関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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●舞台の楽しさを客席と共有するマシュー・ボーンの『愛と幻想のシルフィード』

 マシュー・ボーンの『愛と幻想のシルフィード』(原題"HIGHLAND FLING")は、1994年に7人のダンサーにより小劇場で初演された作品を再創作したものである。 ボーンは彼の創作手法を踏襲して、 ロマンティック・バレエの代表的作品『ラ・シルフィード』の物語の骨格を使いつつ、現代の観客に大いにアッピールする舞台を創った。

 冒頭は、スコットランドのグラスゴーのクラブ「ハイランド・フィリング」の落書だらけの薄汚れた男性用トイレ。 奇妙な形に歪んだセットが組まれている。タータンチェックのスカート(でいいのかな)に革ジャンを引っ掛けた、ジェームズがメロメロになって登場。 彼は恋人エフィとの結婚式を明日にひかえた溶接工で、このクラブでドラッグにまみれ、只今、トリップ中である。 するとジェームズに、空気の妖精シルフが舞っているいるのが見えた……。そんなストーリーが、速いテンポのダンスでぐんぐんと展開していく。
 最初はドラッグの幻想の中にだけ見えたシルフが、しだいにジェームズの現実の中に姿を現すようになる。けれど、もちろんエフィや彼の友だちにはシルフは見えない。 ジェームズは夢中になってシルフを追うが、決して捕えることはできない。彼は、ついに結婚式の最中にシルフを追って家を飛び出す。

 第2幕は、ジェームズとシルフたちの悲しい物語。見事なダンスシーンの連続である。 ラストのエフィとガーンの幸せそうな結婚生活を、シルフの羽を着けたジェームズが窓の外から覗いていいるシーンは、気の利いたエンディングだった。

 ダンサーたちはみんな活気にあふれ、表現するものがはっきりしている。 楽しくて闊達で、観客もダンサーたちと一緒にボーンの世界を体験していることが実感できる、素晴らしい舞台だった。

 Dance Cubeで「私の踊りある記」を連載してくださっている友谷真実さんが、ジェームズに横恋慕するマッジ役で出演して素敵なダンスを披露している。 「私の踊りある記」でも、『愛と幻想のフィルフィード』の制作プロセスのとっても楽しいエピソード書いてくださっている。 もしまだ読まれていない方いたら、ぜひぜひアクセスしてください。
(6月24日、東京芸術劇場中ホール)




●ザハロワ、ウヴァーロフが踊った新国立劇場の『ドン・キホーテ』

 1999年に初演された新国立劇場の『ドン・キホーテ』が再演された。 振付はプティパ、ゴルスキーに続いて、ボリショイ・バレエで踊り、芸術監督も務めたことのある、アレクセイ・ファジェーチェフが改訂振付としてクレジットされている。

ザハロワとウヴァーロフがボリショイ劇場からゲストとして招かれ、5公演のうち2公演を踊った。 美術・衣裳はオークネフだから、ほぼロシア人のスタッフとダンサーによって創られた舞台、といっても過言ではないだろう。

 ザハロワは、コミカルなタッチの表現を見せようとそれなりの努力をしていた。 しかし、彼女自身の素晴らしいプロポーションと豪華絢爛の踊りがあれば、他にはもうなにも必要ないようにさえ思われる。 ウヴァーロフは、素のままで踊ればそのままこのバレエの美しさを表すことができる、そんな自信に溢れた堂々たる舞台姿だった。 見事なリフトもあったし、ボリショイ・バレエの特徴が際立った公演だった。ザハロワもボリショイ・バレエで育ったダンサーのように見え、キーロフ・バレエの香りはもうあまり感じられなくなった。

 一言だけ苦言を呈すれば、プロローグの演出があまりにも具体的というか、スケッチ風の説明でおもしろ味がない。 プロローグらしく作品世界を象徴性をもって演出してもらいたいものである。
(6月25日)

 

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