アプローズ!番外編
関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
第6回マリインスキー・インターナショナル・バレエ・フェスティバル
ロシアのサンクトペテルブルクに行って、マリインスキー劇場で行われていたインターナショナル・バレエ・フェスティバルを観てきたので、レポートしよう。
このフェスティバルは、毎年2月〜3月にかけて行われている。この季節、サンクトペテルブルクはもちろん厳寒で雪に包まれているが、今年は3月後半の遅い開催だったので、街の雪は薄かった。しかし、ネヴァ河も街中に巡らされた運河も完全に氷結していた。
ネヴァ河がフィンランド湾にそそぐこの地はもともと沼地だったが、18世紀にピョートル大帝が、当時ロシアと対峙していたスウェーデン軍に対する要塞をここに築き、後方にペテルブルクの街を造ってヨーロッパの進んだ文明を取り入れる基地とした。イタリアから建築家を招いて街を造成させたので、水色や黄色、ベージュなどのパステルカラーによる美しい佇まいの街並が完成し今日まで残されている。皇帝の宮殿であるエルミタージュより高い建物は造ることが禁止されていたため、高層ビルは立てられていない。大体5、6階建ての歳月を経た建物が並んでいる。歩いていると時折、ねぎ坊主が競うように立つロシア独特の寺院に出会う。これがじつに鮮やかに彩色されていて、雪景色の光りを映して情感を漂わせる。近年は夜もライトアップされて、一段と魅惑的である。
マリインスキー劇場はそうした街の中、全身水色の姿を雪に映して建っている。エントランスは、市電やトロリーバスが行き交う広い通りに面している。アプローチや階段はなく、歩道から北国特有の二重扉を抜けるともう劇場のロビーに立っていることになる。
今回は6回目となるが、私がこのフェスティバルを訪れるのは3度目。第1回目では、祖国を離れたマラーホフがウィーンやニューヨークで成功したのをうけて招かれた。モスクワ時代ロシアの舞踊界では恵まれていたとは言えなかったマラーホフが、万感の想いを胸に踊った感動的なアルブレヒト。第3回目では、プティパの振付を復元した大作『バヤデルカ』、それから「エメラルド」(フォーレ曲)をパリ・オペラ座、「ルビー」(ストラヴィンスキー曲)をニューヨーク・シティ・バレエ、「ダイヤモンド」(チャイコフスキー曲)をマリインスキー劇場バレエがそれぞれ踊る、という超豪華な『ジュエルズ---インターナショナル』などを観ることができた。
今回は、ニコライ・ツィスカリーゼ、イーゴリ・ゼレンスキー、ファルフ・ルジマートフの三人の男性ダンサーをフューチャーしたガラ・コンサートと『オンディーヌ』(ピエール・ラコット振付の初演)『ドン・キホーテ』『眠れる森の美女』『白鳥の湖』などの古典全幕、新作三本、さらに最終日には「スターズ・オブ・ワールド・バレエ・ガラ」というプログラムであった。私は、ゼレンスキーとルジマトフのガラ、『白鳥の湖』そして最終日のガラを観ることができた。
『白鳥の湖』はウリヤ・ロパトキナがオデット/オディールを、ジークフリートにはパリ・オペラ座のジョゼ・マルティネスをゲストに迎えて踊った。ロパトキナのオデット/オディールは定評のあるところ。じつに安定した舞台で、観客は何も考えることなくロパトキナの動きを目で追っていくと、おのずと物語りの世界に没入していき、深いロマンティックな情感を味わう、そんな風にできている舞台だった。
マリインスキー劇場のレパートリーとして知られる、コンスタンチン・セルゲイエフ版で、キャラクターを付与されたジークフリートの友人ベンノは登場しない。その代りに、場面の先触れとして道化が種々活躍する。この演出についてはいろいろと論議が交わされているが、さすがにマリインスキー劇場バレエ団のレパートリだけあって、じっくりと踊りこまれている。
ジークフリートに扮したマルティネスもこの役を得意としている。すらりとしてノーブルな姿は、舞台に立っているだけで観客を魅了するかのよう。ただ、この日は少々、表情が読み取りにくかった。ほかに道化のアンドレイ・イワノフがきびきびした踊りで、舞台のリズムをリードしていて小気味良かった。
(以下次号)
『白鳥の湖』ロパトキナ、マルティネス
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