渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe
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●画期的な成功を収めた新生マリインスキー・バレエのパリ公演

 11月は、パリ・オペラ座もシャトレ座もロシア・バレエとオペラに席巻された感があった。まず11月6日、オペラ・ガルニエで開催された<マリインスキー・ガラ>で、ヴァレリー・ゲルギエフが、手兵のマリインスキー劇場管弦楽団を率いて、オペラ座バレエ団出演のバランシンのバレエ『ジュエルズ』の抜粋他を指揮。『ルビー』にディアナ・ヴィシニョーワ、『ダイヤモンド』にウリアーナ・ロパートキナが客演し、夢のような組み合わせによる『ジュエルズ』であった。

 ゲルギエフは、このあとバスティーユで、ショスタコーヴィチ作曲のオペラ『鼻』を振った後、シャトレ座で、バレエとオペラ合わせて3演目を指揮するなど、その活躍ぶりは超人的だ。

<ダイヤモンド>

 さて、3年ぶりの来演となったマリインスキー劇場バレエ団のパリ公演は、11月23日<フォーサイスの夕べ>(2公演)で開幕し、12月5日までの約2週間、チャイコフスキー曲『白鳥の湖』(3公演)、<バランシンの夕べ>(2公演)、チャイコフスキー曲『くるみ割り人形』(5公演)の4つのプログラムが上演された。この夏のロンドン公演とほぼ共通の内容だが、パリでも若返ったメンバーと新しいレパートリーを携え、新生マリインスキーを印象づける画期的な公演となった。


<ルビー>

フォーサイス/プロ

フォーサイス/プロ

 まず開幕の<フォーサイスの夕べ>。1990年代にフォーサイスを世界に発信する拠点となったこの劇場での公演初日にこのプログラムを持ってきたところに、バレエ団の意気込みがうかがえよう。曲目は『ステップテクスト』『精密の不安定なスリル』『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイテッド』の3本。いずれも2004年3月にレパートリーに入ったものばかり。これまで見慣れた研ぎすまされたハードなフォーサイスとはちょっと違う、丸みを帯びた感触に最初は戸惑いを覚えたものの、最後の『イン・ザ・ミドル…』に至って、マリインスキーがフォーサイスを踊る意味が十分に理解された。シルヴィ・ギエムのパートを踊ったイリーナ・ゴルプをはじめ、エカテリーナ・コンドロワ、アンドレイ・メルクリエフら9人の精鋭たちのシャープでダイナミックな踊りは、従来のマリインスキーのイメージを大きく覆すもので、本家のフォーサイスを見慣れたパリの観客に大きなショックを与えた。

『ステップテクスト』は、何と言ってもヴィシニョーワの強烈な個性が光った。フォーサイスというより、どちらかというとベジャールの『バクチ』に通じるパッションが感じられたが、それはそれで興味深いものがある。

『精密の不安定なスリル』が、フランクフルト・バレエ団によって、この劇場で初めて上演された時は、意図的にチュチュの似合わない男性的な肩の張ったダンサーが踊ったために、クラシックのパと奮闘する様子が滑稽に映ったが、マリインスキーのダンサーたちには、胡蝶型のチュチュがしっくり似合って、目のくらむようなパをいとも簡単に踊りこなしているのが対照的だった。

 プログラムの二つ目は、バレエ団の十八番の『白鳥の湖』で、主役は次の通りの配役。
 11/25 ウリアーナ・ロパートキナ&ダニーラ・コルスンツェフ
 11/26 アリーナ・ソーモワ&イーゴリ・ゼレンスキー
 11/27 ユリア・ボリシャコーワ&イーゴリ・コルプ
 ちなみにパリに先立って行われた<カンヌ・ダンス・フェスティヴァル>の公演では、エレーナ・ヴォストローチナ&ゼレンスキー、ヴィクトリア・テリョーシキナ&コルスンツェフが踊っている。パリでは、バレエ学校を出たばかりの最も若い新人が二人も起用されたのが注目された。

 初日を飾った名花ロパートキナは、オデット=オディールの第一人者として、どこまでも気高く、マリインスキーの伝統を引き継いだ典型を示し、オデットと王子のアダージオが終わった時からブラボーの歓声を浴びた。ロパートキナの宙を舞うような軽やかなパには目を奪われるが、コール・ド・バレエに至るまで、舞台で全く足音がしないことに驚かされる。

<白鳥の湖>より
ロパートキナ


<白鳥の湖>より
ロパートキナ
 3日目に登場したボリシャコーワは、のびのびとした手脚の持ち主で、まだ演技にむらがあるものの、19歳とは思えない堂々とした舞台姿と情感のこもった踊りに、大きな将来性を感じさせた。数年後には間違いなくスターになっていることだろう。

 ソリストでは、パ・ド・トロワのゴルプ、ダリヤ・スホルコヴァ、アントン・コルサコフ、大きな四羽の白鳥を踊ったコンドロワ、ヴォストローチナ、トカチェンコ、テリョーシキナ、回転技や跳躍で沸かせた道化のアンドレイ・イワノフなどが見せ場で活躍し、バレエ団の層の厚さを感じさせた。プロポーションがすらりと揃ったコール・ド・バレエもマリインスキーならではの美しさだった。

 ただ、演出に関してはいくら定評あるセルゲイエフ版と言っても、1950年初演、今から55年も前のプロダクションでは、あまりに奥ゆかしい。もっともそうした不満は、まもなくオペラ座で始まるヌレエフ版の『白鳥の湖』を見れば解消されるだろう。この時期、パリでは、ほかに、M・ボーンの『白鳥の湖』やR・ホーゲの『白鳥の湖』などが重なり、偶然にも『白鳥の湖』の当たり年なのである。

 今回最もマリインスキーの真価が発揮されたのは、<バランシン・プロ>だったかもしれない。演目は『フォー・テンペラメント』『放蕩息子』『ラ・ヴァルス』『バレエ・インペリアル』の4曲。2001年から2004年の間にレパートリーに入ったものばかりだが、コール・ド・バレエの均質なことと、優れた音楽性は感嘆もので、一曲ごとに客席の興奮が高まっていくのが感じられた。

『フォー・テンペラメント』では、<サンガン>のエカテリナ・オスモルキナをはじめとするソリストとコール・ド・バレエの音に乗ったアンサンブルが見事だった。『放蕩息子』はミハイル・ロブーヒンの表題役に、コンドロワのシレーヌで、素朴な味わい。ラヴェルのワルツに振付けられた『ラ・ヴァルス』は、このバレエ団の美点である、流れるようなポール・ド・ブラが十二分に生かされた作品で、幕開きのトリオ(コンドロワ、スホルコワ、ヴォストローチナ)の優美な動きがコール・ドへ引き継がれていく過程に見応えがある。華やかなワルツが繰り広げられる中、ロパートキナ扮する一人の乙女が死に取り憑かれ息絶える。ロパートキナの風格ある演技が感銘を誘った。


バランシン・プロの<フォー・テンペラメント>

バランシン・プロの<ラ・ヴァルス>

 そして圧巻だったのは、最後のチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番に振付けられた『バレエ・インペリアル』。男女ともこれだけ体型の揃ったダンサーを集められるのは、このバレエ団の強みだろう。ソリストのヴィシニョーワとゼレンスキー、オスモルキナを中心に、若さあふれるコール・ド・バレエが一体となって奏でるチャイコフスキーは、まさに”見る音楽”で、バランシンの魂が見事に息づいていた。

 3年前、ヴィシニョーワやザハーロワ、ルジマートフといったスターを中心に、<ニジンスキーーフォーキン・プロ>や『ラ・バヤデール』でパリを魅了したマリインスキー・バレエは、今回若い才能を思い切って抜擢し、近い将来に向けて果てしない可能性を提示したのである。
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