●刺激的なカンとチェルカウイのデュオとDV8の新作----テアトル・ド・ラ・ヴィル公演より
今シーズン、テアトル・ド・ラ・ヴィルでは、開幕のプレルジョカージュ振付『四季…』に続いて、刺激的な公演が相次いで、熱気がただよっている。10月は、まずアクラム・カンとシディ・ラルビ・チェルカウイの異色のデュオ作品『零度(ZERO DEGREE)』(10月11日から16日まで)が上演された。
イギリス生まれのパキスタン人舞踊家カンと、ベルギー生まれのモロッコ人舞踊家ラルビ・チェルカウイ。二人の出会いのきっかけは、ラルビ・チェルカウイが5年ほど前にカンの踊りを見て強い印象を受けたことにさかのぼるという。この作品は7月にロンドンで初演され、フランスのダンス雑誌『DANSER』の表紙を飾った。国境とアイデンティティ、旅をテーマにした1時間10分ほどの作品である。カンの旅の経験を元に構成され、3つのパートの前にそれぞれ二人が英語で語りを入れるが、ムードラを交えた語り口も雄弁である。 |
『零度(ZERO DEGREE)』 |
『零度(ZERO DEGREE)』 |
グレー一色に囲まれた舞台には、白いマネキンが二体横たわっている。舞台奥で演奏する4人のミュージシャン(ヴァイオリン、チェロ、打楽器、歌)の姿が紗幕越しに時折見える。ニティン・ソーネーによる音楽は、インドの伝統的な旋律やリズムに現代の響きをミックスさせたもの。精悍でシャープなカンと、ゴムのように柔軟なラルビ・チェルカウイのデュオは、異なる個性がぶつかり合って、沸き上がるようなエネルギーを生み、大変スリリングなフュージョンが実現した。洗練されたムードラと足を踏み鳴らすような民族的なステップ、流れるようなムーブメントなどなど、いずれもオリジナリティーが伝わってくる。 |
なおラルビ・チェルカウイは、アラン・プラテル・バレエ団を離れ、モンテカルロ・バレエ団との仕事やアントワープでの新作準備にかかるという。
続いて、ロイド・ニューソン率いるDV8フィジカル・シアターが来演し、新作の『Just for Show』を上演(10月20ー29日)、こちらも観客を熱狂させた。
舞台には、真紅のカーテンがかかった小舞台が設置されている。このようなショー仕立ての舞台は、ドゥクフレ、モンタルヴォなどの作品でも試みられているが、DV8のステージは、ビデオ効果も駆使され、終始マジックとユーモアにあふれ、とりわけ大人の魅力がたっぷり。それはタニアというブロンドの女性ダンサーのセクシーな魅力によるところが大きい。まず買い物カートに乗って登場するのが意表を突いているが、その見事な脚線美とプロポーションに加え、魅惑的な話術、ひいてはサーカス出身かと思うような柔軟さで曲芸技も披露、多彩な才能で、観客を完全にノックアウトしてしまった。
ほかにもポールという若いダンサーが、アスレティックな動きで活躍。観客に話しかけたり、シャンペンをサービスする辺りは、ピナ・バウシュ風でもあるが、終演後は、出演者一人一人が前方の席の観客に”どうもありがとう”と言いながら、握手していくところまで、計算が行き届いた舞台に脱帽。 |
DV8 |
●セルジュ・リファールの映画とパトリック・デュポンのドキュメンタリー番組
今年は、パリ・オペラ座の発展に大きく貢献した偉大な舞踊家セルジュ・リファールの生誕100年に当たっている。これを記念して、バレエのドキュメンタリー映画を数々制作してきたドミニク・ドゥルーシュが、『ミューズを導くセルジュ・リファール』と題した約一時間半の映画を制作。9月下旬のテレビ放映の後、シャンゼリゼの映画館エリゼ・リンコルンでの上映も予定されている。
この映画は、ドゥルーシュ自身の語りで進められ、イヴェット・ショヴィレやジャン・バビレ、セルジュ・ペレッティ、ニナ・ヴィルボヴァ、ジャニーヌ・シャラなどの貴重な証言を交えながら、リファールが振付または改訂を行った12のバレエを通して、リファールの偉業を偲んだもの。取り上げられた作品は、『バー』『イカール』『イスタール』『騎士と姫君』『レ・ミラージュ』『ショタ・ルスタヴェリ』『ノテオス』『ガルニエを讃えて』『フェードル』『牧神』『オルフェ』『ジゼル』。ドゥルーシュのこれまで製作したバレエ映画からの抜粋も含めた見応えある内容となっている。出演は、クロード・ベッシー、アッティリオ・ラビス、シリル・アタナソフ、イザベル・ゲラン、モニク・ルディエール、マニュエル・ルグリ、マリシア・ハイデ、デルフィーヌ・ムッサン、ヤン・サイズ、ジュリアン・メザンディ、ステファン・ブリヨン他。
『ミューズを導くセルジュ・リファール』 |
『ミューズを導くセルジュ・リファール』 |
“パトリック・デュポンは今、どうしているの?”
このようなファンの声に応えるかのように、デュポンのドキュメンタリー映画『パトリック・デュポンー挑戦』が10月にテレビで放映された。この番組は、2004年3月にオペラ・ガルニエで企画されたオペラ座バレエ学校校長クロード・ベッシーの引退記念公演に、デュポンがベジャールの『サロメ』で登場した際の“カムバック”の模様をカメラで追ったもので、恩師のベッシー校長から出演の依頼を受け、無二の親友であるジャン=マリ・ディディエールが見守る中、オペラ座バレエ学校のスタジオで、リハーサルを繰り返し、公演当日を迎えるまでを中心に構成されている。
映像は、デュポン自身がキャリアを振り返りながら進められ、マックス・ボゾニの元で、バレエを始め、17歳でヴァルナ国際コンクールに優勝、様々な振付家やパートナーとの出会いについてエピソードなどが語られる。ノエラ・ポントワとの『ドン・キホーテ』やモニク・ルディエールとの『ロミオとジュリエット』、マリ=クロード・ピエトラガラとのプティ振付『カメラ・オプスクラ』、そして、デュポンの代名詞のようなベジャール振付『サロメ』などの映像が交えられ、全盛期から現在に至るデュポンの舞台姿が収められているのがうれしい。
ベッシー校長の記念公演から半年後、デュポンは、とある稽古場で、一人の少女を指導している。デュポンの夢は、バレエ学校を開くことだそうだが、彼はこれからどこへ行くのか。番組を見終わっても、やはり彼の今後が気になるのである。
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