関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi

※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。
> > >  

ボリショイ・ バレエのスターたちとアナニアシヴィリの『白鳥の湖』

 元ボリショイ・バレエのプリンシパルだったアレクセイ・ファジェーチェフが芸術監督を務める、 このグループ公演では三つの演目がとりあげられた。
 
  冒頭に上演された『グリーン』は、ヒューストン・バレエの芸術監督でもあるスタントン・ ウェルチの振付。音楽はヴィヴァルディのヴァイオリン協奏曲を使っている。タイトルのごとく シックなモスグリーンのチュチュを纏った数名のバレリーナが後ろ向きに立ち、ゆっくりと背景 の闇の中に消えて行く、というオープニングシーン。墨絵のようにモスグリーンの色調で濃淡を みせる衣裳を着けたダンサーたちの、音楽と等間隔の動きで構成された舞台である。つぎつぎと展 開する情景の変幻を見ていると、まるで竹林を散策しているかのような気持ちになった。

  『セコンド・ビフォー・ザ・グランド』は、やはりヒューストン・バレエに所属するトレイ・ マッキンタイアーの振付。音楽はアフリカン・ミュージックが使われている。こちらは一変して、 オレンジと黄色の濃淡のヴァリエーションを、衣裳、背景に配した舞台である。軽快なリズムと速い 動きでつぎつぎと場面を換えていく。「アフリカ諸種族に浸透している<死の1秒前に、人はそれま での人生の幸福な時間と最も重要な瞬間のすべてと思い出す>という考えに想を得て創られた」そう だ。しかし、死の影は感じられず、はかなげな幻想を際立たせたのであろう。
 
最後は『白鳥の湖』のハイライト。この作品をリハーサル中のバレエ団の王子役のプリンシパルが 、どうしても舞台に没頭できない、という想いを抱きながら夢見る幻想の中で『白鳥の湖』が展開 する、という設定である。追加振付はファジェーチェフ。指揮を兼ねたヴァイオリンのセルゲイ・ スタドレルが見事であった。
  アナニアシヴィリが素敵だったのはいうまでもないが、ダンサーでジークフリート王子を踊っ たアンドレイ・ウヴァーロフが、端正なプロポーションと落ち着いた演技と踊りで際立っていた。 (2月26日、東京文化会館)


日本バレエ協会公演『眠れる森の美女』




  バレエ協会の『眠れる森の美女』は、今回が4年ぶりで7回目の再演だそうである。近年は外来のゲスト出演が主体だったが、今回は日本人ダンサーのトリプルキャストで公演された。私は日程の都合から、その中の島添亮子/法村圭緒、西田佑子/李波の舞台を観ることができた。
 
  この舞台は、プティパの原振付を改訂したセルゲイエフ、ニジンスカの版に基づき、アンナ=マリー・ホームズが再改訂・構成し、橋浦勇が振付指導したものである。ホームズは、カナダ出身だが、62年に旧ソ連に渡り、セルゲイエフ、ドゥジンスカヤ、プーシキン(ヌレエフ、バリシニコフを育てたバレエ教師)などに学びワガノワ・メソッドを身に着けた。
 
  島添亮子は、こうした合同公演への参加は少ないほうだが、相変わらずシャープな身のこなしとバランスの良さを見せ、清新な印象を残した。法村圭緒も堂々とした踊りだった。李波はさすがに落ち着いた舞台だった。西田佑子は、やや日本的な印象を与える美人ダンサーだが、オーロラ姫らしいオーソドックスな見栄えのする舞台だった。彼女が順調にスクスクと成長してきているのがよく分かる舞台でもあった。どちらもこれからの日本を代表するバレリーナになる才能の持ち主だから、大いに頑張ってもらいたいと思う。 (2月6日、7日、東京文化会館)
『スペインの燦き----ラヴェル〜バレエとオペラによる〜』

 モーリス・ラヴェルという音楽家をテーマとし、バレエとオペラの作品を構成した公演を新国立劇場制作が制作した。
 <1>オペラ「スペインの時」、<2>バレエ「ダフニスとクロエ」(第2組曲)、<3>言葉のない小品「洋上の小舟」、<4>バレエ「ボレロ」という構成である。全編を通して、ク・ナウカの美加理がモーリス・ラヴェルとして出演するほか、オペラはメゾ・ソプラノのグラシエラ・アラヤ、テノールのハインツ・ツェドニク、羽山晃生、バリトンのクラウディオ・オテッリ、バスの彭康亮、バレエは酒井はな、湯川麻美子、市川透が出演した。指揮はマルク・ピオレ、演出・振付はパリ・オペラ座出身のニコラ・ムシンである。
  バレエの「ダフニスとクロエ」は、ディアギレフのロシア・バレエ団が上演したフォーキンの台本・振付の作品があるが、ここでは、ムシンによる音楽的な美を描き出す舞台である。「ボレロ」もまた、ラヴェルの音楽のもつ<メカニカルな響きの魅力>を群舞の力で見せるものであった。
  この舞台全体が、ラヴェルの音楽のもつ、まるで白い雲間に悠然とたゆたうような独特の美しさをヴィジュアルに見せようという試みである。20世紀初頭のパリやスペインなどの文化、その文化を性急に摂取しようとした日本などという状況も、もちろんその背景には潜んでいる。ウィーン国立歌劇場などで仕事をしている美術・衣裳を担当したダヴィデ・ピッツィゴーニの舞台デザインも、そのような趣旨を現していた。 (2月18日、新国立劇場)
ボレロ

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。