船引怜美 Text by Remi Funabiki
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●ロイヤル・バレエ、『トンボー』他ミックス・プログラム

ロイヤル・バレエ(RB)は3ブリティッシュ・コレオグラファー:デビット・ビントリー/フレデリック・アシュトン/ケネス・マクミランのミックス・ビルを3月26日〜4月16日の間6公演、上演しました。

プログラム幕明きを飾ったのはビントリーが1993年にRBに振付をした『トンボーTombeaux』。20世紀を代表するイギリス人作曲家ウィリアム・ウォルトンの『ヒンデミットの主題による変奏曲』に振付けられたネオ・クラシックな抽象バレエ。アシュトンへのオマージュとして創られたとも言われるこの作品は、それを裏付けるようにアシュトンの代表的抽象バレエ作品『バレエの情景』のイメージを思い起こさせ、12人の女性コール・ド・バレエ、4人の男性ソリスト、男女のプリンシパルという構成にも共通点が見られました。ジャスパー・コンランによる非常にシンプルな衣装デザインはとてもスタイリッシュで印象的。濃い紺色のチュチュの女性コール・ド・バレエが描き出すフォーメーションはとてもクリアーで、アシュトンでもバランシンでもないビントリー独自のバレエ観が見えるような気がしました。男女のプリンシパルを踊ったのは、アリーナ・コジョカル&ヨハン・コボーとローレン・カスバートソン&フェデリコ・ボネリ、の2キャスト。

『トンボー』
アリーナ&コボー ペアーは一つ一つの動きのクリアーさが印象的だったのに対しローレン&ボネリ ペアーでは動きの滑らかさが強調され、非常に興味深い2キャストとなりました。キャストが予定されていたジェイミン・タッパーの産休の為、主役に抜擢されたローレン。 彼女の初日の舞台では教科書通りに踊っているような感が見られましたが、2日目には驚くほどの安定感と彼女ならではの気品で大役を果たしました。その他にはファーストキャストの男性ソリスト4人(佐々木陽平、エドワード・ワトソン、マーティン・ハーヴェイ、リカルド・セルベラ)の非常に安定感のあるテクニックが印象的でした。


『トンボー』
イギリス人作曲家エドワード・エルガーと彼の妻そして友人を描写したアシュトン振付『エニグマ・ヴァリエーションズ』は、エルガーが同名タイトルの作品を作曲し発表した際のエピソードを元にした約35分の小作品。バレエ作品ではエルガーを取り巻く友人たち一人一人のキャラクターが細かく描写されており、物語の最後は、ある有名指揮者がエルガーの新作『エニグマ変奏曲(ヴァリエーションズ)』の上演を許可した、という朗報を伝える電報がエルガーの家に届き、友人らと共にその喜びを分かち合うと言うストーリー展開。ジュリア・トレヴェリアン・オーマンによるノスタルジー漂う美術デザインとバレエではなく演劇作品としか思えない演劇的な演出はRBならではの作品と言えるでしょう。作品のクライマックス、第9変奏曲(Nimord)はエルガーの親友で音楽出版社のイェガー(ウィリアム・タケット)、エルガー(クリストファー・サンダース)そしてエルガーの妻(ゼナイダ・ヤノウスキー)3人のパ・ド・トロワ。バレエ作品を観ていると言うことを完全に忘れさせる3人の表現力の素晴らしさに劇場中の観客が舞台に吸い込まれました。そっと肩に手を置いたり、手を差し出したり、見つめあう仕草だけでその人物の性格と感情が手にとるようにわかります。そしてバレエのステップである部分もそれらがステップと見えることはなく、そこから言葉や心の声、ため息までもが聞こえてくるようでした。カーテンコールの際までも恥ずかしそうにサンダース演ずるエルガーの目を見つめ、腕を組んでゆっくりと彼の後をついて幕に入っていたゼナイダの完璧な役作りには非常に感動しました。その他には、初演の際アンソニー・ダウエルが演じた嵐のような激しい動きで気性の激しさを特徴とするトロイトをエドワード・ワトソンとリカルド・セルベラがそれぞれ好演。少女ドーラ・ペニー役を演じたファースト・アーティストのイオナ・ルーツはクリアーなフットワークと愛らしい表情で観客を魅了しました。イザベル・フィットンを演じたマリアネラ・ニュニアスとベリンダ・ハットレー、ウィニフレッド・ノーブリーを演じたジリアン・レヴィーとヴァネッサ・パルマー、4人の女性ダンサーのパ・ド・ブレからだけでもそれぞれの役柄を見ることが出来る表情の豊かさと音楽性がとても印象的でした。まさにRBダンサーの表現力の高さを証明する作品です。

このプログラムの最後を飾ったのはマクミランの『春の祭典』。1962年に初演された際、主役(いけにえ)に大抜擢されたのは当時20歳でコール・ド・バレエの一人だったモニカ・メイスン(現芸術監督)。メイスンの指揮のもと1987年以来RBでは上演されていなかったこの作品がよみがえりました。初演の美術デザイナー シドニー・ノランによるアボリジニ民族からインスピレーションを受けているヴィヴィットなオレンジのユニタードに顔面白塗りという姿、そして仮面ライダーなどのヒーローものに出てくる悪者を思い起こさせるようなバレエからかけ離れたステップは非常に衝撃的でした。しかしストラヴィンスキーの力強い音楽がその1つ1つの動きに映し出されている点では、さすがマクミランの音楽性と実感します。今公演でいけにえを演じたのはタマラ・ロッホとゼナイダ・ヤノウスキー。タマラの踊りには生命力の強さが非常に強く映し出されており、その生命が突然絶たれる悲劇性が印象的でした。対してゼナイダの踊りからは誰も救うことの出来ない絶望感がひしひしと伝わってくる異なる悲劇性が見られました。本当にこのまま死んでしまうのではないか…と心配になるくらい体力と感情の極限が見える迫真の演技に、最後には観ている者までもが虚脱感を覚えました。カンパニー全体の力強い演技も非常に印象的でした。

抽象バレエ、物語バレエ、そして完全なモダン作品と、一晩にしてまったく異なるバレエ作品を味わうことの出来る貴重なプログラムだったように思えます。



『春の祭典』

(2005年3月26・30日4月6・7日、ロイヤル・オペラ・ハウス)
 

 

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