●圧巻だった熊川哲也の『放蕩息子』〜K-BALLETのTriple Bill〜
熊川哲也率いる K-BALLET COMPANY
の2004/2005シーズンの最後の公演は、バランシンとアシュトン、そして熊川自身の振付作品による<Triple Bill>。
まずは、熊川哲也振付『パッシング・ヴォイス』から幕が開いた。これは03年の夏に「パッヘルベルのカノン」を使って初演された作品である。
今回は、新たにバッハとヘンデルの曲を使った二つのパートが振付られて、最初がバッハ、2番目がヘンデル、最後がパッヘルベルという3章構成の作品となった。
簡略な印象でいうと、最初が明るい青春の輝きに満ちたカップル、次がしっとりとした情感をたたえた動き、最後は男性と女性の情念が交錯する、 といったシーンが展開し、全体で人生のひとつの軌跡が見えるようになっていた。装置も舞台背景に大きな半円形のシルバーの管を加え、一貫した全体性を感じさせるものとなっていた。
音楽の構成や動きの味やコントラストもたいへんおもしろく感じられた舞台だった。 |
『パッシング・ヴォイス』 |
『シンフォニック・ヴァリエーション』 |
『シンフォニック・ヴァリエーション』はアシュトンが、第二次世界大戦終戦直後の1946年に振付け、フォンテイン、シェアラー、ソムズなどが踊った。
音楽はセザール・フランクの『ピアノとオーケストラのための交響的変奏曲』。英国空軍に従軍していたアシュトンが戦争の影響を受け、神秘主義に傾倒していた頃の作品である。
男性三人と女性三人によるムーヴメントが展開する。 黒いラインを生かした白い古典的な造型を思わせるコスチューム、間歇的なピアノ・ソロ、黒い曲線をデザインした背景、
バレエの正統的なステップと片足を曲げ頭をやや傾けたアクセントのあるポーズなどが混淆して、独特の静謐でミステリアスな美しさを描いていく。
アシュトンらしい格調のある精神性を感じさせる舞台である。芳賀望が落ち着いた踊りを見せていた。 |
最後の演目はバランシンの『放蕩息子』。音楽はプロコフィエフ、衣裳・装置はルオーである。
これはディアギレフ率いるバレエ・リュスの最後の年、1929年にバランシンが振付け、リファールとドゥブロフスカが踊り、パリのサラ・ベルナール劇場で初演された。
周知のように聖書の中の挿話に想を得て舞踊にした作品である。過去にはジェローム・ロビンズ、ヌレエフ、バリシニコフ、デュポンなど錚々たる男性ダンサーが<放蕩息子>を踊り、
話題を呼んだ作品で、若い男性ダンサーの超絶的な動きが見所のひとつとなっている。
若さのもつ力、未知への冒険心と若さのもつ愚かさ、苦さがテーマとなっていることはいうまでもないだろう。まず、その若さのエネルギーが華々しく舞台に現れなければならない。
その点ダンサー、熊川哲也のパワーに優るものはないだろう。
単に素晴らしい跳躍力ということだけではなく、バレエ団の芸術監督として、日本のバレエを世界の舞台へ引っ張っていこうとする舞踊家としてスピリチュアルを感じさせる舞台だった。
中村祥子のサイレーンも、放蕩息子が体験する不可思議な得体の知れないものをうまく表現していた。出番は少ないが、ポール・ボウズの父が印象に残った。
(8月25日、文京シビックホール) |
『放蕩息子』 |
●ルジマトフとレニングラード国立バレエのクラシック・ハイライト集
レニングラード国立バレエ団公演に、ファルフ・ルジマトフと彼の強い推薦によりヴィクトリア・テリョーシキナが、キーロフ・バレエ団からゲスト出演した。
まず、クリスマスから暮れにかけて行われるレニングラード国立バレエ団公演で、ルジマトフが踊るブルノンヴィル版『ラ・シルフィード』のパ・ド・ドゥから幕があいた。
エレーナ・コチュビラとアルチョム・プハチョフの清新な踊りだった。アサフ・メッセレル振付、ラフマニノフ曲の『春の水』を踊ったのは、愛らしいエレーナ・エフセーエワとマラト・シェミウノフ。
エフセーエワはワガノワ舞踊アカデミーの来日公演で『人形の精』の主役を踊って人気を呼んだ。
同じワガノワ出身のドミトリー・シャドルーヒンと『眠りの森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥも踊った。
シャドルーヒンはオクサーナ・シェスタコワとサリンバエフ振付、マスネ曲の『タイスの瞑想曲』で落ち着いて安定した踊りを見せてくれた。
『ラ・シルフィード』 |
『タイスの瞑想曲』 |
『眠りの森の美女』 |
新国立劇場バレエ団で踊って、レニングラード国立バレエ団に入団し、既に、オーロラ姫やジゼルなどの主役を踊っている鹿野沙絵子は、ドミトリー・ルダチェンコと『ジゼル』のパ・ド・ドゥ。
つややかな黒髪でロマンティック・バレエの美しさを見せた。
ルジマトフはテリョ−キシナと、コール・ド・バレエを引き連れて『バヤデルカ』の「影の王国」を踊った。
ルジマトフが醸し出す深い瞑想的な雰囲気が素晴らしかったことは言うまでもないが、テリョーキシナの若々しい清冽な、スピードのある動きが美しかった。
やはりロシアからは次々と優れたバレリーナが出現する。ラストは、ルジマトフとシェスタコワとレニングラード国立バレエ団による『パキータ』。楽しくにぎやかに、
<華麗なるクラシックバレエ・ハイライト>の幕が下りたのであった。
(8月9日、なかのZEROホール)
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