関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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 春一番が吹き荒れて、花がほころび水がぬるみ、日ざしもようやく春めいてきました。春や春、こころときめく時。ダンスがいっそう楽しく、劇場に向かうステップも軽やかになりますね。

牧阿佐美バレエ団によるプティの『ピンク・フロイド・バレエ』

 牧バレエ団は、バレエの舞台としてはたいへんスケールの大きい、ローラン・プティ振付の新制作『ピンク・フロイド・バレエ』を初演した。これは1972年にパリで初演され、73年にはピンク・フロイドの演奏のもとに上演された同名の作品を、30年を経て改訂したものである。




  幕開きは、菊地研のソロ "Run Like Hell"。バックライトを浴び、上半身は裸に白いパンツで元気良く踊った。続いてかつてプティのバレエ団のプリンシパルだったキューバ出身のリエンツ・チャン、もうプティ作品ではお馴染みのアルタンフヤング・ドゥガラー、英国出身で『デューク・エリントン・バレエ』にも出演したシャーロット・タルボットとチャン、そして20カップルの踊りへと舞台は進んで行く。さらに、草苅民代、上野水香、オペラ座のプルミエのマリ=アニエス・ジローも加わって、いっそうエキサイティングな踊りが繰り広げられた。
 
  NHKホールの広い空間にセットを置かず、ブレイク・ダンスなども挿入したさまざまなフォーメーションを展開。しばしばレーザービームでダンサーの周辺に図形を描くなどして、ヴァーチャルな舞台イメージとピンク・フロイドの音楽を共鳴させていた。

  牧バレエ団のプティ作品の上演は7作目になるが、『デューク・エリントン・バレエ』に続いて、彼の振付作品の中でもスケールが大きい音楽家をテーマとした『ピンク・フロイド・バレエ』の新制作の上演を成功させたことは、意味がある。今後さらに、プティ作品の優れたものを日本の舞台に定着させてもらいたいものである。 (2月7日、NHKホール)

熊川哲也 " The confession 2004" の4曲

 今回上演された4曲のうち3曲は熊川自身の振付作品。さらにその2曲は新作であり、 残りの1曲がローラン・プティの『若者と死』であった。
 まず、新作の『ミラージュ』。音楽はベートーヴェンのピアノソナタである。舞台にゆるやかな円形の一部 のラインを描くようにコール・ドを並べ、中央にはジャスティン・マイスナー。左右に康村和恵と長田佳世を 配して、ゆったりとして動きのソロやパ・ド・トロワが踊られる。ロマンティックな美しい幻想の世界をたゆ たうような小品であった。

  『パッシング・ボイス』(音楽パッヘルベル)は再演であるが、前回観た時に比べて、いっそう整えられた作 品、という印象を受けた。  
新作『ソリチュード』(音楽J.S.バッハ)は、ジャスティン・マイスナーを中心とした第1章と、荒井祐子 を中心とした第2章に構成されていた。背景は中央に扉があり、左右の壁の上部が引き裂かれ、その上に山型に 段があり上演中ずっと仮面の女がゆっくりと昇り降りしている。現実と異界の境目を思わせる背景である。マ イスナーは傷つけられた男のように、拘束されたり、現実の圧力を感じながら踊る。荒井祐子は、さらに細分 化された現実の中で自分を求めて踊る。仮面に表されるようなこころを動かすことのない無気味な現実の中に 、男あるいは女の言葉では言い表わせないような孤独に迫った作品である。
 『若者と死』(音楽J.S.バッハ)は、熊川哲也渾身の踊りである。
  この傑作は、ベッドに寝そべってとりとめのない空想にふける若者がタバコをふかすところから始まる。 プティの振付は、普段は見逃されがちな日常的な動作をとり入れて、主人公のこころの模様を巧みに描き出す 。ここでも若者のこころの激しい鬱積を一気に吐き出すかのように、超絶技巧で室内を駆け巡る。生と死の根 源的なドラマが若者の身体の緊迫感溢れる軌跡によって、鮮烈に描かれる。熊川の隙のない動きとシャーロッ ト・タルボットの魔界への誘いのせめぎ合いが、世界がひっくりかえるような衝撃的なラストシーンへと導く 。日常的な無意識な動作とバレエの動きとの構成が、後にプティの数々の傑作を生んだことはいうまでもない 。 (2月23日、オーチャ−ドホール)
 

 

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