渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe
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●パリ・オペラ座、ノイマイヤー版『シルヴィア』を再演

 ノイマイヤー振付、ドリーブ曲のバレエ『シルヴィア』が、オペラ・バスティーユで再演された(3月2日から4月2日まで)。

 この作品は、1997年にオペラ座のためにジョン・ノイマイヤーが2部構成で創作したもので、それ以前にオペラ座で上演されていたダルソンヴァル版(1979年初演)の古典的牧歌劇のイメージを一新、現代に通じるモダンで洗練された舞台を作り出すことに成功した。古典的な従来版では、タイトルロールのシルヴィアに踊りの見せ場が集中していたのに対し、ノイマイヤー版では、シルヴィアの他、シルヴィアの恋人で羊飼いのアミンタ、愛の神アムール/羊飼いティルシス/オリオン、月の女神ダイアナ、永遠に眠り続けるエンディミオンといった五人の主要登場人物の心理描写が深められ、それぞれの役作りが見どころとなっているのが特徴。ヤニス・ココスの美術もシンプルながら鮮やかな色彩が目に焼き付くようで、舞台効果を上げている。

 前回、2002年年末の再演では、道具方のストライキにより、録画撮りが中止されてしまうという残念な経緯があったが、今回は実現し、このノイマイヤー版も映像として記録されることになったのはうれしい。

 初演以来、すでに数えきれないほど見ていると思うが、エトワール陣をはじめとするバレエ団の白熱した舞台には、また印象を新たにするばかりだった。

 初日は、シルヴィア=オレリー・デュポン、アミンタ=マニュエル・ルグリ、アムール/ティルシス/オリオンの三役=ニコラ・ル・リッシュ、月の女神ダイアナ=マリ=アニエス・ジロー、エンディミオン=ジョゼ・マルティネズという、主役陣をエトワール5人が固めるという、現在望みうる最高のキャスティングで幕を開け、客席を沸かせた。

 以前、ル・リッシュのアミンタとのペアですがすがしいシルヴィアを印象づけたデュポンは、とみにエトワールの優雅さが加わり、とりわけ第2部1場の<オリオンの宴>の場では、真紅のドレスに包まれて、燦然と輝くような美しさを放っていた。ルグリのアミンタは、初演以来の持ち役だけに、余裕があり、最後にシルヴィアと再会する<冬>の場面では、そこにノイマイヤー自身がいるのではないかと錯覚させるような哀愁の濃い表情を見せていた。

 ダイアナのジローは、第1部<ダイアナの聖なる森>の登場場面から、ワルキューレのように勇ましい狩りの乙女たちを率いる女神として、かつてないほど美しく、永遠に眠るエンディミオンとのパ・ド・ドゥは、この上なく官能的で、全編通じて旬の輝きを感じさせた。

 ル・リッシュの三役も初演以来評判になっているものだが、愛の神アムールから羊飼いティルシス、そしてシルヴィアを別世界へ導くオリオンという三つの役を変幻自在に演じ分け、相変わらずこのバレエの主役ともいえる活躍ぶりだった。
 これに続いて、シルヴィアにベテラン、ナタリー・リケ、アミンタに新進エルヴェ・モローというペアの日も、解釈が全く異なり、興味深いステージであった。この組み合わせは、2年前にもあったものだが、とりわけモローの若さあふれるダイナミックな踊りに目を奪われた。ナイーブな演技も自然で、エトワール昇進も時間の問題だろう。

 アムール他は、マルティネズで、オリオン役で独特の怪しい雰囲気を放っていたのが面白い。ダイアナにはデルフィーヌ・ムッサンが扮し、強い現代女性を象徴するようなジローと好対照に、柔軟で優しい女性的なフィーリングをたたえた女神を好演した。エトワールになったばかりのウィルフリード・ロモリのエンディミオンとのデュエットも、ロモリの強靭で確実なサポートに支えられ、見応えを増した。

 主役たちのみならず、アンサンブルからも目を離せなかった。第2部のオリオンの催す舞踏会の場面は、シルヴィアを誘惑する美貌の紳士淑女たちが次から次へと現れ、高揚する音楽に乗せて饗宴を繰り広げるが、最前列で踊っていた若きブロンドのジュリエット・ジェルネズの美貌がひときわ際立っていた。遠目では、そのすぐ後ろに、ドロテ・ジルベールがいることに気がつくまでに時間がかかったほどである。 
 指揮はポール・コネリーで、パリ・オペラ座管から甘美で絢爛とした音響を引き出し、見事だった。

デュポン

デュポン&ルグリ

デュポン&ル・リッシュ

デュポン&ジロー

リケ&モロー

●ベラルビ振付『嵐が丘』再演、ジロー&ル・リッシュの卓越した演技

 今から3年前に初演されたカデール・ベラルビ振付の創作バレエ『嵐が丘』がガルニエで再演された(3/5ー15)。

 エミリー・ブロンテの原作に触発され、フィリップ・エルサンのオリジナル音楽、ペーター・パプストの美術により制作された2幕のバレエ。初演の際は、マッツ・エックやピナ・バウシュなどの動きを想起させたり、全体にまだぎこちない面が見られたが、今回久々に見て、隅々まで入念な仕上げの後が見られ、同じ作品とは思えないほどだった。

 主要キャストはほとんど変わらないが、各人の人物像の解釈が深まったせいか、舞台の出来映えは大きく違う。まず主役キャサリンを演じたマリ=アニエス・ジローと、キャサリンを狂おしいまでに愛するヒースクリフを熱演したニコラ・ル・リッシュのペアの演技が卓越している。二人はバスティーユで平行して上演中の『シルヴィア』でもそうだったが、今最高に乗っている。ダイナミックで現代的な感性がぴったり一致しているように見えるのである。けれども、この二人が共演するのを見られる機会はそうないから、ますます貴重だ。

 ベラルビは、今回の再演に際して、全体に細かく手を入れたのかもしれない。例えば、キャサリンの兄、ヒンドリーのウィルフリード・ロモリの作品に占める比重が増したような気がしたが、これはロモリがエトワールになって、ジローと同じように、第一舞踊手のころと比べて、演技に自信と余裕が出てきたためかもしれない。

ジロー

 ベラルビは、ヒースクリフとキャサリンのそれぞれの分身として、身体とエスプリを代表するアンサンブルを登場させている。嵐を呼ぶような黒衣の男性舞踊手の集団と、キャサリンの死後、第2幕で登場する、現代版『ジゼル』のウィリーたちといった趣の女性群舞だが、その扱いが、ドラマの雰囲気を高める上で非常に効果的であった。

 エドガーのジャン=ギヨーム・バール、エドガーの妹イザベラのエレオノラ・アッバニャート、ジョゼフ老人のジャン=マリ・ディディエール、召使いネリーのセリーヌ・タロン、キャサリンの娘キャシーのミュリエル・ジュスペレギー、ヒースクリフの息子リントンのジル・イゾアールと、充実した脇役陣がドラマを盛り上げていた。



ジローとバール

ル・リッシュ

ロモリ
 

 

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