船引怜美 Text by Remi Funabiki
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●アラン・プラテルの『ウルフ』、サンフランシスコ・バレエのロンドン公演

 地下鉄の駅エンジェルから徒歩数分のところにあるサドラーズ・ウェルズ劇場(SW)は、ロンドンの最も注目される劇場の一つ。年間を通してイギリスだけでなく、世界中からの様々なダンスカンパニーがここSWに訪れます。「次のシーズンは、どんなカンパニーが来るのか?」とどきどきしながら次のシーズンのスケジュール発表を待ち、発表直後にチケットを予約しに劇場へ…と言うのが毎シーズンのお決まりごとになっています。毎年秋・冬シーズンは10・11月にダンス・アンブレラ(DU)の一部の公演が行われ(後述)、その後約1ヵ月半に及ぶクリスマス・シーズンもあるために、とても内容の濃いプログラムになります。

 今シーズンの幕開きを飾ったのは、2000年に『バッハと憂き世』で来日した振付家アラン・プラテル率いるベルギーの代表的カンパニー、レ・バレエ・C・ドゥ・ラ・B (2004年9月9〜11日)。モーツァルトの生涯からインスピレーションを受けたと言われているプラテルの最新作『ウルフ』はそれぞれ異なる国、バックグラウンド、年齢、階級の人々が互いに理解し溶け合っていく過程が描かれています。時には混沌とした、誰にも止めることの出来ない雰囲気を漂わせながらも、2時間15分(休憩なし)と言う長さを感じさせないテンポで室内音楽、オペラ、ダンス・シアター、サーカスの絶妙なるバランスを保ちつつ繰り広げられました。出演者は19人の小編成オーケストラ、3人のオペラ歌手、2人の聴覚に障害を持つダンサーを含む12人のダンサー、そして最も注目された14匹の犬。プログラムにも14匹のそれぞれの名前が載っていて、真のパフォーマーとしての能力に驚かされました。それぞれ異なるダンススタイルをバックグラウンドとする12人のダンサーが、互いに異なるスタイルを教え合い理解を深めていくシーンや、聴覚に障害を持つダンサーが踊ることを通して「音楽とは何か?」理解していくシーンには、何か勇気づけられるような感覚を覚えました。
 ダンサーの並外れた身体能力やテクニックは〈どこから、こんなに優れたパフォーマーを集めたのだろう?〉と思うほど目を見張るものでした。なかでも「アイ・アム・シルヴィ・ギエム〜」と叫びながら、『白鳥の湖』、『ドン・キホーテ』、『エスメラルダ』を思い起こすステップを狂ったように踊りだし、フェッテのロンデ・ジャンブの脚の下に男性が滑り込んでも微動だとせず回り続けるバレリーナ、ラファエル・ドゥロネに釘付けになりました。1997年パリ・オペラ座からピナ・バウシュの元への移籍し、その後NDTなどでも活躍していたラファエロをこのカンパニーで観ることが出来るとは、思ってもいなかった感動でした。

 アラン・プラテルの強烈なインパクトで幕を開けた2004年秋・冬シーズンですが、今シーズンは比較的バレエの公演も多く、特徴としてはアメリカン・テイストとブリティッシュ・テイストの味比べと言ったところかもしれません。

 アメリカン・バレエは、アメリカが誇るバランシン・プログラムが中心となります。サンフランシスコ・バレエ(2004年9月20〜25日)がその先頭を切り、バランシン作品を中心に全10作品を上演しました。ヴェルディの音楽を使用したバランシンの『バロ・デラ・レジーナ』ではパステルカラーのレオタードに身を包んだダンサーが爽快にバランシン・ステップを繰り広げました。バランシンの代表作品として挙げられる『フォー・テンペラメンツ』では、『バロ・デラ・レジーナ』とは異なったダンサーの音楽性が見事にムーブメントに映し出されていました。シャープな動きの中にも、ちらりと見える女性の色っぽさが印象的でした。デンマーク・ロイヤル・バレエとボリショイ・バレエでも踊っていたプリンシパル・ダンサー、ユーリ・ポソホフ振付の『スタディー・イン・モーション』では、4組の男女が叙情的に絡み合う振付で純粋にムーブメントの美しさを訴えかけました。そのなかでもヤン・ヤンタンのエレガントな踊りが一際目に焼きつきました。満員のSWはロンドンではなかなか見ることの出来ないアメリカン・バレエに完全に魅了されました。

 そのほかのアメリカン・バレエとして、バランシンの本家本元ニューヨーク・シティー・バレエ(NYCB)のプリンシパル(ウェンディー・ウェーラン、マリア・コウロスキー、ジョック・ソトら)によるガラ公演:ダンス・コンチェルタンテは2004年10月19〜23日の予定。ニューヨーク以外では初公開となるバランシンの『扉とため息のためのヴァリエーション』ほか、クリストファー・ウィールドン、ピーター・マーティンス、NYCBプリンシパルのベンジャミン・ミルピエ作品を上演予定。「これぞバランシン・テクニック!」を堪能できることでしょう。11月12〜27日の2週間はマーク・モリス・ダンス・グループが“くるみ割り人形”の舞台を1970年代に移し改作した『ハード・ナット』を、DU 2004の最終プログラムとしてSWで上演予定。マシュー・ボーンも影響を受けたというモリス版の“くるみ割り人形”、アメリカン・テイストならではの強烈な印象が期待されます。

ダンス・コンチェルタンテ

『ハード・ナット』
 対してブリティッシュ・テイストとしてまず挙げられるべきは、シルヴィ・ギエム&バレエ・ボーイズ(9月28日〜10月2日)、『ブロークン・フォール』、『トゥウ』、『トーション』3つのラッセル・マリファント作品が上演されました(公演レポートは来月号に予定しています)。10月26〜30日は、バーミンガム・ロイヤル・バレエのロンドン公演。アシュトン『二羽の鳩』、バランシン『ウェスタン・シンフォニー』とデビット・ビントリーの3作品『ナッツ・クラッカー・スウィーティーズ』、『オルフェウス組曲』、『シェークスピア組曲』を上演予定。『ナッツ・クラッカー・スウィーティーズ』は“くるみ割り人形”をジャズ風にアレンジした一幕作品、ここでもイギリスらしい味付けを楽しむことが出来るのではないでしょうか。 もう一つのイギリス・バレエは2005年3月31日〜4月10日上演予定のノーザン・バレエ・シアター、デヴィット・ニクソンの最新作『ピーター・パン』。前回の『真夏の夜の夢』も大変好評でしたが、この作品も完成度の高さが期待されます。SWを我が家とするランベール・ダンス・カンパニー(11月2〜6日)は、アシュトン作品を重視した春の公演とはうって変わって、マイケル・クラーク振付の『スワンプ』などのコンテンポラリー作品を上演予定。ランベールの底力を見せてくれるのではないでしょうか。


『トーション』

『ピーター・パン』

『Swan Lake』

『Swan Lake』

 そして最も注目されるクリスマス・シーズン(11月30日〜2005年1月16日)は、マシュー・ボーン『Swan Lake』 がSWに戻ってきます。1995年の衝撃的世界初演から10年、改めてこの作品のすごさを認識することになるのでしょう。カンパニーのキャスト発表によりますと、残念ながらアダムのSwanを観ることは出来ないようですが、ジョージ・パイパー・ダンスのオクサナ・パンチェンコと元RBの美人演技派ダンサー、ニコラ・トラニャの女王役挑戦や新しいニュー・アドベンチャーならではの『Swan Lake』を観ることが出来るでしょう。今からクリスマスが待ち遠しいです。

(スケジュール、上演作品に関しましては変更になる場合があります。詳細はサドラーズ・ウェルズ劇場公式ウェブサイトをご参照ください。)
(アラン・プラテル、『ウルフ』9月10日、サンフランシスコ・バレエ、プログラムB、9月21日)
 

 

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