マリインスキー・バレエ『海賊』
ガラ公演に続く演目は、この作品をレパートリーに持つバレエ団は希少という『海賊』。だが日本では、同じサンクトペテルブルグを本拠とする別のバレエ団が何度か上演しているので、馴染まれているほうだ。
| 上演したのは、プティパの振付に基づき、グーセフが1955年に改訂した版で、前芸術監督のヴィノグラードフが1987年に復活させたもの。嵐で漂着した海賊の首領コンラッドと、彼らを助けたギリシャの娘メドーラとの恋を軸に展開するが、娘たちを捕らえた奴隷商人ランケデムや彼女らを買い取ったトルコ総督、首領に反逆するビルバンドらがからみ、コンラッドらが彼女を救出して海に逃れるまでが描かれる。筋運びは荒っぽいが、それを見所の多いバレエシーンや、荒れ狂う海のスペクタクルな描写、ハーレムの場で背後に噴水を設けるといった仕掛けで補ったような形だ。なお、ガラ公演などでよく取り上げられる“海賊のパ・ド・ドゥ”は、実際は二人による踊りではなく、海賊アリとメドーラにコンラッドが加わるパ・ド・トロワとなっている。 |

『海賊』
ヴィシニョーワ、サラファーノフ |
ダンサーでは、何といってもメドーラ役のウリヤーナ・ロパートキナが輝いていた。冒頭の海岸では細い脚を高らかに振り上げて溌剌と舞い、奴隷商人に強いられた踊りには憂いをまとわせ、グラン・パ・ド・トロワでは、美を造形するように、どのような動きからも優雅さを立ち昇らせた。共に踊ったアリ役のイーゴリ・ゼレンスキーは、宙を切り裂くような跳躍や律動的なピルエットで応じたが、自身の感情を出さずに首領の忠実な部下という役柄に徹していた。コンラッドのエフゲニー・イワンチェンコは、逞しいジャンプを披露するなど、スケールの大きな身のこなしで首領としての存在感を示した。

『海賊』
ヴィシニョーワ、サラファーノフ |

『海賊』
ヴィシニョーワ、サラファーノフ |

『海賊』
ヴィシニョーワ、サラファーノフ |

『海賊』 |
ギリシャの娘ギュリナーラのオレシア・ノーヴィコワは、変化をつけた回転技を鮮やかにこなし、華のある踊りを見せた。群舞では、冒頭でギリシャの娘たちが舞台に跳び込んでくるグラン・ジュテの勇ましさが際立ったが、これは自由な身の象徴のようにも受け取れる。対照的に<生ける花園>では、ハーレムの娘たちが調和に満ちた優美な群舞を織りなしたが、生のエネルギーは希薄だった。ほかにも、洞窟の場で海賊たちによる勢いの良い群舞が舞台を盛り上げたことは言うまでもない。
(12月5日、東京文化会館) |
『海賊』 |
『海賊』 |
東京バレエ団『くるみ割り人形』
数多い『くるみ割り人形』公演の中で異彩を放っていたのが、東京バレエ団が上演したベジャール版。クリスマスの夜に見た夢を描いたのはプティパの原作と同じだが、ベジャール版の主人公はビムと呼ばれていた子供時代の振付家自身で、様々な思い出の連なりの中に、亡き母への思慕やバレエへの情熱が印象深く刻み込まれている。
| 初めて観た時は、ベジャールが日本語で語るナレーションに導かれながら、場面があちこち飛ぶのに戸惑い、巨大な聖母像とその裏側の幼子を抱く聖母の絵が描かれたほこらや、光の天使の奇抜な衣裳や艶かしい妖精に目を奪われた。見慣れるにつれ、全体が見通せるようになり、追憶の一つひとつを懐かしむ振付家の気持ちを感じ取れるようになってきた。きっとダンサーも同じ思いなのだろう、より深く作品に溶け込んだように見えた。 |

中島周、高橋竜太、
吉岡美佳、高村順子、古川和則 |
ビム役の高橋竜太は、飼い猫のフェリックス(古川和則)と遊び、バレエのレッスンに励む、素直でひたむきな少年を自然体で演じた。母役の吉岡美佳は、総タイツでビムと踊る所で、柔らかな身のこなしに愛情をほとばしらせた演技に進境をうかがわせた。マリウス・プティパ、メフィスト、父ともなるM…の役は中島周。プティパとして鋭い身のこなしで手本のような踊りを見せたが、後は場面毎の趣の違いがもっとはっきり出ればと思う。
M...:中島周 |
ビム:高橋竜太、母:吉岡美佳 |
ビム:高橋竜太、母:吉岡美佳 |
小出領子、木村和夫 |
中国など各国の踊りは、ベジャール流の味付けで母を楽しませる余興として披露されるが、原曲にないシャンソンによるパリの踊りが加えられ、井脇幸江と平野玲が小粋な踊りをみせた。グラン・パ・ド・ドゥは、プティパに敬意を表してその振付のまま。小出領子はゆるぎない正確なパを連ねて華麗に舞い、木村和夫も安定したテクニックでジャンプや回転技を気持ち良く決めた。
そして、目覚めたビムが母に似た小さな像を見つけて喜ぶところで終わる。ビムの心の軌跡をたどった舞台からは類まれな多感さだけでなく普通の子供らしさも感じられ、巨匠への親近感が増したように思えた。
(12月6日、ゆうぽうと簡易保険ホール) |
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