今年の梅雨は、関東地方ではあまりはっきりしません。長雨というわけではありませんが、曇り空が続き、時折、パラパラ降る、そんな梅雨です。しかし、九州では豪雨、沖縄は夏空。ダンスはサマーシーズンを迎え、フェスティバルやツアー公演が花盛りとなって、色彩が鮮やかな舞台が繰り広げられることになります。
牧阿佐美バレヱ団のウエストモーランド版『眠れる森の美女』
牧阿佐美バレヱ団の『眠れる森の美女』は、英国ロイヤル・バレエ団やスウェーデン・ロイヤル・バレエ団で活躍したテリー・ウエストモーランドが、プティパの原典に基づいて演出・振付けている。
近年の古典全幕バレエの改訂・演出は、テンポの速い舞台に慣れた観客の鑑賞の習慣に合わせて、ディテールを省略することが多い。簡単に言うと、物語の大筋にあまり関与しないもの、ディヴェルティスマンを整理して、せっかちな観客をドラマの中に入り易くしているのである。そうしたやり方自体はあるいは問題はないのかもしれない。
古典バレエであるから原典がある。もちろん、古典バレエの作品にはそれぞれに運命があり、多くの場合、原振付は失われてしまっている。しかし、『眠れる森の美女』の場合は、ノテーションが発見されており、そこから原振付をかなり正確に推定できる。
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| 伊藤友季子、逸見智彦 |
伊藤友季子 |
ウエストモーランドは、プティパの原典に依拠し、それぞれの振付・演出がなぜそのように行われたのか、を深く正しく理解し、その上で新たな演出・振付を行おう、と心がけている。そのために、少々まだるっこいくらいマイムを多用して、それぞれのシーンで描くこと確認しているかのように見えるのである。
そしてウエストモーランド版は、このバレエは、妖精と人間が共存している世界の物語である、ということを明確に捉えている。最初はおとぎ話から始まったのに、いつの間にか心理劇になったり、ヒロイックファンタジーになってしまったりする、そういうことには決してならないのである。
マッツ・エックのように、心理劇として完全に捉え直す演出もあるが、それはどちらかといえば、演劇的展開の問題意識であり、古典バレエとはまた異なった舞台芸術といえるのではないだろうか。
たとえば第2幕で、100年の眠りから目覚めたオーロラ姫とフロリモンド王子が愛と喜びのパ・ド・ドゥを踊る。あまり長くなく特に鮮烈なテクニックを駆使したパ・ド・ドゥではないが、おとぎの国の出来事がリアリティをもって感じられる、じつに感じの良い美しいダンス・シーンであった。そしてこのシーンが輝くのは、それ以前に丁寧に描かれた無数のディティールがあったからなのである。
初役のオーロラ姫を踊った伊藤友季子は、そこはかとない女性らしさを漂わせ、華麗な踊りでじつに豪華な雰囲気を感じさせるダンサーとなった。やはり初役だったフロリモンド王子の逸見智彦は、王子役が板に付き貫禄をみせた。さらに贅沢を言わせてもらえるのならば、お互いに音楽的に響き合う感覚がやや弱かった気がする。フランスの王子の菊地研、スペインの王子の今勇也の踊りが印象に残った。
(6月16日、ゆうぽうと簡易保険ホール)
服部有吉の振付によるシンフォニック・バレエ『ラプソディ・イン・ブルー』
服部有吉が14名の男性ダンサーに振付けた舞台である。
主演は、服部自身とラスタ・トーマス、辻本とも彦、大貫真幹、横関雄一郎、TAKAHIROという、今が盛りの6人のダンサーで、衣裳は白いシャツと黒いパンツ。脇を固める8人はカジュアルにリラックスしたスタイルで踊った。
バレエ、コンテンポラリー、ヒップホップなどのストリート系のダンサーが混じり合って、次々とダンスシーンを展開していく。それぞれのダンサーがもつキャラクターが上手く組み合わされていて、得意技もさり気なく披露される。どこから見ても、じつに優れたバランス感覚を感じさせる見事な構成になっている。
音楽は、ドビュッシー「月の光」、メンデルスゾーン「イタリア」、バーバー「アダージョ」、シェーンベルク「浄夜」、ガーシュウイン「ラプソディ・イン・ブルー」が、舞台上のオーケストラ(東京フィルハーモニー交響楽団、大阪センチュリー交響楽団)で演奏された。
素晴らしい指揮と音楽監督は金聖響で、ピアノの松永貴志も参加し、活躍した。
ラスタの身体能力の鋭さ、辻本の鍛え抜かれた身体、大貫の端正な踊り、服部の情感豊かな身体の魅力などが渾然として、ダンサー同士には観客にはうかがい知ることのできない特別な感情が行き交っているのではないか、とすら感じられた。
最後に松永のピアノで『ラプソディ・イン・ブルー』が演奏されると、服部がいうところのフリー・スタイルのダンスが鮮やかに花開いたように、ダンサーたちの活き活きとした舞台が現出した。
服部らしい、瀟酒で清潔感が漂う楽しいダンスだったし、ダンスの良さ、素晴らしさを満喫することのできた公演だった。
(6月15日、オーチャードホール)
NBAバレエ団のトゥール・ヴィヨン公演
NBAバレエ団の第4回トゥールヴィヨン公演が行われた。今回は、芸術監督の安達哲治振付の『カレイドスコープ』、ノースウエスト・フロリダ・バレエ団などアメリカで活躍するトッド・アレン振付の『ディメンションズ』、そしてトワイラ・サープ振付の『ナイン・シナトラソングス』が上演された。
『カレイド・スコープ』は、クラシック・バレエの様々なテクニックを駆使して、変幻するフォーメイションを見せる舞台。背景に映す色に変化を与え、チュチュの軌跡を美しく描く。原嶋里会とヤロス・サレンコ、猪俣陽子と秋元康臣の二組のカップルを中心に、52名におよぶ全出演者が一糸乱れず、流麗な流れ展開した。
一転してトッド・アレンの『ディメンションズ』は、現代のアメリカのダンスらしく、レオタードを着けたダンサーたちの身体が描くラインを強調してみせる。身体そのものへの限りない探究心が感じられるダンスである。
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| 『カレイドスコープ』 |
舞台のほぼ中央に大きなフレームをセットし、女性4人と男性4人のダンサー様々な動きの変化を作る。するとフレームの内と外に、微妙な違いが現れ、動きの見え方が変わってくるのである。
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| 『ディメンションズ』 |
サープの傑作『ナイン・シナトラソングス』も上演された。ヒールの高い靴を履き、柔らかいドレスを纏った女性ダンサーとタキシード姿の男性ダンサーが、7組のカップルとなって、めくるめく踊り回る。女性をリフトし、振り回し、回転させて、まるでアイスダンスのようなアクロバティックな技も随所に見られた。
シナトラのムーディな感情を揺さぶるような歌にのせて、時にコミカルでもあるがじつにすぐれた振付が展開された。
それにしても、サープが振付けるとなぜこんなにダンサーがセクシーに見えるのあろうか。
(6月1日、メルパルクホール)
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