佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。
> > >

●金森穣〈no・mad・ic project2〉:[-festival]

りゅーとぴあ(新潟市民芸術文化会館)専属のダンスカンパニー「Noism」を率いる金森穣が、 自由な発想でプロデュースする〈no・mad・ic project〉(ノーマディック・プロジェクト)の第2弾として、[-festival]と題した公演を行った。 今回は、ヨーロッパのカンパニーで活躍中の、または海外から日本に拠点を移した日本人ダンサーたちに踊る場を提供し、広く紹介しようとするもの。 金森を含め海外での経験豊かな10人のダンサーが、単独で、また共演者を伴って参加、10分前後の個性的な小品10作が次々に披露された。

幕開けは、金森とリズムタッパーの熊谷和徳による注目の初コラボレーション。題して『HIM 』(Here In Mood)。タップダンス用の床にソファと長スタンドを置いただけの舞台。 静寂の中に足踏みの音が響く。何と熊谷の裸足のタップだった。靴をはいての妙味はさらに軽快。さすが“日本のグレゴリー・ハインズ”だ。 下半身の動きが中心の熊谷に対して、金森は腕や胴、脚を複雑にくねらせ、タップの音に全身で反応する。その柔軟な動きを、熊谷は音に読み換えるようにリズムを刻む。 心地よい緊張感にみちた舞台だった。

『HIM』



『Passomezzo』

『off light』

『Sleepless』

イスラエルのバットシェバ・ダンス・カンパニーの稲尾芳文はパートナーのクリスティン・ヒョット・稲尾と、オハッド・ナハリン振付『Passomezzo』と、2人で創作した『Dual Axis』を踊った。両方とも男女の関係性を描いたのだろうが、後者のほうがより直截的、セクシャルに迫った。スウェーデンのクルベリー・バレエの渡辺れいが踊ったケン・オソラの『off light』は、照明が彼女を追い掛けるように始まった。渡辺のスタイルの良さは際立ったものの、少々メリハリに欠けた。 フランス国立マルセイユ・バレエ団の遠藤康行はガブリエラ・イヤコノと自作の『Act.9』を披露。 遠藤のマイムのような振りで始まり、互いの体に足を掛けて崩す動作の繰り返しが目についたが、インパクトは今一つ。

ネザーランド・ダンス・シアターIIの小尻健太と湯浅永麻は、イリ・キリアンの『Sleepless』とP. Lightfoot と S. Leonによる『Post Script』を踊ったが、やはりキリアン作品の完成度が高い。 背景の白い幕に映し出されるダンサーのシルエットを効果的に用い、実と虚や、存在(=生)と非存在の世界を描き出し、奥深さを感じさせた。ダンサーはシャープな動きを息づかせていた。 現在はフリーの大野千里はコスタス・ツウカスを相手に、Andonis Foniadakisの『Again n' Again』を披露した。 ユニゾンやすれ違い、ソロなどで一組の男女の行方をとらえたものだろうが、大野の伸びやかさは生きていた。

『Dual Axis』


『Post Script』

『NINA−prototype』

『3A』


『Again n' Again』
Noismの団員である井関佐和子が踊ったのは、金森の『NINA−prototype』。 イスに座ったまま始まったソロは、バレエ的なポーズを採り入れ、それを崩し、また人間というより別の生物のようなイメージも漂わせながら、動きの密度を高めていった。 締めくくりは、ドイツのフォーサイス・カンパニーの安藤洋子で、日野晃と構成・演出した『3A』を披露した。共演は男性ダンサー2人だったが、存在感のある安藤が2人を従えた観がある。 「まじめに遊ぶ」ことを狙ったそうで、互いに組み合ったり、離散したり、踊りの流れを断ち切りもした。音楽や拡声器の使用を含めて全般に挑発的なだけに、好みは分かれるだろう。

日本での活躍の場が少ない海外の日本人ダンサーたちに光を当てた[-festival]の意義は大きく、実際、ダンサーの技量を実感させられた。 ただ、1作品10分と公平なのは結構だが、それを10本も均等に並べるのが果たしてベストだろうか。 例えば、2作品を踊ったペアがいたが、それを長めの1作品にしたらとも思うが、均衡を欠くだろうか。優れた企画だけに、構成には一考の余地がありそうだ。
(8月10日、めぐろパーシモンホール)

●ルグリとガニオを招いて東京バレエ団が『眠れる森の美女』を上演

 東京バレエ団が、パリ・オペラ座バレエ団から、ベテランのマニュエル・ルグリと新進のマチュー・ガニオを招いて『眠れる森の美女』を上演した。 しかも、相手役は躍進目覚ましい上野水香と小出領子で、共にこのバレエ団でオーロラ姫を踊るのは初めてと聞けば、両方とも見逃せない。 実際、ルグリの格調高いデジレ王子、ガニオのいかにも初々しいデジレ、元気一杯の上野のオーロラ、可憐な小出のオーロラと、それぞれの個性が輝いた。

 最初に観たのは2日目の、ガニオが上野と組んだ日。上野は、若さではちきれそうな無垢なオーロラを演じた。細く長い脚、カーブを描く甲が美しく、ローズ・アダージョでも難しい技巧を次々とクリア。 ポアントも安定していた。ただ身のこなしが少々直線的で、もう少しまろやかさが欲しいと思わせたが、王子との最後のデュオでは滑らかにつないだ。 これは、愛することを知る前と後との変化を伝える、上野なりの役作りだったのだろう。

 ガニオは、2月の『ラ・シルフィード』に続く客演。絵に描いたような王子様で、現れただけでオーラを発する。踊れば、伸びやかな身体、優雅な脚さばきで魅了する。 特に、オーロラの幻を見た後のソロでは、躍動感あふれるジャンプで、彼女への愛や彼女を救う決意を鮮やかに歌い上げた。床に吸い付くような着地も美しい。上野とのバランスも良かった。 ただ、ルグリと比べると、控え目な役作りではあった。この日、小出はフロリナ王女を踊ったが、青い鳥の中島周ともども、端整なパフォーマンスが舞台に華を添えた。

上野/ガニオ


小出/ルグリ
小出といえば、5月の『田園の出来事』のヴェラ役で、あのシルヴィ・ギエムと張り合った演技が忘れ難いが、今度は愛くるしいお姫様役である。 柔らかな肩や腕の使い方、上品なステップで、慈しんで育てられたオーロラを表出。ルグリの素晴らしいサポートに導かれて、抒情性を漂わせて舞った。全体に均整の取れた踊りが、小出の強みだろう。

ルグリは、立ち姿も堂々として、ダンスール・ノーブルならではの美しさ。ガニオと比べると、より力強い、スケールの大きな踊りを披露した。 また、オーロラやリラの精に対しても、大人のムードというか、より積極的な演技を見せた。 さすが手の内に入った役である。この日、リラの精を踊った大島由賀子は、滑らかなステップで物語の進行を促し、カラボスの井脇幸江は、踊り込んだ役だけに、迫力に満ちた演技でドラマを盛り上げた。 フロリナ王女の高村順子と青い鳥の古川和則も、遜色ない出来映えだった。

この舞台では、パ・ド・ドゥや群舞のほか、アンサンブルも見所の一つ。中でも、4人の王子やカラボスの4人の従者、4人のオーロラの友人、4人の宝石の精たちが、そろって様々な回転や跳躍を披露したのには感心した。 少しでもずれれば見苦しくなるところだが、音楽に合わせて気持ち良くそろい、ダンサーたちのレベルの高さを印象づけた。 世界的なスターのまさに模範的な演技を楽しませた舞台だったが、一方で、東京バレエ団の若手の台頭を裏付けた公演でもあった。
(8月17日、18日、東京文化会館)

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。