エヴァン・マッキー Text by Evan McKie/訳:香月圭 
[2013.02.12]

踊っても聴いても大好きな音楽をご紹介します

6th. Issue
Srial Report from Stuttgart by Evan McKie
エヴァン・マッキーのシュツットガルト通信 連載第6回
(Principal at Stuttgart Ballet シュツットガルト・バレエ団プリンシパル)

読者の皆様、こんにちは。
一月号のQ&Aへのご感想ありがとうございました。
シュツットガルトやカナダそして最近の日本での私のダンス生活の内面をちらりとのぞいて、お楽しみいただけたかと思います。機会があれば、春にも続きをやろうと思いますので、よろしければご質問をチャコットDance Cubeへ今すぐお送りください
前回、回答しなかった質問があります。それは、私が楽しんで踊れるお気に入りの音楽についてです。これは、すべてのダンサーにとって、答えるのがとても難しい質問だと思います。世の中には、優れた音楽が実にたくさんあります…。作曲における真の天才はいるのです。クラシック・バレエのダンサーとして、私自身はクラシック音楽に慣れていますが、バレエ団のために作品を創る振付家が使う何曲かのコンテンポラリー作品にも慣れています。自分が踊る音楽の大部分の美しさに感動します。実のところ、音楽は、子どもの頃、踊りを始めた主な理由でしたし、今も本当に毎日の最大のモティベーションとなっています…。いつの日か、私が踊るのを止めるときでも、音楽は私の日常生活において、常にもっとも必要なもののひとつとなるでしょう;そうなると確信しています。

これまでの舞台の音楽にまつわるもっとも不思議な体験のいくつかを選び出そうと、頭をひねってみました。難しいです…曲目リストがずっと続きそうなので、忘れていた曲がかかって、再び心と体に少しずつ入り込んでいくときのことを思い出してみました。しかし、それを書いているときに、舞台の別の場所へ私を誘ってくれる、特に優れた数曲をご紹介することができます。
クラシック作品について私が選んだのは、以下のとおりです…。

evan1302_01.jpg ハンス・ヴァン・マーネン振付
『フランク・ブリッジ・ヴァリエーションズ』
Photo: Stuttgart Ballet.

◎ブリテンの『フランク・ブリッジの主題による変奏曲』と『シンフォニア・ダ・レクイエム』
アシュトンやサープ、プティはそろってブリテンの初期の作品のひとつである『ブリッジの主題による変奏曲』を用いて自身の作品を振付けていますが、私がその曲で踊ったことがあるのは、『ブリッジ変奏曲』とうまく題名がつけられた、ハンス・ファン・マーネンによる、いくぶん暗いがときにダイナミックな作品だけです。男女間の変幻する関係を示すために、ファン・マーネンがこの曲のシンプルなワルツと行進曲のリズムをうまく使っているところが好きです。もうこれ以上続けられないと感じる何回かのクライマックスと、ずっと続くいくつかの美しい音が流れ、ブリテンの多くの作品と同じく、曲全体を終わりへと導く律動が流れます。
一つ一つの曲は、ブリテンの師フランク・ブリッジの人格の一面を反映しているとみなされています。私のお気に入りは行進曲とアダージオの曲です。重い音色もありますが、聴く者に衝撃を与えたり興奮させたりせずに、とても静かで完全に理解できるように感じる、とても耳に快い叙情的な音で終わります。このバレエは10人のダンサーのためのアンサンブルですが、ファン・マーネンは、最後の場面は一人の男性と一人の女性にのみ踊らせます。重厚で成熟し、繊細でいて大胆です。私は、緊密な人間関係の本質をとてもよく表した示したパ・ド・ドゥの “Q&A様式” が好きでした。ときには、パートナーの動きの繰り返しで、カップルで二歩前に進み、三歩下がったり、お互いの目を長い間見つめ合うだけだったりします…。ファン・マーネンのステップは、ブリテンのとても起伏のある楽曲に合わせて踊れるように、とても力強いのです。

イリ・キリアンの『忘れられた土地』は、すべての作品が叶わない方法で、配役されたすべてのダンサー一人一人に、音楽が影響を与えることができると実感する、もうひとつの作品です。音楽が始まると、強く、ときには荒々しい風のように、音楽とともに観客をゆり動かすのです(休みがありません!)。しかし、フランク・ブリッジの変奏曲のように、この曲も威勢よくというより、静かで落ち着いた音調で終わります。『シンフォニア・ダ・レクイエム』には、実は日本と関係した歴史があります(調べていただくと、とても興味深いです…)。しかし、私がこの曲を好きな理由は、交響曲として信じられないほどの力強さを秘めているからです。ブリテンはラヴェルやストラヴィンスキーに非常に影響を受けていると言う人々もいますが、この曲では、いくつかの旋律は荒々しく、抑制されていないと感じます;特に、フルートやトロンボーンとピアノの和音がそのように感じられます。この作品はたくさんの異なるムードがあり、キリアンは、異なるダンサーと彼らの様式を強調するのにこれを用いています。キリアンの振付は空間を飲み込み、とても自由奔放でもあります。この作品にも行進曲があり、幕が上がり、作品の音調を決める行進曲が始まると、私はキャスト全員と舞台にいるのを楽しみました。ダンサーたちは全員ゆっくりと動き始めますが、動きは次第に大きくなり、私は自分たちが沸騰するまでストーブにかけられた大きなポットの水のように感じました。この作品は1981年にシュツットガルト・バレエ団のために創られ、それ以来、世界中の他の幸運なダンサーたちによって踊られています。私は、この曲の一瞬一瞬が、聴いても踊っても大好きなのです。

◎フォーレの『レクイエム ニ短調』
ケネス・マクミランはこの合唱と管弦楽団による作品を、ジョン・クランコへの敬意を込めて用いました。このバレエは、今でもシュツットガルトとロンドンで踊られています。この作品はレクイエム(鎮魂曲)なので、明らかに生と死を扱っていますが、この特別な作品はもっと軽く、信仰についての異なる解釈を提供しています。
7楽章構成で、マクミランは振付にあたり、非常に逐語的でした。しかし、聖書への言及や登場人物は、クランコが創設した当時のバレエ団の強烈な個性の持ち主たちの何人かが投影されていました。レクイエムの「献奉」の部分と定められ、バリトン歌手の力強い声でリードされるリチャード・クラガンのために創られた役を私は踊りました。それは、同じ曲を教会で聴きながらもつ同じ信仰心で、シュツットガルト・バレエ団の否定しがたい本質と強さとその歴史を感じながら、バリトンの声が乗った音楽に合わせ、マクミランの振付を踊った、舞台上の最も記憶に残るときのひとつです。この音楽をご存知なかったら、ぜひお聴きください。

evan1302_02.jpg ケネス・マクミラン振付『レクイエム』のエヴァン Photo: Ulrich Beuttenmueller.

◎ヒンデミットの『4つの気質(フォー・テンペラメント)』
バランシン自身のことば「踊りは音楽を視覚化したものである」に、私は心から同意します。これを可能にするバランシンの天才ぶりは伝説的です。この音楽とバレエは、鑑賞し、踊り、ただ空想にふけるのにほぼ最適な私のトップ10リストにあります。
この音楽は1940年、このバレエ作品のために作曲されましたが、実にたくさんのコントラストがあって大好きです。古代の「4つのユーモア」理論に基づき、バランシンは、このバレエをオープン・スコア(楽器の各パートが一段ずつ別々の譜表に書かれている楽譜)のように隠さず公にしています。私は、特に普通ではないハーモニーと、聴くたびに弦楽器の音が実に鮮明な点が好きです。音楽に緊迫感が感じられますが、私を不安にさせる代わりに、むしろ落ち着かせてくれます。なぜなら完全に筋が通っているように思えるからです。この曲を聞き飽きることはなく、とてもユニークだと思います。

◎ブラームスの『ピアノ協奏曲 第2番』
これはだれもが踊りたくなる気持ちにさせる壮大で、壮健な協奏曲です! クランコは、この曲を用いて、当時のシュツットガルトの最大のスターたちの強さを称える、並はずれたアンサンブル作品を創りました。実は、このバレエは、『イニシャル RBME』と呼ばれ、R=リッキー(・クラガン)、B=ブリジット(・カイル)、M=マルシア(・ハイデ)、E=エゴン(・マドセン)を表しています。4楽章全体はおしなべて幸福感が漂いますが、私には回転するジェットコースターを思い起こさせもします。第2楽章を聴くと、そわそわどきどきします!  しかし、私が一番好きなのは第3楽章なのです。チェロのソロがありますが、私はそれを踊ったことがあります。ピアノ協奏曲の最中に、チェロのソロの音が入るなんて、普通ではありません。チェロに感謝しています…。チェロが大きな音を響かせると、ピアノがやさしく応えるのです。群舞と管弦楽がやがて静まる嵐のように、入って出て行く、一組の男女の美しいパ・ド・ドゥです。音楽とバレエのとても魅惑的な作品です。

◎ショパンの『ピアノ協奏曲 第一番 ロマンス・ラルゲット』
ジョン・ノイマイヤーの『椿姫』はよく知られ、実に見事なショパンの作品が多数散りばめられていますが、物語の中で何度か(劇中劇の)マノンとデ・グリューがマルグリットとアルマンに向かい合うとき、このバレエで繰り返されるのはこのラルゲットなのです。この音楽はいつも好きですが、このバレエの場合、ノイマイヤーはこの曲をとても見事に用いているので、ショパンの音楽からバレエの主役たちの感情を引き離そうと、いくら私が頑張ろうとも、引き離すことはできないのです。このバレエをご存知で、YouTubeでこのラルゲットを聴いたら、私に共感できると思います。

◎チャイコフスキーの(ほとんど)全部!
これには何も驚かないでしょう!  チャイコフスキーは、私たちダンサーに、舞台上でそれぞれお気に入りの時と役を与えてくれました。いくつかの作品が集中的に繰り返し用いられると、一生のうち、ただの一日たりとも 同じ曲を聴かないほうがいいかもしれない、ということになりがちです。しかしながら、選んだり踊ったりするべき作品が実にたくさんあるので、ときどき、お気に入りの曲をまた訪ねるのも、いつも大きな喜びなのです。

お話ししたい作品は、まだとてもたくさんあります(20世紀後期の作品については、まだ始めてもいません…)が、今はこれで充分ではないでしょうか。あなたのお気に入りの作品も知りたいです!

ではまた(Hug & kiss-)
エヴァン

Evan  McKie エヴァン・マッキー

エヴァン・マッキーはシュツットガルト・バレエ団プリンシパル・ダンサーおよびカナダ・ナショナル・バレエ団の専属ゲスト・アーティストである。これまでパリ・オペラ座、東京バレエ団、チリのサンティアゴ・バレエ団、ソウルのユニバーサル・バレエ団に客演した。
マッキーはカナダ人で、1983年トロントに生まれる。「ダンス・ヨーロッパ・マガジン」の「批評家選出」リストに過去10年間で何度もノミネートされる。また、芸術的功績を称し、アプリアルテ賞も受賞した。
マッキーはヴィジュアル・アーティストでもあり、時には執筆も行う。アメリカの「ダンスマガジン」の名誉顧問委員を務める。
エヴァンは、チャコットのウェブマガジンの執筆者になり大変喜んでいる。

Twitter http://twitter.com/EVANMcKIE
YouTube http://www.youtube.com/watch?v=XcOjAqnzJQY&sns=em
WEB Site http://www.evanmckie.com/
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