関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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サシャ・ヴァルツ&ゲスツの『ケルパー(身体)』

 サシャ・ヴァルツは今日のドイツを代表するコンテンポラリー・ダンスの女性振付家である。アムステルダムやニューヨークでダンスを学んだ後、1999年から2004年までベルリンのシャウビューネ劇場のダンス部門の芸術監督を務めた。この時に、サシャは身体に関する3部作を発表したが、『ケルパー』はその最初の作品である。
 モノクロームの舞台の中央やや下手よりに、黒い大きな壁面が置かれていて、その背後からダンサーが出入りを繰り返す。男性ダンサーも女性ダンサーも肌色のパンツを着けただけだが、黒いスーツその上に着ることもある。
 音楽はかすかなノイズや現実音をアレンジしたもの。
 舞台上では、ダンサー同士の間で身体の機能や形体への関心が様々な形で、あらゆる組み合わせで表される。ダンサーが自身の身体にまつわる話を語り始める。身体の歴史や機能、弱点、状態などを4人のダンサーが観客に語りかける。
 大きな壁面には、中央に長方形の窓があり、数名のダンサーが上から下りてきたり、重なったり横になったり、胎児のようにゆっくり動いたりする。それはまるで、宇宙船の中の無重力状態を見ているようだった。
 サシャは、ピロボラスなどのアメリカのモダンダンスの楽天的な身体観やフランスのヌーヴェルダンスのエスプリの追究とも異なって、身体の神秘性あるいは精神の及ばない部分を明らかにしようとしているのではないか。
 サシャの舞台は身体性を追究してかえって身体のカオスを提示した。そして身体はまた、ますます日常的な世界の中で神秘的な存在へと変貌しつつあるかのようにも見えてくる。

(7月28日、彩の国さいたま芸術劇場大ホール)

イスラエルのダンスと日本の舞台美術家、クリエーターのコラボレーション

『from the Mediterranean Sea and the Pacific Ocean』
KAyM
『地中海の東からの風に乗って』と題された、イスラエルのコンテンポラリー・ダンスと日本の舞台美術家、クリエーターとのコラボレーションが行われた。
 イスラエルからは、ニムロド・フリード、ジュラ・クサクバリ、イツィック・ガバイ、日本からはダンサーグループのKAyM、舞台美術家の集団KKISが参加した。
 舞台美術家たちが創ったオブジェが置かれた劇場のロビーで、パフォーマンスが始まる。イスラエルのフリードが振付け、KAyMが踊る『A Hole in the ViewU』である。半裸の男性ダンサーがオブジェの間を縫って走り、絡み合う。オブジェとダンサーが不思議な造型を見せる。
 観客が客席に戻り、舞台ではクサクバリが振付けた『Menya』が始まる。舞台中央に巨大な目が吊るされていて、目玉がぎょろぎょろと動く。ドキッとさせられる生々しくシュールなセットだが、よく見ると眼球の形状のものに目玉の超アップのビデオ映像が映されているのである。巨大な眼球の下でクサクバリ自身がソロが踊る。奇妙な動きが展開されるが、舞台上に白い粉がうっすらと撒かれていて、ダンサーの動きの軌跡が記されていく。
 フリードが振付け、ガバイが踊った『Blue Hole』は、民俗的な仮面とカツラを付け、不気味な笑い奇妙な動きを繰り広げたソロ・ダンスである。
 最後のクサクバリがKAyMのダンサーに振付けた『from the Mediterranean Sea and the Pacific Ocean』が最もおもしろかった。1メートル50センチくらいの細い棒をそれぞれのダンサーが手に持って踊る。棒を使って様々のポーズをとったり、棒を1本持っただけで、じつに様々な表現を創ることができるのに驚いた。振り回したり、天に捧げたり、ダンサー同士の身体のつっかえ棒にしたり、引っ張り合ったり、そうしたものがいろいろと組み合わされて、多様な表現のヴァリエーションが生まれてくるのである。
 終演後に再びロビーで、イスラエル対日本のダンサーたちのパフォーマンスも行われた。

『A Hole in the View U』
KAyM
『Menya』 『from the Mediterranean Sea and the Pacific Ocean』
KAyM
(8月16日、六本木ORIBEホール)

アクロバティック『白鳥の湖』/広東雑技団

ウ・ジェンダン、
ウェイ・バォホァ
 驚天動地とはこういうことをいうのだろうか。昨年の夏、アクロバティック『白鳥の湖』を観た時にそう思った。
 オデットがジークフリートの肩の上でポワントで立っている!さらに、オデットはジークフリートの頭上で完璧なバランスをとり、ポワント立ちしてしまった!
 なにがどうなっているのか、良く判らなかった。頭の上に人間がただ立つだけでも恐ろしい気がするのに、薄い頭蓋骨の上にポワントで立つなんて想像もできないことだった。しかし、それだけスーパーバランス、完璧なバランスを保っているから立つことができて、なおかつ美しいのだろう。
 白鳥に扮して世界を驚かせたのは、ウ・ジェンダン、王子として彼女を支えたのはウェイ・バォホァである。ウ・ジェンダンは6歳で新体操を始めたがアクロバットに転向。ウェイ・バォホァは13歳でアクロバットを始めたという。二人は1992年にペアを組むようになり、96年に広東雑技団に入団した。以来、ずっとペアを組んでおり、私生活でも夫婦となって公私ともにパートナーである。
 アクロバット『白鳥の湖』は、チャイコフスキーの音楽を使い、バレエの『白鳥の湖』の設定をもとにして、様々の曲芸を見せながら展開していく。本家の『白鳥の湖』のもつ神秘的な雰囲気を活かして、マジカルなスペクタクルを次々と繰り広げるのである。もちろん見せ場は、白鳥と王子のこの世のものとも思えない離れ業とその美しいアラベスクである。
 そして昨年彼らは、『白鳥の湖』を生んだ国、ロシアで公演を行い評判となり、ついには世界的名花、ガリーナ・ウラノワの名を冠したウラノワ賞を受賞。02年にはサーカス界のアカデミー賞とも言われるモンテカルロ国際サーカスフェスティバルの最高の賞であるゴールデンクラウン賞も受賞している。
ウ・ジェンダン、ウェイ・バォホァ
(8月9日、bunkamuraオーチャードホール)
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