佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。
> > >

●シルヴィ・ギエム、ラッセル・マリファント作品を踊る

 古典もモダンも鮮やかに踊り、停滞することを知らないバレリーナ、ギエムが企画するシリーズ〈シルヴィ・ギエム・オン・ステージ〉。 2004年は、カナダ出身の振付家ラッセル・マリファントの作品集だった。マリファントはサドラーズ・ウェルズ・ロイヤル・バレエ団に入団したが、1996年、自身のカンパニーを創設。 インドのヨガや中国の太極拳、ブラジルのカポエラなどを採り入れた作品で異彩を放っている。その創作に衝撃を受けたギエムは、彼を広く紹介したいと、ロンドンでも今回と同じ演目による公演を敢行している。

 幕開けは、ロンドンでも共演したマイケル・ナンとウィリアム・トレヴィットによる『トーション』。上手と下手に分かれてスポットライトの中で動き始めた二人が、やがて絡み合い、 「ねじれ」というタイトルが示すように、胴や脚など互いの体の一部をよじり、ひねる動きを連らねていく。多くはヨガや柔道などの型を連想させたが、丁々発止のやりとりに攻撃性はなく、 かといって特別な情感も入り込まない。一分のすきもなく精緻に組みたてられた無機的な振りを、ひたすら具現化するダンサーの姿が印象的だった。

『TWO』


『ブロークン・フォール』
 続く『Two』は、マリファントがギエムのために大幅に手直ししたソロ作品。 2メートル四方の照明の中にギエムの体が彫像のように浮かび上がる。上体を深く曲げ、手や腕や三つ編みの髪を振り回し、緩急はあるものの、一瞬たりとも静止しない。 白く輝く腕や背の、何と筋肉質なことか! ギエムのすごい集中力、パワーは不思議な磁場を生み出した。動きが俊敏さを増すと、特殊照明の効果も合わさり、 手や腕が白い軌跡を描き、美しい残像を結ぶ。ギエムにしか到達できそうもない孤高の境地。実に濃密な12分だった。

 『ブロークン・フォール』は、この三人のために創られた作品。ギエムは黒のショートパンツをはき、膝にサポーターをはめ、裸足だ。共演者の一人にリフトされ落とされるが、 すんでの所でもう一人の共演者に受け止められる。相手の背の上で脚を鉤型に曲げたり、横向きに回転したりする。少しのずれも許さぬ周到に計算された振りや、三者のスリリングな展開に息を飲む。 ダンサーは感情を排し、まるで伸縮自在のバネが体内に組み込まれているかのように厳密に動いた。マリファントの巧緻な構成に感心する一方で、動きの探究の先に何を求めているのかが気になった。
(11月30日、ゆうぽうと簡易保険ホール)
 
●東京バレエ団『くるみ割り人形』のフレッシュ・コンビ、小出&後藤


 東京バレエ団の『くるみ割り人形』は、クララを大人のバレリーナが踊るワイノーネン版。 地方公演を含めて組まれた4組みの主役ペアのうち、主役を踊るのは初めての小出領子と、くるみ割りの王子は初役という後藤晴雄のフレッシュ・コンビを観た。
 幕が開くと、クララの家のクリスマス・パーティに向う人々が描かれる。ふざけたりしながら行く子供たち、脚を高く上げて歩く男性たち、パ・ドゥ・ブーレで足早に進む女性たち――いつもながら、楽しい宴会を予感させる巧みな導入だと感心させられる。

 可愛らしいドレスを着た小出は、すんなり伸びた手脚や、たおやかな腕の動きで、快活に少女クララを踊った。夢の中で娘に成長すると、しっとりした情感をにじませ、くるみ割り王子への淡い恋心を踊る。 テクニックも安定していた。くるみ割り王子の後藤は、そんな小出をしっかりサポートし、自身もしなやかなジャンプやリズミカルなピルエットでアピールした。 最後のグラン・パ・ド・ドゥも、小出が緊張気味だったとはいえ、一つ一つの動きを二人とも丁寧にこなして優雅に踊り、舞台を盛り上げた。
他のダンサーでは、木村和夫の活躍が目立った。前半では人形遣いのドロッセルマイヤーとして登場し、切れ味の鋭いジャンプや回転を気持ち良く決め、颯爽としていた。 後半のふしぎの国でも、スペインの踊りで鮮やかなジャンプを見せた。

ピエロの平野玲やコロンビーヌの高村順子、アラビアの踊りの西村真夕美と長瀬直義のペア、フランスの踊りの中島周らが、それぞれ好演。群舞では、特に雪の精たちによる美しくそろったフェッテが見事だった。 総じて極めてレベルの高い、夢を誘う舞台だった。
 演奏は福田一雄指揮東京シティ・フィル。オーケストラを手際良くリードし、ダンサーに寄り添い、動きをからめとるような指揮が心地よかった。
(12月17日、東京文化会館)



●東京シティ・バレエ団と江東区でバレエを育てる会による『くるみ割り人形』


東京シティ・バレエ団の『くるみ割り人形』は、「江東区でバレエを育てる会」の子供たちがプロのダンサーと一緒になって踊れるよう、 石井清子がイワーノフ版に基づいて構成・演出・振り付けたもの。同バレエ団が石井のプロダクションを最初に上演したのは1986年だが、1994年に江東区と芸術提携を結び、 同年ティアラこうとうのこけら落としにグレードアップした『くるみ』を上演して以来、ここを本拠地にしている。3公演の最終回を観たが、これまでの地元との交流やバレエ振興の努力の成果がうかがえる舞台だった。

クララの家に向う人々の描写は、実際に子供たちを起用したため、元気の良い少年たちや、母親の後ろに背の順に子供が続く様など、正にリアル。 クララ役の少女、村木真美は終止落ち着いた演技で、コロンビーヌやピエロ役の子供たちも中々の人形振りだった。ねずみとおもちゃの兵隊の戦争では、大勢の子供たちの動きが見事に統率されていた。 夢の中のコロンビーヌやムーア人形、キャンドルケーキの子供たちを演じた幼い子供らが、ちょこまかと動く姿も愛らしく、少女たちによる花のワルツまであった。 大人はといえば、金平糖の女王の関本美奈とコクリューシュ王子の黄凱が模範演技のように典雅なグラン・パ・ド・ドゥを披露、クララの志賀育恵とくるみ割り人形の穴吹淳も安定した踊りだった。

今回は2組のキャストで140人近い子供たちが出演したそうだが、皆、与えられた役を張り切って踊っていた。 ステージに立つという子供たちの夢を叶えて励ます、こんな『くるみ割り人形』があってもよい。会場は、温もりのある雰囲気で満たされていた。

オーケストラは、江東区と芸術提携している東京シティ・フィルで、指揮はこちらも福田一雄だった。ダンスに合わせて音楽のテンポを急に変えることはよくあるが、バレエを良く知る福田は、 ダンサーの動きを先取りするのだろう、唐突な印象を与えずに自然な音楽の流れを保っていた。

(12月19日・夜、ティアラこうとう)


なお、前号の記事で、当初、上海歌舞団を初来日としましたが、小編成では2002年に来日していたとのことです。)

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。