●宮下靖子バレエ団クリスマス公演は深川秀夫の『妖精の接吻』ほか
毎年クリスマスシーズンに公演を行っている宮下靖子バレエ団は、ハンス・マイスター振付の『くるみ割り人形』というこの季節にぴったりのレパートリーも持っているが、
2004年はあえて、振付に深川秀夫と石原完二を迎え、創作作品を披露した。
第一部は、深川秀夫の『メンデルスゾーン・コンチェルト』。ヴァイオリン・コンチェルトにのせた、いわゆるシンフォニック・バレエだ。
作品は音楽同様三楽章に分かれている。第一楽章では石田絢子が、きびきびした演技を見せた。第二楽章のソリスト中西孝子は長い手足を生かし、叙情たっぷり。
パートナー大寺資二のサポートも繊細な心配りがみられた。第三楽章は、華やかな存在感をもつ鈴木祐子とアンドレイ・クードリャを中心に、盛り上がりを見せていた。
ロマンティック楽派の金字塔といわれるメンデルスゾ―ンのヴァイオリン・コンチェルト。その華麗な音楽が見事に舞踊化されていた。様式美にのっとった作風は清々しい。
それに加え、楽章ごとの繋ぎ方も洒落ている。様々な種類の作品を創作している深川だが、やはり彼の身体に染み込んでいるのは、まぎれもなくアカデミックなクラシック・バレエの技法。
それがあらためて納得できた。正統派ともいえるシンフォニック・バレエにほどよく深川独自のテイストが混ざり合った作品。深川の代表作のひとつといってもよいだろう。
ダンサーたちは難解な深川作品に果敢に挑戦していた。だが、それぞれの「色」の違いを感じさせた前述のソリスト以外のダンサーには、深川の振付の洗練された美しさを体現するのは、
やはり少々難しかったように見受けられた。 |
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第2部は、やはり深川作品の『ディ・フェーダ』と石原完二振付の『レヴォリューション』が上演された。『ディ・フェーダ』は、『メンデルスゾーン・コンチェルト』より深川色は濃厚。
シュトラウスの「美しき青きドナウ」にのせて、バレエ学校の生徒たちが背に羽をつけて舞っていた。
『レヴォリューション』は、トゥシューズではなく、バレエシューズで踊る作品。様々な決め事のあるクラシック・バレエから、自由な動きへのレヴォリューション(革命)、
あるいはまた、精神の解放が振付の狙いに思えた。
『ディ・フェーダ』 |
『レヴォリューション』 |
『レヴォリューション』 |
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第3部は、深川秀夫の新作『妖精の接吻』。
ディアギレフのバレエ・リュスにも所属していたイダ・ルビンシュテインからの依頼でストラヴィンスキーが作曲、1928年にパリで初演されたこの音楽は、
チャイコフスキーへのオマージュ的な要素も持ち、またストラヴィンスキーならではの「新しさ」も感じさせる。
原作はアンデルセンの童話「氷姫」。妖精の女王から接吻を受けた赤ん坊が、立派な若者に成長し、恋人と結婚式を挙げるその日に、再び妖精の女王からキスされ永遠の世界に旅立っていくというストーリー。
深川は、決して説明調に陥ることなく、物語を、しかし忠実に舞踊化していた。
たとえば、赤ん坊を抱く母親が、暗転の後、そのままのポーズで若者となった息子を抱きしめている。そこに18年の時間の移ろいがあったことは文字通り一目瞭然。
すべてに筋運びはスマートでスムーズだった。
若者役のヤコブス・ウィルフリッツは、婚約者がいながらも妖精の女王に引かれていく様をナイーブな表情で的確に表現。妖精の女王役、鈴木祐子は美しく、
時おり確かに、氷のような冷ややかな強さを感じさせた。藤井あずさは、恋人の心が見えなくなっていく婚約者の苦しみを、切ないような演技で納得させた。
ラストの雪のシーンがなんとも美しかった。祭りのシーンでのロシア風メロディの群舞など、手を加えた方が良いように思えた箇所もあったが、物語バレエとしての完成度は非常に高い。再演を熱望する。
(12月25日、京都会館第一ホール) |
●貞松・浜田バレエ団の『くるみ割り人形』
クリスマスシーズンの『くるみ割り人形』上演が、東京ほどに盛んとはいえない関西だが、
貞松・浜田バレエ団は、89年春にこの作品を初演したのち、翌90年にはクリスマスシーズンに公演。以来、何度も上演し、いまではすっかり神戸に『くるみ割り人形』は定着している。
再演のたびに、その舞台はどんどん充実してきた。最初は「借り物」だった美術が少しずつ新調された、といった目に見える変化も大きいが、舞台全体の空気も明らかに変っていった。
子役で出演していた生徒が入団し、やがてソリストとなるというケースが多いため、舞台上のダンサー全員がこの作品に愛着を抱いている様子。それが客席にも伝わってくる。
今年は12月25日と26日の2回公演。初日の主役は正木志保と貞松正一郎、二日目は、初めて主役に挑戦した竹中優花と、やはり王子役を初めて演じるアンドリュー・エルフェストン。二日目を見た。
第一幕に登場する『少年たち』を少女たちが演じる場合が(日本では特に)多いが、このバレエ団では、みんな本物の(?)男の子が演じている。だから迫力は抜群だ。
付属のバレエ学園のボーイズクラスが充実しているからだろう。しかもみんな、良家の子弟風の「お行儀」が身についていて、なんとも頼もしく、可愛らしい。
ドロッセルマイヤーは、初演時からこの役の泉ポール。素敵だが、どこか不気味な紳士の役を、独特の存在感で演じていた。フランス人形の正木志保はメカニックなテクニックで人形ぶりをアピール、
ピエロの武藤天華は、ペトリューシュカ風の哀愁を漂わせた。騎士人形の恵谷彰は、スパルタクスのような勇壮な踊りを見せていた。 |
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クララ役の竹中は、表情豊かで愛らしい。好奇心旺盛な少女クララ像が、踊るのが楽しく、幸せそうな竹中と完全に一体になっているようだった。エルフェンストンは、ニュージーランド・バレエ団出身。
長身で素晴らしく優しい笑顔が、クララだけでなく観客をも幸せな気分にさせてくれた。
ねずみの王様がセリから登場したり、戦いの場で宙乗りが披露されたり、どの場面も飽きさせることはない。ドラマはスピーディに展開して、クララと王子は雪の国に着く。
雪の女王の吉田朱里が美しかった。身体をしなやかに躍らせる。気品あふれる姿だった。特記したいのは雪のコール・ド。 かなりテンポアップしたオーケストラ演奏(堤俊作指揮、ロイヤルメトロポリタン管弦楽団)に乗せて、ダンサーたちは軽やかにスピーディに踊っていた。
よく見ると、コール・ドの主になっているのは、上村未香、佐々木優希、武用宜子ら、同バレエ団のそうそうたるメンバーたち。さすがに見ごたえある場面に仕上がっていた。
フルーツの精たちは、何度みてもかわいらしい。クララと王子を、小さい天使たちが迎えるのも、このバレエ団の特色だろう。お菓子の国でも、ダンサーの個性がそれぞれ鮮やかに表れていた。
佐々木優希&安原梨乃(お茶)の明るさ、吉田朱里(ゼリー)のセンスのよさ。恵谷彰を中心に、男性5人が踊るクッキー(ロシアの踊り)が、場内をさらに盛り上げた。
貞松・浜田バレエ団の『くるみ割り人形』は時間をかけて練り上げた芸術品、と同時に、観客を楽しませようというサービス精神にあふれたエンターテインメントでもある。
神戸市民に支持されているのは当然、と思えた。 |
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