関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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●東京シティ・バレエ団のラフィネ・バレエコンサート

 東京シティ・バレエ団のラフィネ・バレエ・コンサートは、ブルガリア出身の振付家を招き、三つの作品を上演した。ちなみにこの公演は江東区との提携により、全席指定税込み2,500円という低料金を実現している。こうした試みは、バレエ・ファンの方もぜひ注目していただきたいと思う。

 まずは、東京シティ・バレエ団の理事長でもある石井清子振付の『フックト オン バロックHooked On Baroque』。バロック音楽の浮き立つような楽しさを生かした若さあふれる舞台である。手拍子を使ってリズミカルに、洗練されたフォーメーションが楽しく繰り広げられる。志賀育恵と小林洋壱のすっきりしたカップルを中心にした、軽快なステップが観ていてとても心地良かった。

 ブルガリアのソフィア大学で哲学を学び、アメリカで振付を始め、ヴァルナ国際バレエ・コンクールで振付特別賞を受賞したブラドゥミール・アンジェロフの作品は『トルソTORSO』。展示されていたさまざまなポーズのトルソが踊り出し、鑑賞する人たちと交流する、というダンス。三組のカップルとアンサンブルによる、速いテンポの複雑な振りで見事に構成されている。かなり速い展開ながら、ラストのトルソと鑑賞者が入れ替わるところまで、じつに上手く見せた。しかし、カップルとアンサンブルの動きにコントラストがあまりなくて、ちょっと残念だった。

 振付家として活躍しているが、東京シティ・バレエ団の運営にも参加している中島伸欣作品は、『ザ・プラトゥ・オブ・ハートThe Plateaux Of Heart』。大小の玉を使って、男と女の関係を描いている。玉は、風船のようにはじけたり、大きな玉乗りの玉だったり、巨大なお手玉が天から振ってきたり様々だが、ほとんどが男と女の間を行き来する。母の胎内のようなイメージも現れる。全体にストップモーションになったり、急激にテンポアップしたり、不規則なトーンにリアリティを求めていた。黄凱が見事なプロポーションで闊達な踊りを見せた。
(5月15日、ティアラこうとう)

『フックト オン バロック』

『トルソ』

『ザ・プラトゥ・オブ・ハート』

●小島章司 フラメンコ 2005 ロマンセ

 小島章司の5月の公演は演出に上田遥を迎えて、スペインの幻想詩人ガルシア・ロルカの世界を踊った。
 ロルカの世界を「大地のロマンセ」「月と死のロマンセ」「光と影のロマンセ」という三つの章に分け、スペインの魂と日本の心の通底するものを描こう、というかなり野心的な試みと言える。ゲストにはフラメンコと異なったジャンルから、ザ・コンボイ出身の橋本拓也、牧阿佐美バレエ団の期待のバレリーナ伊藤友季子、ワガノワ舞踊アカデミーに学んだ三木雄馬を招いている。音楽監督は、近年フラメンコの祭典などで実力を発揮している若手ギタリスト、チクエロ。

 橋本は現代の吟遊詩人に扮し、歌や詩を詠い巧みなダンスも披露した。伊藤は全身鮮やかなイエローの月の光の美しいイメージをソロと、小島とは「月と死のアダージョ」を踊り、たいへん印象的であった。踊りもはかな気な、しかし世界をくっきりと照らしている、と思わせる素敵なものであった。三木雄馬は、白い衣裳の聖ガブリエルと金を飾ったマタドールを逞しく踊った。

 そして小島は、ゲストのパフォーマンスと交歓しつつ、第1章ではオリーブの樹、第2章では月の背後の闇、第3章では「死」を踊り、ラストシーンの次世代へのメッセージに繋げた。日本人のスペインのイメージに、小島の舞台活動が刻印したものを浮かび上がらせた公演であった。
(5月14日、アートスフィア)


●ミチオ イトウ同門会が『鷹の井戸』を上演

 1910年代から60年まで、ドイツからロンドン、ニューヨーク、ロサンゼルス、東京と、日本人の舞踊家として世界に先駆けて活躍した伊藤道郎。61年、東京オリンピックの開・閉会式の演出を果たせぬまま亡くなった、伊藤道郎の門下生たちが結成したミチオ イトウ同門会も、今年で40周年を迎えた。その節目を記した公演では、伊藤道郎の名を世界に高めた伝説的作品『鷹の井戸』が上演された。

『鷹の井戸』は、アイルランドの詩人イエーツ、アメリカの詩人・評論家エズラ・パウンド、伊藤道郎、画家で音楽も詳しかったエドマンド・デュラックなどの共同作業によって創られた。ケルト神話と能を融合させた「舞踊詩劇」といった趣きの舞台で、当時の英国の芸術家たちの間でたいへんな評判となった。伊藤道郎はこの作品を、日本に一時帰国した際も含めて何回か上演している。

 今回は、伊藤門下の龍谷久男の構成、井村恭子の振付により、<ミチオ望見>というサブタイトルが付されて上演された。
 永遠の生命を得ることのできる井戸の水をめぐって、その水を求めて50年も待っている老人と井戸守りの少女(鷹の精)、やはり永遠の水を求めてたどり着いた若者のドラマ。これを仮面や語り手、朗唱、ドラを鳴らす者などを使って、能の形式に倣って演じる舞台である。今回の上演を観て、特に「鷹の踊り」のところなどでは、ケルト神話の不可思議な魅力が、生命の神秘を呼び起こしたかのような印象を受けた。なかなか得ることのできない貴重な舞台体験であった。

 また、『テン ジェスチャア』『ノクターン』『ケークウォーク』『ピチカット』『悲愴』第一楽章、『アヴェ・マリア』ほか計13曲が、井村恭子の構成により復刻上演された。アンナ・パヴロワも賞賛したという『ピチカット』は、背景に映した自身の巨大な影とともに踊るのだが、足は舞台に据えたままで一歩も動かさない。非常に独創的で、強烈な印象を残す作品である。『悲愴』は黒い衣裳で顔だけが白く見えるの女性の群舞が、整然としたり、ランダムに並んだリ、崩れたり、雲の動きを速回しでみているような、フラクタルな感覚を感じさせるフォーメーションだった。

『ピチカット』

 その他にも新人や同人の作品が上演された。井村恭子の白い衣裳の四人のダンサーが情感豊かに踊った『今在りて』。今年亡くなった古荘妙子の、10名の尼僧と一人の神父が踊る『スラヴァのアヴェ・マリア』などが印象に残った。
 伊藤道郎という偉大な先達の、想像を越えるような才能を「望見」することができた、素敵な公演であった。

『テン ジェスチァ』

『悲愴』

『今在りて』

(5月22日、メルパルクホール)

 

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