関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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 金木犀の甘い香りに誘われて、表に出ると秋色が光の中に輝いていて、なんだか時間が過ぎて行くのがもったいないようなシーズンです。素敵なダンスに遇うと、やはり時の経過にブレーキをかけたくなります。でも、間違ってアクセルを踏まないように。

今月、元気だったコンテンポラリー・ダンスから

 今月も様々なコンテンポラリー・ダンスが上演された。
 森山開次『KATANA』
 まずは、最近、コンテンポラリー・ダンスに大胆に<和のセンス>を映して、各方面から注目を集めている、森山開次のソロ『KATANA』。05年にニューヨークで発表した作品の完全版である。現実音を使った音楽は種子田郷。小宮求茜の書が冒頭を飾り、津村禮次郎の謡も響いた。
 森山の衣裳は白いシャツとパンツだが、素材の感触や貌にはやはり「和」を想わせる雰囲気がある。空気を鋭く切り裂き、飛翔し跳ねる、変幻する動きには、独特の柔軟性があり、知らず知らずのうちに魅了される。終盤のクライマックスには、紅い椿の花弁や花のままを天から降らせる。冒頭の書の墨の記憶と鮮烈な色彩が、微かな血の匂いを客席にまで流した。そして純白の雪が舞台に乱舞し、森羅万象を浄め、ダンスは終焉する。
 なかなか見事な美しい舞台だった。動きが少々単調に陥った時間が無い訳では無いが、ソロ作品でこれだけの時間をみせ、鮮烈な印象を与える力量には感心させられる。独特の柔軟性とシャープな切れのある身体を生かして、さらに大きな舞台を創ってもらいたいと思った。
(9月3日、スパイラルホール)

 コンドルズ『ELDORADO』
 日本縦断黄金郷ツアー2006を展開しているコンドルズも元気。日本を代表する元気といってもいい。演し物は『ELDORADO』、<ニュー・ベスト・オブ・コンドルズ>ということで、現在のコンドルズ・パフォーマンスの集大成ともいうべき舞台である。
 抱腹爆笑したのは、3年Y組のミュージカルだった。オタク少年や先生の描写が、実に実に卓抜している。ネクタイ鉢巻きなどを駆使し、今日の日本人の生態を活写して、ニューヨ−カーを笑いの坩堝に投げ込んで悶絶させた、というかつてのニューヨーク公演のあのセンス、あの描写力である。これを観るだけで、知らざる自分の姿を眺め、心の深奥から元気がふつふつと湧いてくる人もいるだろう。もしも元気療法という処方箋があれば、コンドルズの舞台を観るに如くはない。
 ところところで挿入されるアニメーションや人形劇は、ロックの合間になかなかいい味わいを出している。近藤良平のソロは絶妙だし、ビッグウエンズディものも工夫の後があって良かった。メンバーもそれぞれが自分のキャラクターをしっかり把握し、上手く個性を出している。ヨーロッパ・ツアーも決定したと聞く。
 コンドルズはまさに本日黄金時代。
(9月1日、シアターアプル)

 ROUSSEWALTZ『Presents ! 』
 内田香が率いるROUSSEWALTZが新作『Presents ! 』を上演した。
 オープニングではヒールを投げたりする内田流の女性のこだわりをみせた。そして恋人へのプレゼント、誕生日のプレゼントなどをクラッカーを鳴らしたりして、セレモニー的なプレゼントの交換やパーティなど中にを描いた。しかし、フォーマルな衣裳を表す、長いリボンを捨て去り、男性も女性も黒いスーツを着けて登場すると、一転して激しいダンス。舞台で踊られている様子をそのままリアルタイムで、背景のスクリーンにグレイの淡いトーンで映してシックな効果をあげた。
 第2部は、黒い世界だった第1部とは打って変わって純白。内田のゆっくりした動きのソロ。女性は白い背中の大きく開いたキャミソールのワンピースを着け、男性は上半身裸で白いパンツで踊る。第1部とは対照的に、女性の内面をイメージした表現である。
 そして終曲は全員で踊る「ボレロ」だった。感情と心が融合した新しい女性の誕生を歌うような踊りである。この曲の振付は、あまりフォーメーションにはこだわらず、じつに良く音を拾って濃やかな動きを創っている。流れもスムーズで魅力的な振付である。ただ、作品全体を振り返ってみると、やや創り過ぎかな、とも感じられた。
 最後に、観客へのプレゼントを忘れなかったことは立派というほかない。
(9月29日、目黒パーシモン・ホール)



 DANCE EXHIBITION 2006
 新国立劇場のダンスプラネット No21 としてDANCE EXHIBITION 2006が行われ、Aプロ・Bプロ合わせて10作品が上演された。
 私の関心をひいた作品について述べさせていただくと、Aプロに参加した韓国の男性デュオ『Crush』は、韓国芸術総合学校大学院在学中で、東亜舞踊コンクール現代舞踊「金賞」を受賞しているキム・パンソンの演出・振付である。彼はラ・ラ・ラ・ヒューマンステップスのワークショップにも参加しているという。舞台奥に三本脚の不安定な机が置かれていてる。エレキギターを持ったダンサーと、電源コードを持ってそれを遠隔操作するダンサー。そんな設定で、気持ちが不安定にゆらいでなかなかシンクロしないもどかしさから、クラッシュしていく。



Aプロ『Crush』

Bプロ『no-side』

 Bプロに、中国のやはり男性デュオが参加していた。こちらは、国立北京舞踊学院に学び、世界バレエ&モダンダンスコンクール・モダンダンス部門で金メダルを受賞した高頂(TAKANE)の振付けた『no-side』。道路によく置かれている赤い円筒の先の尖ったの交通標識で、四角いリングを作り、その中でお互いにソロを踊り合う。柔軟で素早く、アクロバティックな要素も盛り込んだ動きで、ショー的にみせていく舞台だった。韓国組は、祖国が分裂し融和できない現状を内面に映しているように見えた。一方、高度成長真っ最中の中国組は、そうした苦悩を背負っておらず、現実的な舞台製作のみを考えているかのように見え、たいへん興味深かった。
 Aプロでは他に、川野眞子脚本・振付の『さーかす』がおもしろかった。桜吹雪の幸子(川野眞子)、一郎(中川賢)、団長(中村しんじ)、フジオさん(ラビリオ土屋)、犬(住吉甚一郎)、見世物の太夫(白井幸子)などのキャラクターたちが、星影のサーカス団とともに生きていく有り様を描く。テレビの初放送があったり、「ああ、インターナショナル…」が高らかに歌われたり、戦後の風俗の変遷の中を、大海に揉まれる木の葉のようにサーカス団とその周辺の人々は踊る。その流れを、サーカスのテントが舞台上に舞って、テント小屋はもちろん、波になったり、灯りになったり、千変万化の機能を果たす。ロマンのイメージを喚起する見事な美術で、これは宇野萬が創った。芸達者なダンサーたちに混じって、若い中川賢が個性を感じさせるダンスを見せ印象に残った。

Aプロ『さーかす』


Bプロ『ケース』
 中川は、Bプロで平山素子構成・演出・振付で彼自身も振付に加わった『Butterfly』も踊った。戯れる二羽の蝶の短い命の生と死を思わせるダンス。非常に速い動きや静止、スローな動きなどのコンビネーションを、単調なリズムだけを刻むサウンドやピアノのソロで踊る。舞い上がり舞い降りる動きの緩急に見応えがある巧みな振付である。ジムナスティックな感じもするが優れた表現力のある平山は、要所で彫像のように決める技を見せた。中川も優れた運動神経を具えた素晴らしい動きだった。
 やはりBプロに登場した新上裕也の『ケース』もおもしろい。デパートのショーケースの中の幻想、といった趣きのダンスだった。照明は、展示物を照らす蛍光灯のみ。このチラチラする灯りの迷宮の中で、解放できる場所を求めて彷徨う幻想の中の自分を描いている。やはり、裕也のダンスはじつに魅惑的だった。

 ほかには中野真紀子振付による『Chopiniana』。長いチュチュと背中にはうすい羽を着けた裸足の5名の女性ダンサーが踊る。クラシックの動きの中に痙攣のような瞬間的な動きがしだいに増えてゆき、ついには羽も落ち、身体は皮膚の中の血脈の形が浮かび上がり、「肉に刻み込まれた感情の揺さぶりに震える細胞」となる。
ロマンティック・バレエに描かれた女性とその実体の「女という存在」のコントラストを描いたダンスだった。また、湊斐美子が振付け、自身が踊ったソロ『人形』は、少女趣味的な残酷さと奇妙さを浮かび上がらせる動きで踊った。吉田良の人形イメージを想起させるダンスだった。
(Aプロ9月15日、Bプロ19日、新国立劇場)



Bプロ『Chopiniana』

Bプロ『人形』
 

 

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