桜井 多佳子 text by Takako Sakurai
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●久富淑子バレエ研究所設立50周年記念公演『白鳥の湖』
北海道の地から、熊川哲也はじめ、高橋宏尚(ノーザンバレエシアター、プリンシパル)、ポロブニコワ未央(ノボシビルスク・バレエ団ソリスト)ら多くのダンサーを世界に羽ばたかせている久富淑子バレエ研究所が、創立50周年を記念して『白鳥の湖』全幕を上演した。
オデットは、パリ・オペラ座バレエ学校を卒業し、現在、Kバレエカンパニーに在籍する成瀬陽子、オディールはその妹でピッツバーグ・バレエ学校に留学していた成瀬由子(二人は久富の孫にあたる)。王子は、ポロブニコワ未央の夫で、ノボシビルスク・バレエ団プリンシパルのビタリー・ポロズニコフ。ロットバルトは高橋宏尚、道化は徳江弥(谷バレエ団)、パ・ド・トロワは輪島拓也(Kバレエカンパニー)、スパニッシュにはポロズニコワ未央、王妃には高橋智子(元・劇団四季)・・・という豪華キャスト。外部ゲストに頼ることなく、研究所OB・OG(王子は、その身内)が重要な役をほとんど固めているというのは珍しい。それだけ多くの人材を輩出したというのはもちろん、彼らが記念公演に駆けつけたということも素晴らしい。舞台、いや会場全体は、開演前から温かい空気に包まれていた。
演出・振付・指導は、ロシア国立ノボシビルスク・バレエ団芸術監督のセルゲイ・クルプコ。同研究所との関係は深く、今回『白鳥の湖』全幕上演に踏み切ったのも、彼の助言があってのことだったという。生徒たちがコール・ドをつとめるという、自国ロシアのバレエ団では考えられない状況を、クルプコ芸術監督はよく理解していたのだろう。丹念に、作り上げられた舞台、というのが全体の印象だ。
全4幕。省略場面はなく、音楽もロシア版で、テンポはかなりゆっくりしている。プログラムには、ぞれぞれの幕ごとに振付者名が明記されている。当たり前のことだが、日本の「発表会」では、適当なアレンジで誤魔化している場合がほとんど。生徒たちが多く出演するからこそ、本物志向であるべき。プログラムのていねいな表記は、その姿勢を示しているように思えた。
第2幕はイワノフ版に忠実。オデット姫の成瀬陽子は、緊張気味にも見えたが、特に上半身のやわらかな動きが美しい。長身のポロズニコフは、ノーブルで王子の雰囲気を持つ。ロットバルトの高橋はシャープな身のこなしと的確な演技で悪魔役を印象づけた。
第3幕はゴルスキー版。オディールの成瀬由子は元気の良さで見せた。道化役の徳江は、役をよく理解した演技。デヴェルティスメントでは、チャルダッシュやマズルカなど、(日本の公演では)あいまいに踊られがちなキャラクター・ダンスが、きちんと『踊りわけ』られていた。ポロブニコワ未央&輪島拓也のスパニッシュ、斉藤やすのルスカヤには、特に大きな拍手が贈られていた。
第4幕はブルメイステル版。悪魔が倒れ、オデットはじめ白鳥たちはみな、人間の姿に戻るというハッピーエンドだ。愛が勝利を収めるこのラストは、たしかに記念公演に相応しい。コール・ドたちは、第2幕より強さを帯び、一体感も強まっていた。『白鳥の湖』の原典ともいえるロシア版を、これだけていねいに上演したことは、生徒たちにとっても意義深いことだろう。
終演後、『白鳥の湖』の余韻が消えないままの会場に、突然、素敵な音楽が流れ始めた。舞台にはスクリーンが下り、久富淑子バレエ研究所の50年の歴史を振り返る写真が次々と映し出された。最後の写真のあと、スクリーンが上がると、その後ろにはOB・OGの姿。舞台上で感極まったような表情で立つ久富淑子の前に、さっそうと現れ、一輪の真紅のバラを手渡したのは熊川哲也だ。天からも祝福の花びらが降っていた。美しく、心温まる演出をしたのは、熊川その人だったという。
(7月19日、北海道厚生年金会館)
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