渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe
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”世紀のバレリーナ”ザハーロワとイレールの『ジゼル』
 パリ・オペラ座で2月から行われている『ジゼル』の終盤に、ボリショイ・バレエから客演のスヴェトラ−ナ・ザハ−ロワとオペラ座のプリンス、ローラン・イレールの二大スターが共演。シリーズ最後を締めくくるにふさわしい華やかでドラマティックな舞台が繰り広げられた(2月25日、3月2、4日)。

 1月のボリショイ・バレエのパリ公演で、センセーションを巻き起こしたザハ−ロワは、この『ジゼル』でも天才的な独自の境地を見せ、24歳にしてすでに”世紀のバレリーナ”あるいは”生ける伝説”との評価を得るに至っている。ザハ−ロワのジゼルは、まず第1幕は、村娘とは思えないほどあでやかで、表現も開放的。 従来あるヒロインのイメージを一新するような解釈が新鮮だが、型にはまらず、まだまだ変貌していきそうな限りない可能性を秘めている点がまた魅力である。宙を浮遊しているような軽やかなソロの見事さに、客席から感嘆のため息とともに拍手が沸き起こったが、数々のジゼルの名演が刻まれてきた歴史あるガルニエの観客をもすっかり魅了してしまったのである。オペラ座きっての名アルブレヒトであるイレールは、入魂の演技を見せたが、この自由奔放な天才をオペラ座のスタイルにはめようとはせず、情熱的なまなざしで見守っていたのが印象的だった。

 第2幕のザハ−ロワは、超人的な資質が一層きわだって、別世界に生きる精霊そのもの。アルブレヒトとのパ・ド・ドゥは、一体感が深まり崇高なまでに美しい。幕切れに、イレールが、花を一輪手にし、まだ目の前にジゼルがいるかのように、空を目で追う解釈は、深い余韻を残し、感動的だった。
当夜は、主役の演技に刺激されたのか、ソリストたちも競い合うようにベストの舞台を見せた。とりわけメラニー・ユレルとペザント・パ・ド・ドゥを踊ったエマニュエル・ティボーの弾むようなソロには、エトワールの風格さえ漂っていた。ウィルフリード・ロモリのヒラリオンは、貫禄で要所を引き締め、マリ=アニエス・ジローのミルタは、ダイナミックな跳躍に見ごたえがあり、ウィリの女王の威厳を感じさせた。

ザハロワ&イレールの<ジゼル>


ザハロワ&イレールの<ジゼル>

オペラ座ガルニエでイリ・キリアン特集


 オペラ座では、『ジゼル』と平行して、2月17日から3月3日までキリアンの3作品を特集するプログラムがガルニエで上演された。キリアンのカンパニーはしばしばオペラ座に招かれ、両者の関係は深く、今回初演された新作は、キリアンが長年の友好関係に感謝の意を込め、今季をもって勇退する総監督のユーグ・ガルに捧げられている。初日の舞台の後、キリアンには、ガルからレジオン・ドヌ−ル・シュヴァリエ勲章が贈られた。

 世界初演の『 Il faut qu'une porte…(扉は…)』は、オレリー・デュポンとマニュエル・ルグリのために創られた20分ほどの作品。これは、ルーヴル美術館にある、フランスの画家フラゴナールの18世紀ロココ・スタイルの絵画『閂(かんぬき)』に想を得ていて、絵画が動画に変わったかのような世界が出現する。鍵のかかった寝室にたたずむカップル。男が外へ出ようと鍵に手をかけると女がそれを止めに走る。バレエはここから始まり、驚くほどスローな動きでもつれあいながら、離れようとしても離れられないカップルの関係が官能的に描かれていく。最後に二人は、結局部屋にとどまり、並んでりんごをかじる。これは振付家自身の体験によるものなのか、それとも空想なのかは定かではない。デュポンとルグリは、奇妙な二人の関係を絶妙なタイミングで淡々とつづっていき、さすがだった。 交替はセリーヌ・タロンとロモリ。

 クープランのプレリュードを引用したディルク・ハウブリッヒのオリジナル音楽が、閂のきしむ音や衣ずれの音などを効果的に折り込み、クラシックなトーンをベースにしながら、モダンな感覚を醸成していて面白かった。

 他の二作品、ケ−ジ、ウェ−ベルン曲『ステッピング・ストーンズ』(91年)とジェズアルド、モンテヴェルディ他曲の『甘い嘘』(99年オペラ座初演)はともに再演。前者は、三年前にオペラ座で初めて取り上げられた時より、ダンサー個人の個性を一歩引いて、全体にキリアンのスタイルに溶け込んできた印象。動きが流麗なムッサン、鋭い感覚のデュポン、ダイナミックなジローなどが、キリアンの美学を体現するかのように見ごたえある踊りを見せていた。後者は、ムッサン&ル・リッシュ、アッバニャート&ルグリの二組がレ・ザール・フロリッサンよるマドリガルやグルジアの歌曲の演奏に乗せて、舞台と奈落を行き来しながら、『オルフェオとエウリディーチェ』をほうふつとさせる現世と黄泉の国、あるいは恋の甘さと苦さといった、二つの世界を夢幻的に描いていくもの。アッバニャ−トがまだキリアンのスタイルになじめず、浮き上がっていたものの、空間を鋭く官能的に切り裂いていく振付の軌跡が美しい。

キリアン<扉は…>
デュポン&ルグリ



キリアン<扉は…>
デュポン&ルグリ



<甘い嘘>
ムッサン&ル・リッシュ


 

 

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