佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
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●キューバからナルシソ・メディナ・ダンスカンパニーが来日

 ユネスコ国際ダンス・カウンシル指定「世界ダンスの日」(4月29日)を記念し、ナルシソ・メディナ・ダンスカンパニーがキューバのコンテンポラリーダンスの最先端を伝えた。 メディナはキューバ国立現代舞踊団のダンサー・振付家として活躍した後、1993年、自身のカンパニーを設立、独自のアフロ・キューバン・ダンスで評価を確立した。 日本でも単独公演などを行っているが、今回は小編成ながらカンパニーとして初の来演という。

 作品はすべてメディナの創作で、『カーニバル創世記』で始まった。 男女5人がにぎやかに客席通路を練り歩いて舞台に上がると、女と男が綱引きをしたり、男が女を回転するように投げて抱き止めたり、セクシャルなデュオあり、こうもり傘を操る女のスローなソロあり、女装で要所を締めたメディナが裸になって踊りもする。 変化に富んだ断片の連なりはカーニバルさながら。抒情性や猥雑さを混在させた展開は、人間の諸相を提示するようでもあり、社会や生活を描写するようでもある。 躍動感一杯のキューバの伝統音楽やオリジナルの曲はダンスと一体となり、ヴァイタリティあふれるお国柄や民族性を伝えていた。

『カーニバル創世記』


『メタモルフォーシス−変身−』
 続く『メタモルフォーシス(変身)』は、1997年埼玉国際創作舞踊コンクール大賞など、幾つもの賞に輝くメディナの代表作。 見事に鍛錬された男性3人がほとんど裸で踊る、12分ほどの密度の濃い小品だった。2人の男がドラム缶から抜け出そうと上半身をもがくが、彼らの体をはめ込むように見えたのは、何と残る一人の尻。 体のそんな部分までがダンスの道具として活用されているのだ。やがて缶から出て床をころげ、飛び跳ね、叫び声を上げ、あえぐ。 人間の誕生と進化を象徴しているようだが、その厳しそうな道程を覚悟を決めたように突き進んで行く姿は鮮烈な印象を残した。 最後の『ボディー・ミュージック』は演奏が主体。ダンサーたちは威勢良くドラムを叩き、歌うが、実に達者。観客を舞台に招いて一緒に踊る一幕も。 快活なリズムが自然に身振りを生み、それがダンスになる。そんな彼らのダンスの根源を実感させる作品だった。
(4月15日、きゅりあん小ホール)

●バレエ シャンブルウエスト『ジゼル』

『タチヤーナ』や『ルナ』などの創作バレエで評価を高めたバレエ シャンブルウエストが、ロマンティックバレエの傑作『ジゼル』を上演した。 ダブルキャストのうち、同団の第一期生、吉本真由美が主演した日を観た。アルブレヒトは、負傷した正木亮羽に代わって逸見智彦が務めた。 芸術監督の今村博明と川口ゆり子による振付は、極めてオーソドックスなもの。上演を重ねてきただけに、全体によくまとまっていた。 吉本のジゼルは、安定した踊りで恋する恥じらいや喜びを溌剌と伝えたが、少々元気が良すぎた。体が弱いことをもう少し計算して演技したほうが良かったと思う。 だがバティルド姫とのやりとりが素直だっただけに、恋人の裏切りを知った後の驚きや悲嘆が生きたし、またウィリになった後では、人間としての感情を押し殺そうとしながらアルブレヒトをかばう気持ちを滲ませていた。 緊張のためか、バランスを取りずらかった所があったのが惜しまれる。

逸見は、身分を隠しながらも貴族の趣きを漂わせる。滑り出しは踊りに今一つ冴えが見られず、花占いで花びらの数を確かめてみせる場面では、ジゼルとしっかり目を交わして欲しかったりもしたが、徐々に調子を上げ、吉本をリードしていった。 ヒラリオンの井上欧輔は、切れ味の良いステップと実直な演技でジゼルへの思いをストレートに表わしていた。 ミルタを踊った山田美友は、ウィリの女王としての強靭さを良く伝えたが、腕の動きが硬い気がした。 ベルタを演じた延本裕子からは、ジゼルの母というより姉のような印象を受けた。メークを含め検討の余地はありそうだ。 なお、ロシアのヴァチェスラフ・オークネフによる美術は、黄色に色づいた木々の葉の装置が美しく、質素なジゼルの家などと相まって、落ち着いた雰囲気を演出していた。

川口ゆり子


吉本真由美

吉本真由美、逸見智彦

(4月22日、新国立劇場・中劇場)


●シルヴィ・ギエムの〈愛の物語〉

 シルヴィ・ギエムの発案による〈愛の物語〉は、様々な愛の形を描いた現代バレエの名作を並べた公演。 2003年に初めて開催して好評だったため、今回は演目を増やし、東京では2種のプログラムを上演した。ここではAプロを、次号でBプロを取り上げる。

Aプロはアシュトン振り付けの2作品で構成。ギエムは前回と同じくニコラ・ル・リッシュと組んで『マルグリットとアルマン』を踊った。 フォンテインとヌレエフという今や伝説のペアのために、『椿姫』を下敷きに創作された名作を、新たなペアが20数年振りに復活させたもの。 ギエムはより一層きめ細やかな感情表現で感動を誘った。 アルマンがマルグリットを抱いて回転するシーンでも、ギエムは上体や脚に微妙なニュアンスを付け、ストレートに愛を燃え上がらせ、別離の苦悩を滲ませ、再会の喜びと哀しみを伝え分ける。 すらりと伸びた脚、甲の美しさにはいつもながら。ル・リシッシュはギエムとの息もぴたりと合って純朴な青年になりきり、爽やかな回転やポーズを決めた。 アルマンの父を演じたアンソニー・ダウエルの渋い存在感も忘れ難い。リストのロ短調ソナタの管弦楽版がドラマの陰影に合致しており、アシュトンの流れるような劇的な作舞にも改めて感心した。

『マルグリットとアルマン』

これに先立ち、東京バレエ団が『真夏の夜の夢』を上演した。有名なシェイクスピア劇を、メンデルスゾーンの音楽を用いて1時間のバレエに凝縮したもの。 妖精の王オベロンが女王タイターニアと夫婦げんかの末、妖精パックに集めさせた惚れ薬でしたいたずらが、2組の男女や村の劇団の男を巻き込んで大混乱を引き起こすが、すべて円く収まるお話。 妖精のひょうきんな動きや、恋人たちに要求される絶妙な間合いなど、ファンタスティックな物語にふさわしいアシュトン独特の振りがスパイスとして効いている。 評者が観た2日目は、吉岡美佳がタイターニアを優雅に演じ、オベロンの後藤晴雄と抒情的なデュオで最後を締めた。中島周は様々なジャンプを駆使し、いたずら者パックを好演。 若者を踊った木村和夫と古川和則のジャンプも冴え、女王に惚れられるロバの頭をかぶせられたボトム役の高橋竜太も愛嬌のあるポアントの妙技で笑わせた。 東京バレエ団がアシュトン作品を踊るのは初めてというが、そうは思えない出来栄えだった。

『真夏の夜の夢』

(4月30日、東京文化会館)

 

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