●トリシャ・ブラウンの新作が話題
パリ・オペラ座<ブラウン/フォーサイス / ランスロ>
パリ・オペラ座では、バスティーユでの『眠れる森の美女』が佳境に入ったのと平行して、12月17日から、ミックス・プロが始まり、年末のにぎわいに花を添えた。
プログラムは、アメリカのポスト・モダンダンスの旗手トリシャ・ブラウンに委嘱した新作世界初演の他、再演作品3曲で構成されたもの。
いずれも、音楽にオーケストラを必要としないか、無音の中で上演される曲目である。
冒頭のフランシーヌ・ランスロおよびカデール・ベラルビ振付『バッハ組曲2』(音楽は、J・S・バッハのチェロ組曲3番)は、
1984年シャンゼリゼ劇場で、ヌレエフによって初演されたランスロ振付『バッハ組曲』の改訂版。バロック・ダンスの権威であったランスロは、2003年暮れに亡くなっている。
『バッハ組曲2』は、2003年のヌレエフ没後10年記念ガラと、2004年のクロード・ベッシー・ガラで、ベラルビによってすでに上演されているが、
この時は、全6曲のうち半分の3曲のみだった(後者では、バレエ学校生徒も参加)。今回は、ベラルビによる『バッハ組曲2』の全曲上演のほか、
ニコラ・ポールの改訂による『バッハ組曲3』も日替わりでお目見えした。
公演初日は、ベラルビ版で、ベラルビ自身が舞台上のチェリストの演奏で、6曲のソロを披露。朱色の宮廷風の衣裳をつけたベラルビの舞台姿は優美で、
バロック・ダンスのテクニックに、スピーディーな動きや床を転がるといった現代感覚を加味したり、演出に遊び心を取り入れるなど、なかなかのセンス。
ロビンスの『ダンス組曲』のバロック版といってもよいだろうか。
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『バッハ組曲2』 |
休憩をはさんで、ブラウン作品が2曲。昨年に続いて再演された『グレイシャル・ディーコイー沈黙の中のバレエ』(1979年初演)に続いて、新作『O zlozony/
O composite』が世界初演された。この作品は、エトワールのオレリー・デュポン、ニコラ・ル・リッシュ、マニュエル・ルグリのために振付けられたもの。
三人は、2週間ほどニューヨークに滞在し、この新作に取り組んだそうだが、新たなチャレンジの成果が現れた秀作となった。
音楽は、マルチ・アーティストのローリー・アンダーソンに委嘱したオリジナルで、ヴァイオリンやギター、パーカッションなどの多彩なサウンドに、
ノーベル文学賞受賞作家であるリトアニア生まれのポーランド人、チェスワフ・ミウォシュ(1911ー2004)の詩『鳥への頌歌』のポーランド人の女優による朗読を重ねたのがユニーク。
この音響と満天の星をバックに、白い衣裳に包まれたエトワール・トリオは、ブラウン独特の淀みなく流れる宇宙空間にたゆたう。夢見るようにファンタジックな作品である。
デュポンは、鳥のシンボルであるかのように、両手を翼のように広げ、手から手へと、二人のパートナー、ル・リッシュとルグリの間を行き来する。
高々とリフトされて、ゆっくり回転していく瞬間は、鳥の飛翔を思わせ、作品の白眉と言えるような美しさだった。
髪を刈り上げたル・リッシュは、一段と逞しさを感じさせ、見るものを驚かせたが、外観のみならず、抑制された動きの中にもエネルギーが秘められ、
端正なルグリの踊りと好対照をなしていた。シンプルな動きの一つ一つが、このトリオにかかると、生き生きとした精彩を帯び、20分がまたたく間に過ぎてしまった。
なお、ダブル・キャストには、ドロテ・ジルベール、ジェレミー・ベランガール、ヤン・ブリダールの組み合わせが3回予定されていたが、ベランガールの降板により、後の2回をル・リッシュが替わりに踊っている。
最後を飾ったのは、フォーサイス振付『パ./パーツ』。1999年初演時は、ルテステュ、ル・リッシュ、バール、マルティネズ、ベラルビなどほとんどエトワール中心の配役が組まれたのに対し、
今回は、エトワールは一人も出演せず、若手中心の配役だったが、驚いたことに作品の輝きは変わっていない。
むしろ、パートによっては、手脚のスラリと伸びたプロポーション抜群のダンサーが出てきただけで、フォーサイスのダンスの真価が見えたというような新鮮な体験もあった。
例えば、これまで冒頭のソロを踊ってきたペギー・グルラ(現在フォーサイスのカンパニーに所属)に替わって現れたサブリーナ・マレムの柔軟さは驚きだった。
またデルフィーヌ・ムッサンやセリーヌ・タロン、ドロテ・ジルベールなどのシャープな動きも実に心地よい。
男性では、エルヴェ・モロー、ヤン・サイズなどのスマートなシルエットが目立ち、力強いウィルフリード・ロモリや ジェレミー・ベランガール、
スキンヘッドのオーレリアン・ウエットなども個性的。全員の名前を挙げる余裕がないが、15人の精鋭たちが織りなすフォーサイスの世界は、なんとスリリングだったことか。
オペラ座ならではの先鋭的なアンサンブルをたんのうできた舞台だった。
時の人オレリ−・デュポン:ガルニエでのブラウンの新作のほか、バスティーユでの『眠れる森の美女』でも人気を博したデュポンは、年末のメディアを飾る売れっ子ぶり。
イメージ・キャラクターに選ばれた宝石のショーメのカタログの表紙になったほか、スペクタクル特集の『フィガロ・スコープ』でも、
二つの劇場で活躍するエトワールとして大々的にインタビューが掲載された。さらに週刊誌の『l'EXPRESS
mag』では、ルグリやル・リッシュとともに、ニューヨークで新作の稽古に取り組む模様を紹介、オーロラ姫を踊ったクリスマス・イヴの日刊紙『le Parisien』でもカラー写真入りで、
大きな記事が載った。98年の大晦日にキトリを踊ってエトワールになって6年。オペラ座の顔として堂々たるエトワ−ルに成長したデュポンの2005年の一層の活躍を期待したい。
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