●RB『牝鹿』『シンフォニック・ヴァリエーションズ』『田園の出来事』
ロイヤル・バレエ(RB)2004/5シーズン「アシュトン・セレブレーション」最後のプログラムは、ミックス・プログラムで『牝鹿』『シンフォニック・ヴァリエーションズ』『田園の出来事』が上演されました。
ブロニスラワ・ニジンスカ振付の『牝鹿』は1920年代の上流階級のハウスパーティーを描いた作品。芸術家のコラボレーション(マリー・ローランサンの美術とフランシス・プーランクの音楽)と、その時代の社会や流行を見事に描写しているバレエ・リュス作品として非常に興味深い作品です。ニジンスカの振付とローランサンのピンクを基調にした美術が創り上げるイメージは、上流階級のパフュームが香るような女性らしい華やかさが印象的でした。シャネルルックにシガレットをくゆらす女主人公を演じたゼナイダ・ヤノウスキー。ゼナイダならではのエレガントで魅惑的な表情と仕草を見つめていると、1920年代のフランスにタイムスリップスした錯覚を覚えました。
アシュトンのコヴェント・ガーデン デビュー作『シンフォニック・ヴァリエーションズ』はセザール・フランクの『ピアノとオーケストラのための交響的変奏曲』に振付けられた神秘的な抽象バレエ。シンプル極まりない舞台空間に浮遊する滑らかな動きと、空間を切るクリアーなフットワークのコントラストはまさにアシュトン・バレエ。ピュアムーブメントのみが創りだす研ぎ澄まされた美が特徴的です。主役を踊ったアリーナ・コジョカルは彼女の特徴である柔軟な上半身とアームス、クリアーなアラベスクのラインで観客を魅了しました。そして数年前まだコール・ド・バレエの一人だったアリーナが、怪我をしたダンサーの代役でセンセーショナルなデビューを果たしたように、この作品でROH中の観客の目を奪うスターが生まれました。怪我をした佐々木陽平の代役として大抜擢されたのは、今シーズン初めロイヤル・バレエ・スクールからRBに入団したスティーブン・マッカリー(2003年国際ローザンヌ・バレエ・コンクール受賞者)。他2人のプリンシパル・ダンサー(ボネリとコボー)と舞台上に並んでもまったく引けを取らない強い存在感、そして刃のように鋭いシソンヌは目に焼きついています。
プログラムの最後を飾ったのは、ショパンの音楽に振付けられたアシュトンの恋愛悲劇『田園の出来事』。シルヴィ・ギエム演ずるナタリア・ペトロヴァからは、決してアシュトン・バレエという印象を受けることはありません。しかしシルヴィは、妻であり、母であり、女であるというナタリア・ペトロヴァの3つの異なる面を繊細に演じ分け、そのそれぞれに異なる女性像は誰もが恋に落ちてしまうのが不思議でないほどの魅力に溢れていました。マッシモ・ムッル演ずるベリヤエフは青年らしい誠実さと情熱溢れる役作りが印象的でした。今回ダブルキャストでナタリア・ペトロヴァを演じたのは、今まであまり女優バレリーナという印象のなかったダーシー・バッセル。ダーシーのしなやかな上体がベリヤエフに対する熱情を美しく表現した、と新聞評で高く評価されています。ダーシーの相手としてベリヤエフに抜擢されたのはファースト・アーティストのルパート・ペンファーザー。まだ若いながらも安定感のあるテクニックと気品溢れる存在感で素晴らしいデビューを果たし、今後の彼の活躍が非常に期待されます。
6月18日の公演はシーズン最終日にあたり、今シーズン限りで引退となるピアニストのフィリップ・ギャモンの演奏はいつも以上に叙情的で、涙が出るほどに感動的でした。劇場全体が彼の40年にわたるRBでの功績を称える大感動のカーテンコールとなりました。
(2005年6月2日〜18日、ロイヤル・オペラ・ハウス)
●ロイヤル・バレエ、野外放送公演「スターズ・オヴ・ロイヤル・バレエ」
6月8日、ロイヤル・バレエ夏恒例のイベント、野外生中継公演が行われました。このイベントは、ロイヤル・オペラ・ハウスでの公演が野外会場に設置された大スクリーンに中継され、誰でも無料でロイヤル・バレエ/オペラの公演を鑑賞することの出来るスペシャルイベント。今回はロンドン トラファルガー・スクエアーをはじめ6都市(リバープール、マンチェスター、バーミンガムなど)で、「スターズ・オヴ・ロイヤル・バレエ」と題されたトリプル・プログラムが生中継されました。
幕開きを飾ったのは、アリーナ・コジョカル&ヨハン・コボー主演によるアシュトン『ザ・ドリーム』。何よりも衝撃的だったのはアリーナの演技/表現力の変化でした。5月の公演では冷たいイメージの役作りが気になったのですが、今公演では少年の肩に手をのせる、オーベロンに歩み寄るなど、どんな仕草からもタイターニアの女性らしい温かみが感じられました。技術的な面でも落ち着いた感じが見られ、前回の上演から約1ヶ月間でこんなにも役柄解釈と表現力を発展させることの出来る、アリーナの無限大の才能に驚かされました。 |
『ザ・ドリーム』 |
2作品目はブルースの『スリー・ソングス、トゥ・ヴォイシィズ』。5月の初演時は完全なるアブストラクトに見えたこの作品にも、主演3組(ヤノウスキー&エイヴィス、ロッホ&ステパネク、チャップマン&セルベラ)のそれぞれ異なるドラマが見えるようになり、その男女間の関係が激しいムーブメントに濃厚に映し出され始めました。とりわけチャップマン&セルベラのデュエットは、支配的な男と何か満たされずに苦しむ女という男女関係が鮮明に見られ非常に印象的でした。ダンサーの動きも一段と滑らかになり、改めてブルースの振付の芸術性とダンサーのムーブメントの美しさに感動を新たにしました。
『シンフォニー・イン・C』 |
最後を飾ったのはバランシンの『シンフォニー・イン・C』。このスペシャルナイトをスペシャルにしたのはやはりこの作品でした。第1・3・4楽章はアレグロなのに対し唯一のアダジオである第2楽章。テクニックで観客を魅了する他の3つの楽章と違って、バレリーナそのものの魅力がものを言う第2楽章は『シンフォニー・イン・C』の中で最も重要な楽章と言えます。その第2楽章、RBの象徴ダーシー・バッセルとジョナサン・コープが舞台に登場するだけで劇場全体を包み込む空気が変わったような気がしました。ダーシーの愛らしい笑顔とダイナミックでありながら気品漂うムーブメントはまさにダーシー・マジック。観ている者を完全に陶酔にさせました。続く第3楽章はラウラ・モレラがスパークリングなジャンプとハイスピードなピルエットで夢見心地だった観客を目覚めさせ、第4楽章サラ・ランムの独楽のようなシェネや喜び溢れるステップに、舞台のボルテージはコーダに向けて一気に上がっていきました。オーケストラもフィナーレに近づくほどに加速されていき、4バレリーナ(ガリアッツィ、バッセル、モレラ、ランム)揃ってのクライマックスには、瞬きも出来ない緊張感と胸がはちきれそうな興奮に劇場全体が包み込まれ、一糸乱れぬ大フィナーレで感動の舞台は幕を閉じました。
(2005年6月8日、ロイヤル・オペラ・ハウス) |
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