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浦野 芳子 
[2012.05.25]

シブヤ大学『はじめてのバレエ~音楽編~』をチャコットで開催!

なんとチャコットについに、シブヤ大学がやってきた!? いや、チャコットがついに渋谷大学の講堂(!?)になった!?
渋谷の街が生み出すさまざまなカルチャーを学びの場にしていこう、という国内でもユニークな試み、『シブヤ大学』。その授業のひとつに“はじめてのバレエ”という一コマが登場したのだ。これは、バレエとはどんなものなのか、を知るための基礎講座。4回に内容を分けて開催されるのだけれどもその第一回目が『音楽編』。Kバレエ シアターオーケストラトーキョー音楽監督の福田一雄氏を講師に招き、5月19日の土曜日、チャコット渋谷本店にて開催された。

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福田一雄氏は指揮者として戦後の日本音楽界の第一線で活躍されてきた方である。身近なところで言えばテレビ朝日系列「題名のない音楽界」、NHK「世界の音楽」などへの出演でご存知の方も多いと思う。そんな福田氏がライフワークとしてかかわってきたのが実は、バレエ音楽の研究なのだ。戦後間もないころ、谷桃子バレエ団、貝谷バレエ団、橘バレエ学校、などのスタジオでピアノを弾き、そこから、舞台での指揮を受け持つようになっていったのだとか。つまり、戦後の日本のバレエ史を、表裏両方から見つめ、支え続けてきたひとり、というわけだ。

福田氏が今回バレエ音楽の題材として選んだのが間近に迫っているKバレエ・カンパニー公演『海賊』の音楽。まずは、こんなに長い歴史を持つ作品なのに「そもそも楽譜というものは存在せず、指揮者が音を聞いてスコアに落としてきた」という事実を聞いてびっくり。19世紀中ごろから今日まで、そうして受け継がれてきたのだ! なぜそうなっていったのかの理由の一つには、バレエ作品というものが時の振付家の解釈や、踊り手の力量、劇場内の力関係などの影響を受けて進化と変化を繰り返してきた歴史がある。だから『海賊』というひとつのバレエ作品の中には、複数の作曲家の作品が同居しているのである。バレエには、白鳥の湖=チャイコフスキー、のようにひとりの作曲家がその作品向けに曲を書き下ろしているものと、何人もの作曲家の曲でパッチワークのように構成されているものとがある。そんな事実を、『海賊』に散りばめられた名場面にまつわるエピソードや、映像を交えて話してくださった。参加した50名ほどの受講生たちは、うなづいたりため息をついたりして、聞き入っていた。

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例えば、メドーラとコンラッド、そしてアリによるグラン・パ・ド・ドゥ。
グラン・パ・ド・ドゥ、と言えば男女のペアで踊られるのが一般的だけれども『海賊』は3人で踊る。
なぜか?
それは初演時、コンラッドを踊ったダンサーがすでに50代だったため、高度なテクニックによる見せ場を作るのが難しかった。ゆえに、若手による見せ場を設けよう、ということで奴隷アリという役柄が誕生。アリはパ・ド・ドゥにおける男性の超絶技巧を見せる役割を受け持ち、メドーラの恋人であるコンラッドには“リフトする”という役割が当てられたのだとか!  確かにこのパ・ド・ドゥのアリの踊りは、『海賊』の看板ヴァリエーションとも言える。でも作品全般を通してアリはさほど存在感を主張していないのはそういうわけだったのだ。ちなみに最近では、コンラッドの役を現役バリバリの人が踊ることが多いので、コンラッドのヴァリエーションが新たに加えられたヴァージョンも多い…などなど、そうした“作品創りの裏話”を聞くと、舞台の見え方もまた面白くなってきて、今後の舞台鑑賞が楽しくなりそうだ。

さて、熊川哲也版として2007年に誕生したKバレエ・カンパニーの『海賊』は、熊川芸術監督自身が現存する『海賊』の音楽はもちろん、『海賊』に使われている楽曲の作曲者たちの音楽を丁寧に聴くことからスタートしたのだという。そのうえで、イメージする作品世界にふさわしい曲を選び出し、さらに変調などを加え全体の流れを構成し直したのだそう。より明確に、そしてドラマティックにその作品世界が伝わるよう、不要な部分はカットし強調したい部分は強調する。音楽を通して日本のバレエ界を見つめてきた福田氏をして「素晴らしい構成」。
次回6月16日のシブヤ大学・同講座では“バレエを観る”と題して、実際に東京文化会館で上演されるKバレエ・カンパニーの『海賊』を鑑賞し、バックステージツアーなども体験できるそうだ。

オーケストラとダンサーたち、つまり、音と踊りがどうやって一体化していくのか、などという話を聞けたのもこういう機会ならでは。「一流のダンサーは、本番の音楽にいちいち注文は付けないんです。その代り、彼らが舞台に現れた瞬間、“あっ、今日はこういうテンポで来るな”“今日は音をたっぷり使うな”といったことが肌で伝わってくる」。さすが長年バレエ音楽に携わってきた福田氏ならではの、あ・うんの呼吸のエピソードも飛び出した。バレエが“生きている芸術”であることを、改めて考えさせられる。

バレエのはじまりとその発展、バレエ音楽の歴史、バレエ音楽の構成、などにも触れ、駆け足ながらもかなり濃い内容の2時間だった。
全4回のシリーズは、6月16日の「バレエを観る」。7月の「バレエの衣裳と小道具」。そして8月には「1分間バレエ」と称して、実際にバレエを踊ってみるというカリキュラムが用意されている。参加・応募については、シブヤ大学で。
http://www.shibuya-univ.net/

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●講師/福田一雄
1931年、東京生まれ。5歳より絶対音感早期教育を受け、ピアノをポール・ヴィノグラードフ(Paul Vinogradoff・元モスクワ音楽院教授)に師事。NHK「世界の音楽」、テレビ朝日系列「題名のない音楽会」の指揮者として国内外のソリストと共演。『白雪姫』 『みにくいアヒルの子』など子供のためのバレエの作曲を手掛ける。ライフワークはバレエ音楽の研究。多くのバレエ団との指揮活動の他、バレエ音楽の歴史、および複雑多岐にわたる楽譜の整理と蒐集を行っている。
シアターオーケストラトーキョー音楽監督。新国立劇場バレエ研修所講師。