渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe
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●パリ・オペラ座『ドン・キホーテ』続報

 オペラ座の『ドン・キホーテ』のシリーズは、終盤に向かって次第に盛り上がっていくのが常だが、今回も全くそうだった。既報の通り、すでに前半、様々なペアが妍を競ったのに続いて、後半に二人のゲストが登場するに及んで、観客の熱狂は最高潮に達した感があった。

 前半で、マチュー・ガニオと組み、彼のエトワール昇進を支えたアニエス・ルテステュは、今度は、ゲストのロベルト・ボッレと組んで再登場(5月28、31日)。上背があり、ギリシャ彫刻のようながっしりした体格のボッレは、長身のバレリーナのパートナーとして申し分ない。ルテステュを片手でサポートしてもびくともしない安定感があり、不思議なことに、彼が横に立つと、ルテステュの背の高さが気にならない。1幕と3幕のヴァリエーションでは、アラベスクで長くポーズを見せ、特に第3幕では、一体どのくらい静止していただろうか、前代未聞のバランス力に唖然とした客席から、驚嘆のどよめきがわき起こった。最後まで勢いの衰えない力強いピルエットで追い上げていく辺りも見事で、見せ場を心得ている。ルテステュのグラン・フェッテの迫力も、ちょっと類がないくらいで、二人のテクニックの応酬が見ものとなった。

 もう一人のゲスト、カルロス・アコスタも、国際的スターとして活躍しているだけに、こちらも完全なプロフェッショナリズムを発揮(5月29日、6月1、3日)。とりわけピルエットの妙技とサポートの上手さは驚異的である。キューバ勢はもともと並外れたバネがあり、ピルエットにも定評があるが、足を膝からくるぶしまで下ろしながら、あるいはアラベスクに移行しながら、きりきりと巻き込んでいく、つむじ風のような回転技がすごかった。このような超絶技巧をあまり見なれていないパリの観客は大喜びだった。

 今を時めくオペラ座の名花オレリー・デュポンとのペアは、一見相反するようで、これが予想外にスリリングなパートナーシップを展開、シリーズ掉尾を飾るにふさわしい華やかな踊りの饗宴を繰り広げた。デュポンは、このキトリ役でエトワ−ルに任命されただけに、はつらつとして闊達な動きが心地よく、今シリーズ中、最高といえる演技を披露した。一段と踊りに気品と風格を加え、オペラ座の女王の雰囲気さえ漂わせている。さらに、アコスタのサポートが、行くべきところにすっと手が行くという自然さで、ピルエットで回転させる際も、ほとんど手を触れずに、くるくると回してしまうという見事さだったので、デュポンの方もその心地よさに酔っているような余裕の表情さえ、垣間見られた。

 ここに来て、ようやくイザベル・シアラヴォラの森の女王を見られたのは幸運だった。聞いていた通り、プロポーション抜群なだけに、一挙手一投足が溜め息の出る美しさ。グラン・ジュッテを連続するところでは、宙に舞い上がるような跳躍に大きな拍手が送られた。ヤン・サイズのエスパーダは、非常に舞台映えし、ミリアム=ウルド・ブラ−ムのキューピッドは最高に愛らしい。すでにバジルで大成功を収めたエマニュエル・ティボーは、ジプシー役を振り当てられていた。天才的な人は、どんな役を演じても素晴らしいとは思うが、彼にはすでに役不足である。

 初めは、故障者が続出して成りゆきが心配されたものの、若い世代にチャンスが回ってきて、新しいエネルギーの台頭がたのもしく感じられた『ドン・キホ−テ』であった。

デュポン
カルロス・アコスタ

シアラヴォラ
●ベラルビの新作『結ばれた二人〜ゴッホ兄妹』

 カデール・ベラルビが、ヴィンセントとテオのゴッホ兄弟をテーマにした作品を考案中という話を聞いたのは、 確か、98年、東急文化村で行われた<ピカソとダンス>の企画で、『サルタンバンコ』を上演した後だったと思う。 それからしばらく時がたち、この企画は日の目を見ることになり、6月15日から19日まで、オペラ・バスティーユの地下にあるアンフィテアトルで新作披露の日を迎えた。

 天才画家のヴィンセントは、弟テオに、18年間にわたり、668通の手紙を書き、それは『ゴッホの手紙』としてまとめられ、世界中で出版されている。 ベラルビの創作のインスピレーションの源となったのはまずこの手紙だったそうだが、 彼は、この手紙を読んで汲み取れるような兄弟間の深い信頼や愛情といったものを劇的に表わすようなことはしていない。

 バレエ団きっての美男子として、雑誌のファッション・ページに登場することの多いべラルビだが、今回の新作は、 彼の物静かな外見からは想像できないような力強い男性的魅力を押し出した作品となった。ニコラ・ル・リッシュとウィルフリード・ロモリという、 ベラルビが絶対の信頼を置く二人の個性的な演者を得て、両者の個性と存在感がそのまま作品のムードを作り上げたようだった。

 ベラルビは、2年前、オペラ座のために『嵐が丘』を振付け、 昨年のヌレエフ・ガラや今年のベッシ−・ガラで披露したバッハ組曲のような古典舞踊のアレンジにもなかなかのセンスを見せるのだが、 今回は、完全にコンテンポラリー・ダンスの領域に入り、どちらかというとプレルジョカージュ振付の男性デュエット『ある関係』や人間の身体の問題に踏み込んだ 『カサノヴァ』の世界を想起させるデュエットが誕生した。

 ゴッホの手紙から、アントナン・アルトゥ−やフランシス・ベ−コンの世界へとのめり込み、ついには、プレルジョカ−ジュのグロテスクでアスレティックな、 身体の有り様を問いかける世界に行き着いたという感じである。

 台本は、ベラルビとドミニク・ロートレ、音楽は、セルジオ・トマッシに委嘱したオリジナル、装置、衣裳は、ヴァレリー・ベルマン。 踊り手二人の他に女優のノラ・クリエフが台詞や手紙の一節を口に出すなどして二人とかかわっていく。 演出や振付には、まだ改訂の余地があるように感じられたものの、ル・リッシュとロモリの兄弟にとどまらない親密な関係が、 こじんまりした小劇場でまじかに迫ってくる面白さがあった。
 

 

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