佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
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馬場ひかりダンスプロジェクト『まんだらげ』


『まんだらげ』
馬場ひかり
 現代舞踊界で確固たる地位を占める馬場ひかりが主宰するダンスプロジェクトが、新作『まんだらげ』を上演した。曼荼羅華(まんだらげ)を「生まれ、成長し、消滅する、身体のコスモロジー」ととらえ、この天上の花を通じて曼荼羅の宇宙観に迫り、宇宙と身体の対話を図ろうとした作品という。「四角とまるの図形の中にすべてを閉じ込めた命のかたち」である曼荼羅は、とりもなおさず「自己と世界の繋がりを明らかにする場所」であると解釈する馬場が、作・演出・振付のすべてを手掛け、自ら主要なパートを踊った。ほかに11人の女性ダンサーが出演した。

『まんだらげ』
馬場ひかり

 白い衣裳のダンサーたちは、例えば二重の環を構成し、その内と外の環とで反対方向に進むなど異なる動きを取ったり、また縦一列や対角線上など直線を強調して踊ったり、集散と離散を繰り返したり。手や腕の振りには、仏像や仏画に似たポーズも取り入れられていた。曼荼羅について深い知識はないが、踊りの構成は秩序ある世界を感じさせた。
 馬場のソロは何といっても存在感があった。群舞が守護神なら、馬場は仏陀にたとえられようか。馬場のゆるやかな回転や、スピードを増していく律動的な旋回は、内から涌き出てくるエネルギーを素直に形にしたという印象を与えた。そして、着物の帯のような雅な布を引きずって舞う姿は、降り注ぐ白い花びらの演出も手伝って、清浄な世界を提示しているようにも思えた。
 床に大小の四角や円形を描く照明や、投影される波紋や木の葉の映像、そして梵鐘に似た響きやノイズ、宇宙的な音響も織り込んだ音響効果なども、ステージ上で展開される曼荼羅の世界と共振するように用いられていた。

(3月14日、俳優座劇場)

能美健志ソロパフォーマンス『ビオトープ』
「能美健志&ダンステアトロン21」として群舞やデュオの作品を創作してきた能美が、初めてソロ作品に挑んだ。タイトルの『ビオトープ』は、生物群集が有機的に結び付いて生息する自然な環境の意味だろうか、エコロジーへの関心の高まりと共に、脚光を浴びるようになった言葉である。東京・月島にある元倉庫の一室を会場に選び、部屋の一隅を踊りの空間とし、客席とつながる形にしたのは、一種のビオトープの提示かも知れない。演出・構成には、能美と何度か協同している作曲家で歌手のさとうじゅんこも加わっている。



 無音の中、暗闇が少し薄れると、床に座る能美の姿が認められる。黒のとっくりに黒のズボンだ。そのシルエットが拡大して壁に投影され、のっそり動き始めた。サインのような仕草を繰り返し、あんぐり口を開けてもみせる。流水の音や車の騒音も聞こえてきた。一旦退場した能美は、ウサギのような長い耳をつけて戻ってきた。四つん這いになり、何かをむしり取っては口に運ぶ動作を繰り返し、ウサギらしからぬ獣性ものぞかせた。ウサギの耳をはずし、黒のロングドレスになって、激しくのたうち回りもした。


 光の円環や棒状の光が揺れ動く映像が空間の奥行きを深めたと思ったら、突然、能美の顔が映し出された。口をすぼめ、舌先を出しと、滑稽な表情を見せるその顔が三つに増え、極端に縦長に引き伸ばされたかと思うと、いくつもの正方形に分割された画面に、クローンで増殖したような同じ顔が映され、壁一面を埋め尽した。白のランニングにゆったりズボンに着替えた能美は、腕を羽のようになびかせたり、頭上で交差させたりして、別の生き物をイメージさせた。こうして一時間にわたり、様々に変化(へんげ)し、雑多な生き物がうごめくビオトープの諸相を伝える一方で、奇怪さやひょうきんさなど、普段は見せない自己の発露を楽しんでもいたようだ。 

(3月16日、テンポラリー・コンテンポラリー)

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