代から推測できるように、バレエ・ファンが彼に期待する典型的な振付、と言い切ってもいいだろう。13人のダンサーが、それぞれの身体の限界に挑むような、それでいてバレエの様式美を感じさせる振付だった。オランダ国立バレエ団のダンサーのエッジがきいた踊りは、ウィレムスの挑発的な音楽にひけを取ることはなかった。

『The Second Detail』

サドラーズ・ウェルズ劇場の2007年前半のプログラム

 11月20日から、サドラーズ・ウェルズ劇場の、2007年1月から8月までの公演のチケットが発売になっている。9月号のインタビューで、サドラーズの芸術監督アラステア・スポルディングが語っているように、とても幅の広い、且つ魅力的な演目、カンパニーが並んでいる。バレエ・ファンには、15年ぶりの来英となるアメリカン・バレエ・シアター(2月中旬)、昨年の初演が好評だった『カンタベリーの幽霊』を上演するイングリッシュ・ナショナル・バレエが(3月上旬)注目だろう。コンテンポラリー/モダンでは、『PUSH』と『セイクレッド・モンスターズ』の再演がそれぞれ3月下旬、4月下旬に予定されているほか、フィリップ・ドゥクフレの『ソンブレロ』がイギリス初演(7月上旬)となる。他にも、世界初演、イギリス初演が目白押しで、イギリスだけでなく、世界中のバレエ・ダンスファンの熱い視線を集めるのは想像に難くない。
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