関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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Co. 山田うんの新作『ドキュメント』

 独特のユーモアとフィジカル感覚、少々自虐的な表現などユニークなダンスを創る山田うんの新作『ドキュメント』。男性7人、女性5人のダンサーが踊った。衣裳はダンサーそれぞれ思い思いのものだが、ひとりだけスーツにネクタイ、眼鏡の男性ダンサーが混じる。
 素の舞台だが、2カ所に大きなクッションが置かれている。時折、このクッションにダンサーが頭を突っ込んで、逆立ち状態になったり、おもしろいヴィジュアルを作っていた。

 オープニングはバラバラとダンサーが登場。ピアノ曲が流れ、山田うんと男性ダンサーのデュオが始まる。お互いの身体をもたれかけ合ってバランスが崩れて床に落ちそうになる寸前、パートナーの身体に掴まって起き上がり、また身体をもたれかける、といったこんがらがった動き。これがなかなか見応えあって、終わりそうで終わらない身体の野性的な活力を感じさせられた。
 ソロダンスがあちこちで踊られたり、奇妙な動きが展開されたのちにダンサーが集まって群舞などがあった。

 一転して、「すみれの花咲く頃」などの懐かしいメロディに、手話風の動きから始まるソロなどの興味深いシーンがあり、最後は、冒頭のこんがらがったデュオが集団となり、上手手前から舞台中央の奥にまでこんがらがったまま進み、山田うんならではの雰囲気を舞台に残し幕。
 山田自身の新しいダンス表現の模索が感じられ、プログラムに解説されていた「今、は最新で懐かしい」という言葉を実感させるかのような舞台だった。
(3月20日、吉祥寺シアター)


康本雅子の『チビルダミチルダ』

 人気急上昇中の康本雅子の新作『チビルダミチルダ』を観た。
 小さな会場ながらソールドアウトでチケットはプラチナになり、追加公演が行われ、開場のだいぶ前から当日券を求めて長い列が出来ていた。他のコンテンポラリー・ダンス公演よりも男性の観客が多く感じられる。

 きらきら光るモールで客席と舞台を区切る。上手の天井からも太いグリーンのモールがゆったりと床まで垂らされている。左右にシーサー風のやはりキラキラ光る犬の切り抜きのようなオブジェ。女の子の空想がはじけたような空間に、おもちゃのキャスター付きバンビを引いて康本が上手より登場する。少し踊って下手に去るが、そこにはお能や歌舞伎の花道の出入り口みたいになっていて、幕が上がると女3人、男2人のダンサーが四つん這いになってにじり出てくる。それぞれ毛皮のベストを着ている。どうやら犬らしい。うさぎや狐なども入り乱れてのダンス。うさぎの運動会や狐に油揚、あるいはお稲荷さんの前に居る狐の面を着けた踊りなどが展開しエピソード風のシーンもある。

 動きは、動物の無垢な動きというか感覚がそのまま現れたようなもので、身体は常にリズミカルに動いていて、ヴァラエティに富んだ音楽とともにダンスシーンは、じつにナチュラルに流れている。素晴らしいプロポーションの康本のダンスが、上手く例えられないのだけれど素敵だった。
『不思議の国のアリス』ばりに動物たちが自由に活躍し、空想が羽ばたくようなダンスだった。
 プログラムも手書きの文字と絵を思いのままに組み合わせて、なかなかおもしろい表現が楽しめる。何度も手にとって眺めた。トレペに印刷されたチラシも人気だそうだ。
(3月13日、アサヒ アートスクエア)


Tokyo Dance Market 2008の三作品

 Tokyo Dance Market 2008が開催され、ナチュラルダンステアトル、UESHIMA theater、Dance Company BABY-Qという三つのカンパニーのダンスがA・Bの2プログラムにより上演された。

 Bプログラムを観たので、中村しんじ演出、川野眞子脚本・振付による:ナチュラルダンステアトルは『さーかすII』だった。(Aプログラムの『さーかすI』は川野眞子と笠井瑞丈のデュエット)
 刺青を露にした川野眞子のダンスに連れて、はぐれ者風の黒い着物のコール・ドが踊る。日本の社会に正面から参加することのなかった人たちの情念に、人間の本質的エネルギーがあるのではなないか。「どこかにはみ出してゆかねば、生きて行けなかった社会」に、<サーカス>的な世界を対置したダンスである。
 Dance Comoany BABY-Qは、昨年、多摩美術大学図書館アートギャラリーで初演された、演出・出演、東野祥子・大橋可也の『9(nine)』を上演した。
 まず、大橋が台車に黒い袋を載せて登場。その袋をゴロリと舞台に降ろす。その袋の中には人間が入っていた。袋から抜け出してきた東野が、中原昌也のノイズミュージックが流れる中、踊り始める。大橋は、下手手前にパイプ椅子に座って客席を眺め、しばらくすると踊っている東野には目もくれずに引っ込んでしまう。結局、二人はなにも交わし合うことがなかった。お互いにまったく感心を示さない珍しいデュオだった。
 UESIMA theaterは、上島雪夫の演出・振付『中心感覚..』。「起きていたいのに眠くてしようがない・・・眠いのになかなか眠れない・・・」そういった現実の中に生まれる幻想をダンスにしたもの。
 マクラを抱えて寝間着姿の上島が登場し、眠ろうとするが眠れない中、様々の幻想の中で中心点を求める。中心に位置して世界を感じたらどうか、というある男の試みのダンスだった。
(3月8日、恵比寿エコー劇場)


ナチュラルダンステアトル

ナチュラルダンステアトル

Dance Comoany BABY-Q
ナチュラルダンステアトル Dance Comoany BABY-Q Dance Comoany BABY-Q
UESIMA theater UESIMA theater UESIMA theater

中国雲南省の舞踊、ヤン・リーピンの『シャングリラ』(理想郷)

 ヤン・リーピンは、創作舞踊のソロ作品『孔雀の精霊』で中国で著名になった舞踊家。彼女はは雲南省の少数民族ペー族の出身。故郷の素晴らしい舞踊がしだいに失われていくのに危機感を覚え、この地方の舞踊や歌の<原生態>を収集する。そのうちに構想がどんどんふくらんで、『シャングリラ』が制作されたのだという。
 プロローグの「創世記」から「太陽」「大地」「故郷」「聖地巡礼」そしてエピローグの「孔雀の精霊」に至る、という構成である。

「聖地巡礼」が素晴らしかった。ふたりで担いでやっと運べるような巨大な長いラッパが4台も舞台に担ぎだされてきて、厳かな轟音が吹奏される。これが儀式の始まりを神に告げる合図だそうだ。
 背景は、天高く雄大なヒマラヤの峰々が雲を戴いて聳え、そのひとつの高峰の上で長い袖をたゆらせて舞姫が舞う。老人がお経の文句を刻んだ石を聖なる場所に黙々と運び堆く積み上げている。
 突如、ヒマラヤの中腹が裂け、チベット仏教の読経の際に使われる転経筒をくるくる回しながら一団が踊り始める。これを回して身体と精神の統一をはかるのだ。さらに巨大な転経筒が後光を浴びて現れて舞台の上でくるくると回る。真っ赤な長い袖を振り乱して踊る女性たち。転経筒を回すたびに経文を唱えたことになり、真っ赤な長い袖はその人物の波瀾の人生を表すという。チベット独特の面を着けた一団も踊り、激しい群舞が続く。そして秘術のような「孔雀の精霊」の踊りで幕が降りた。チベットの神秘的な色彩と造型がめくるめく繰り広げられた、夢のようなひと時が終わった。

 おおらかな愛、大自然のほんの一部としての人間。虫にも植物にも石にも神が宿るアジア。信仰のためにのみ生きるチベットの人々。「金色の峰にある金色の湖、そこに生える金色の木の枝に金色の鳥が止まってさえずる」という、まさに感動的な<理想郷>のイメージを眼前にすることができた公演だった。
(3月18日、オーチャードホール)


『シャングリラ』

ヤン・リーピン

 

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