守屋光嗣 text by Koji Moriya
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エドワード・ワトソンの『ジゼル』

 4月後半の2週間に渡って計6回、ピーター・ライト版の『ジゼル』が再びロイヤル・バレエで上演された。3キャストが配されていたが、バレエ・ファンの注目はダーシー・バッセルと、エドワード・ワトソン(相手はリアン・ベンジャミン)のロイヤルのメインステージでの古典バレエの主役デビューに集まった。
 初日、バッセルの体調が万全でなかった、ということを聞いていたのだが、2日目の舞台では身体的な問題はなかったようだ。バッセルが演じるジゼルは、正直な所、第1幕の村娘のイメージからはちょっと外れる印象は否めなかった。都会的、もしくは燦然と輝くプリンセスのイメージが強いからだろうか。技術的には、なんの問題もなく、さらに昨秋の『マノン』のときから感じていたのだが、演技面での深みを感じた。特に、第1幕のピーク、「狂乱の場」での細やかな表所の変化は、無垢な心と愛する人に裏切られてずたずたになった心の間の葛藤を見事に表現していた。

「ジゼル」イメージ写真
モデルはバッセル
 第2幕は、バッセルのキャリアの中でも、素晴らしい舞台の一つに数えられるのではないかと確信するほど、質の高いものだった。アルブレヒトにロベルト・ボッレ、ミルタにセナイダ・ヤナウスキー、ヒラリオンにティアゴ・ソアレスと役者もそろい、これ以上ないくらい幽玄の美しさを湛えた舞台だった。

 本拠地、ロイヤル・オペラ・ハウスのメイン・ステージで古典バレエの主役を演じないままプリンシパルに昇格したエドワード・ワトソン。今回のアルブレヒト・デビューは、本人にどんな想いを抱かせたのだろうか。

「ジゼル」2006年1月の公演から
ロホ、アコスタ、ヤナウスキー
 31歳になるまで古典バレエを踊ることがなかったのは、カンパニーの判断ミスだろう。それを踏まえて、本人にとって難しいと思われる点は、経験を通して培ってくる役へのセンスが不足していたことだろう。第2幕、アルブレヒトのヴァリエイションの後半に差し掛かって、ワトソンの体力ががくんと落ちたように見えた。ヴェテランのベンジャミンが相手ということもあって、失敗とまでは行かなかったが、夜明け前のシーンでのパートナリングは、一瞬動きが遅れて冷やっとしてしまった。反面、第1幕では、腕の動かし方、ステップの運び方は大変美しかった。来シーズンは、年末に『くるみ割り人形』、2007年になって『白鳥の湖』があるので、ワトソンが王子役を観る機会が増えることを期待している。

吉田都が踊った「リーズの結婚」

 昨シーズンに続いて、フレデリック・アシュトンの傑作コメディ・バレエ、『リーズの結婚』が4月から5月にかけて上演された。今回は、ロール・デビューを果たしたサラ・ラムやラウラ・モレイラの評価も高かったようだが、リーズ役は初日を飾った吉田都のもの。

 吉田が舞台に登場してから、カーテンが降りるまで舞台の上のみならず、ロイヤル・オペラ・ハウス全体が吉田から感じられる可憐な村娘、リーズの幸福感で満ちていた。前述のテレグラフ紙の質問で、最も好きな役は『リーズ』とこたえていたように、演じているといった不自然な動きは全くなく、すべての振付、マイムのシーンが吉田の中に生まれながらに備わっているような踊りだった。リボン・ダンスのシーンや、最後のパ・ド・ドゥと一つ一つ挙げるより、すべてが素晴らしい、と。

 そんな中でも特に観るたびに驚くのは、彼女の表現力の豊かさ、繊細さ。例えば、第2幕、シモーネに家に閉じ込められ、寂しそうにうつむいている所から、やがて愛する人との将来を思い描く場面。うつむき加減の顔から、本当に少しずつ、少しずつ表情が明るくなる。リーズが思い描く幸せが、観ているこちらにも自然に伝わってくる。

「リーズの結婚」吉田都
写真は数シーズン前のもの

 吉田の相手は、ロイヤル・バレエに移籍して3年目になるヴィァチェスラフ・サモドゥロフ。昨年のロール・デビュー時はかなり硬かった表情・動きだが、2度目とあって余裕が生まれたようだ。その所為もあってか、前回は観ることがなかったワガノワ・アカデミーで培われてきたであろう彼本来の動きの美しさが自然と前面に出てきたようだ。特に着地直後や、一つ一つの動きを決める場面での姿勢の美しさは、彼の特徴としてもっとアピールしてもいいのではないかと思う。
 吉田とサモドゥロフが踊った二日とも、シモーネ未亡人はウィリアム・タケット、アランはホセ・マーティンと、芸達者が勢ぞろい。特にマーティンの、仲間はずれにされるものの悲哀が感じられる演技・表情には、ここにもロイヤル・バレエの伝統がきちんと受け継がれているのを感じた。


第2幕

ハーヴェストのシーン

吉田都

 

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