●モミックス『パッション』『オーパス・カクタス』
アメリカから飛びきりユニークなダンス・カンパニー、モミックスが来日した。芸術監督のモーゼス・ペンデルトンは、人間の身体を造形のように自在に操り、超現実的なイメージの世界を表出する奇才。その特異な才能は、二種の演目から十分うかがえた。
Aプロの『パッション』は、マーティン・スコセッシ映画監督の『最後の誘惑』に使われたピーター・ガブリエルの音楽を用い、「生命と宇宙の融合を形成してゆく」もの。「情熱」「情欲」「キリストの受難」などの意味を併せ持つ多義的なタイトルや、東西の音楽を採り入れた音楽同様、舞台上のパフォーマンスも多様だった。舞台前面の透明なスクリーンには大樹や氷河、神々の絵や古代の像などが次々に映し出され、背後でダンサーが演技する。縦一列に並んだ五人がそれぞれ腕を動かす導入部は千手観音を思わせ、四つん這いの男性とその背に乗った女性が一体となって手足を動かす様は記号のようにも見え、神秘的なイメージをかきたてる。シルエットを際立たせる照明が詩的情緒を倍加してもいた。十字架上のキリストを思わせる場面や、新体操やアクロバット的演技もあった。ただ、各々のヴィジュアルな美しさは有機的にテーマに結びつかず、もどかしさを覚えた。
Bプロは『オーパス・カクタス』。鳥やトカゲやサボテンを模してみたり、男が女を肩車して回ったり、女性群が大きな扇を開閉しながら踊ったりと、砂漠で生息する動植物の世界をファンシーなイメージで見せる。だが、男性陣が長い棹を軸に跳ねたり回ったり、組み合わされた巨大なリングを男女のペアがシーソー遊びのように回転させながらポーズを取ったり、闇の中で男が足先につけた火の玉を振り回したり……となると、これはもうサーカスのショー。確かにダンサーはよく鍛えられているし、コンビも抜群。作品の狙いからして、遊び心一杯の舞台であって構わないとは思うが、モミックスがそれだけではつまらないではないか。
(A=1月19日、B=22日昼、共に東京国際フォーラム・ホールC)
●ハンブルク・バレエ団『眠れる森の美女』
振付の偉才、ジョン・ノイマイヤー率いるハンブルク・バレエ団が八年振りに来日した。在任30年を越えた芸術監督との絆は一層強まっているようだ。演目は、古典に独自の解釈を加えた『眠れる森の美女』(1978年)、音楽をバレエ化した『冬の旅』(2001年)、オリジナルなドラマティック・バレエ『ニジンスキー』(2000年)。みな日本初演だ。
日本ツアーの開幕は『眠れる森の美女』。ノイマイヤー版は、ジーンズ姿の現代の若者として現れたデジレが森で嵐に遭い、善の精や悪の精、眠るオーロラ姫の幻影を見て物語の世界に誘い込まれるプロローグと、現実世界に引き戻されたデジレがベンチで眠る娘を見つけるエピローグを加えた三幕仕立てで、宮廷の時代設定はバロック全盛期から、チャイコフスキーやプティパがこのバレエを創作した十九世紀末に移し替えられている。すると当時眠りに就いた姫は現代に目覚めることになり、バレエの伝統と現代がつながりもする。妖精のソロやローズ・アダージョ、青い鳥のパ・ド・ドゥなどプティパの主要な振付を残しながら、自分の振りで全体を彩り物語を進めるという構想も生きてくる訳だ。
第一幕の中心はオーロラの洗礼式。デジレの姿は宮廷人には見えないが、逆に、悪の精がオーロラに死の呪いをかけ、善の精が姫は眠りに就くだけと死の呪いを封じるのは彼にしか見えず、それが第三幕で姫を救いに向かう伏線となっている。第二幕で、肖像画にイタズラ書きをし、バレエの稽古より読書に夢中で手を焼かせるやんちゃなオーロラの描写が何ともユーモラスで笑わせる。場面は十六歳の誕生祝いの宴となり、求婚者に変装した悪の精が捧げたバラの棘でオーロラは倒れるが、デジレはただ見ているほか術がない。
第三幕でデジレが悪の精と果敢に戦いオーロラの元にたどり着くと、姫は自分で起きて動きだす。無意識のまま口づけを受けるのでなく、デジレの姿を認めてから口づけをかわすよう主体性を持たせた所に現代性がうかがえる。デジレは結婚式でオーロラと華麗に舞った後で倒れ、エピローグへ移る。最後まで幻想と現実を巧みに錯綜させた展開である。 |
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ダンサーのレベルは高く、プティパの技法をきちんとこなしていた。デジレのイリ・ブベニチェクは結婚式で典雅なジャンプや回転を披露し、ジーンズ姿の時との対照を際立たせた。シルヴィア・アッツォーニは安定したテクニックでたおやかなオーロラを好演。善の精のヘザー・ユルゲンセンやフロリナ王女のエレン・ブシェーも美しかったし、悪の精のオットー・ブベニチェクはダイナミックな演技で緊迫感を盛り上げた。特筆すべきはアレクサンドル・リアブコで、芝居気たっぷりのカタラビュットを演じた後、青い鳥では完璧なまでに美しいブリゼやアントルシャで魅了した。
(1月27日、神奈川県民ホール) |