関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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桜の満開のアーチに感動していたら、もう盛り上がるような新緑が目に沁みるシーズンとなりました。まるで飛行機で空を飛んでいるようなスピードで時間がめぐってゆきます。「時よ止まれ!」と念じているうちに「もっと光を!」となってしまう、それが人生かもしれません。その中に幸せを見つけること、それが人間の知恵なのでしょうか。

●楽しかった、日本バレエ協会の『ドン・キホーテ』公演

 05年の都民芸術フェスティバルに参加したバレエ協会の『ドン・キホーテ』を観た。 プティパの原振付をゴルスキーとスラミフ・メッセレルが改訂振付した版を、さらに谷桃子が再改訂構成・演出を行っている舞台である。

 キャストは下村由理恵/法村圭緒、田中ルリ/遅沢佑介、岩田唯起子/斉藤拓のトリプルで組まれたが、私はで田中/遅沢組で観ることになった。

 この『ドン・キホーテ』のヴァージョンは、1965年にスラミフ・メッセレルが指導して谷桃子バレエ団で上演された。 スラミフはボリショイ・バレエの名教師、振付家として著名なアサフ・メッセレルの妹で、やはりボリショイでテクニシャンのプリンシパル・ダンサーとして活躍した。 ちなみに、マヤ・プリセツカヤは彼らの姪。プリセツカヤはアサフにバレエを習い、旧ソ連時代に母が刑に処せられていた際には、スラミフの家で暮していた。

『ドン・キホーテ』はプティパによる初演は1869年だが、ゴルスキー版は1900年にモスクワのボリショイ劇場で初演され、1902年にはペテルブルクのマリインスキー劇場でクセシンスカヤ、ニコライ・レガートの主演で上演された。 その後はこのゴルスキー版がボリショイとマリンスキー劇場でレパートリーとして残った。 後年のロプホフやザハロフなどの改訂は、この版に基づいて行われ、メッセレルの改訂版も同様である。 (新国立劇場のレパートリーの『ドン・キホーテ』はゴルスキー版をファジェーチェフが改訂したもの)

 メッセレルが手を加えたと思われるのは第2幕。1場の居酒屋のシーンでスパニッシュ・ダンスをたっぷりと見せる。 森の中でドン・キホーテがジプシーの集団に出会い、人形劇をみて義憤にかられるシーンはカットされ、居酒屋の場で鮮烈なジプシー・ダンスが踊られる。 この一連のスパニッシュ・ダンスの振付は、なかなか大胆で思い切った演出が行われている。 クラシック・バレエの革新を目指したソヴィエト・バレエのアヴァンギャルド志向がうかがえるような印象の舞台であった。

 キトリを踊った田中ルリは日本人ばなれした見事なプロポーションで、落ち着いた安定した踊り。役柄もきちんと正確に捉えている。 さらにこのヴァージョンを踊るチャンスがあればもっとディティールを描くことができるだろう。再演を期待したい。遅沢はバネのある踊りでバジルを見せた。 リフトも見事にこなしていたが、最後のグラン・パ・ド・ドゥでは、黒い衣裳のままだったために少々地味な感じになったのは惜しい気がした。

 バレエ協会の合同公演ではあるが、まとまった舞台でそれぞれのダンサーが充分に力を発揮しており、見応えのある楽しい公演だった。



(3月30日、東京文化会館)


●ローザスの『ビッチェズ・ブリュー/タコマ・ナロウズ』

 アンヌ.テレサ・ドゥ・ケースマイケルが03年に自身のカンパニー、ローザスに振付けた『ビッチェズ・ブリュー/タコマ・ナロウズ』が、彩の国さいたま芸術劇場で上演された。 音楽はマイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」。

 この「ビッチェズ・ブリュー」は、1969年8月のウッドストックが終った2日後、マイルス・デイヴィスを中心とする13人のミュージシャンによりセッションが行われ、さらに二度にわたって演奏された素材をモンタージュして、伝説的な2枚のアルバムにまとめられた。

「騒乱の時代----1969年のマイルス・デイヴィスは『ビッチェズ・ブリュー』において、その時代に共鳴しているように思えます」とケースマイケルは言う。 ロバート・ケネディ、キング牧師、マルコムXが暗殺され、アフリカ系アメリカ人は人種差別に反対して立ち上がった。市民はヴェトナム戦争に反抗を表明した。 マイルス・デイヴィスの「ビッチェズ・ブリュー」は、これらの民衆の爆発的エネルギーを刺激していたように思う、とも言う。

 ケースマイケルの『ビッチェズ・ブリュー/タコマ・ナロウズ』は、ダンサーのインプロヴィゼーション(即興)によって創られている。 それまでの作品には、彼女があらかじめダンサーたちに一連の動き・振付を与えていた。しかし今回の舞台にはそうしたコレオグラフィック・フレーズはない。

 舞台は、三方を鈍い色のカーテンでスクエアに囲まれている。冒頭は数人のダンサーがメインのメロディを踊り、つぎつぎと踊り継がれて行く。 14名の男女のダンサーのうちの数人の集団の動きが、あちらこちらの発生しスポットを浴びる。しかし、また一人か二人の踊りに分散していく……、といった動きが変形を重ねながら繰り返されていく。 今までのローザスの作品には見られなかった力強い明解な動きと、川の流れに自然に現れる渦のような集団の動きの流れが、ジャズのリズムと融合してダイナミックな自由を感じさせる舞台だった。


(4月8日、彩の国さいたま芸術劇場大ホール)
 

 

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