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三光 洋 
[2014.07.14]

ついに開催された、パリ・オペラ座バレエ団から、さようなら公演「ニコラ・ル・リッシュの夕べ」

7月9日にガルニエ宮でニコラ・ル・リッシュのさよなら特別公演が行われた。1993年7月27日に南仏ニームで『ジゼル』のアルブレヒトを初めて踊ってエトワールに昇進してから21年、1982年オペラ座バレエ学校入学からは30年以上の時間が経過したことになる。
バレエ界だけでなく、マニュエル・ヴァルス首相、フィリペティ文化大臣、トビラ法務大臣ら政界関係者や文化人が会場に詰め掛けた。会場に入れなかったバレエファンは映画館と仏独共同テレビARTEのスクリーミング同時放映で見た。
http://www.operadeparis.fr/saison-2013-2014/soiree-exceptionnelle-nicolas-le-richeで現在も世界のどこからでも見ることができる)

1407nicola04.jpg (C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé
1407nicola01.jpg 「旅芸人」
(C)Opera national de Paris, Sebastien Mathe

さよなら公演は、特別に構成されたガラ・コンサート。まずル・リッシュの友人の歌手マチュー・シェディッドがギターを手に左袖から現れ、シャンソン「どこへ行く」(Ou aller ou ?)を歌いだした。中央奥からニコラ・ル・リッシュ が登場し、薄闇の青い照明の中でギターの音に合わせた即興でリラックスした表情でゆったりとした動きを見せてくれた。
これに続いたプログラムの最初は、ニコラが大きな影響を受けたローラン・プティの作品で、かつて若いニコラが踊った『旅芸人』の入場の場面だった。ピエロをはじめとする芸人に扮したオペラ座バレエ学校生徒と座長役のニコラが登場し、テントが張られた。生徒たちと踊るニコラの晴れやかな若々しい顔は年齢を感じさせない。やがてニコラの口上でテントの幕が開き、『卒業舞踏会』の鼓笛手(ランチェスコ・ムーラ)が現れた。自分も生徒だった時に踊ったソロの役を、ニコラは生徒たちといっしょに舞台上で見守った。
3番目はニコラ自身は登場しなかったが、『ライモンダ』第2幕からアラビアダンスでヌレエフへのオマージュだった。ヌレエフがオペラ座のために振付けた最初の公演に、ニコラはエキストラとして参加したという思い出の作品である。ドロテ・ジルベールのライモンダにステファン・ビュリヨンのアブデラーマンというエトワールカップル。韓国の若手セ・ウン・パクもアンリエット役で姿を見せた。
前半最後はニジンスキー振付の『牧神の午後』。装置を担当したレオン・バクストの美術をニコラが鍾愛(しょうれん)しているからだけでなく、女性を中心にした19世紀までのバレエに対して、男性ダンサーの可能性を開いたバレエ・リュスへの想いからの選択という。ジェレミー・ベランガールの牧神を見ていると、数年前見たニコラの欲望が迸る視線や身体から立ち上ってくる野性味、圧倒的な存在感が懐かしく思い出された。

1407nicola09.jpg 「ボレロ」
(C) Opéra national de Paris
/ Laurent Philippe
1407nicola02.jpg (C) Opéra national de Paris
/ Sébastien Mathé
1407nicola03.jpg (C) Opéra national de Paris
/ Sébastien Mathé

休憩後には6作品目としてマッツ・エク振付の『アパルトマン』からドアのパ・ド・ドゥをニコラとシルヴィ・ギエムが踊ったが、残念ながらストリーミングでの放映では映像がカットされてしまった。ロンドンから当夜のためにパリ入りしたギエムとニコラが年齢を全く感じさせない演技を見せてくれたようだ。
7演目の『カリギュラ』では、マチューガニオのカリギュラ帝が愛馬インシアティス(オードリック・ブザール)の手綱を握って現れた。ニコラがコメディ・フランセーズの俳優で映画監督としても注目されているギヨーム・ガリエンヌの協力を得て演出した作品である。歴史や美術への強い好奇心を持つニコラが、これからどんな作品を振付家として発表していくのかに期待がかかっている。
最後のベジャール振付の『ボレロ』では、中央に置かれた円形のテーブル上でニコラがソロを踊り、周囲には半裸の男性ダンサーたちが円卓を囲んだ。通常はコール・ド・バレエが踊る脇役に当夜はカール・パケットとジョシュア・オファルトの二人のエトワールが参加した。どんなに激しい動きの中にあっても周囲のダンサーたちに向けたニコラの顔には優しい微笑が浮かんでいた。
しかし、ニコラの演技が頂点に達したのはやはりジャン・コクトーの筋によるロラン・プティ振付「若者と死」だったろう。コクトーのデッサンが壁にあるベットに横たわったニコラの前に、黄色の服に黒の長手袋のエレオノーラ・アバニャートの妖艶な死神が対する。ニコラが首を吊ると壁面が引き上げられ、エッフェル塔がそびえる夜のパリが背景に現れ、白のドレスに長いショールの死が駆け去るところは何度見ても圧巻だ。力強さと繊細とが見事に一体となったニコラの演技が最も鮮烈に結晶した役だろう。

1407nicola07.jpg 「ボレロ」(C) Opéra national de Paris/ Laurent Philippe
1407nicola05.jpg (C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

『ボレロ』が終わると観客の熱狂は最高潮に達し、30分近い拍手が続いた。その後、カーテンの向こう側で大きな拍手が沸いたが、これはコール・ド・バレエからだった。終演後、ニコラには仏政府からレジョンドヌール第3等勲章が授与された。
しかし、この夕べでニコラのキャリアが終わったわけではない。「やっと自分で時間を自由に使えるようになる。音楽を聴いたり、舞台を見に出かけたりできる」と週刊誌「マリアンヌ」で語っているが、すでにシラク元大統領も卒業したフランスのエリート大学、パリ政治学院でマネージメントとリーダーシップを学びつつある。ダンサーとしても本欄ですでにご紹介した、今秋からパリ・シャンゼリゼ歌劇場でスタートする新しいダンスフェスティヴァル「トランサンダンス」に参加し、11月4、5日の「ニコラ・ル・リッシュ」の夕べで踊るとともに、新作『オデュッセー』の振付を発表する。また、来年3月5日にシャンゼリゼ歌劇場で世界初演が行われる藤倉大作曲、勅使河原三郎演出・振付の二幕オペラ『ソラリス』にもダンサーとして出演することが決まっている。
ニコラの通常最終公演となった7月5日のローラン・プティ振付『ノートル・ダム・ド・パリ』についてはDance Cube8月11日更新号でご報告したい。

1407nicola06.jpg (C) Opéra national de Paris/ Sébastien Mathé

7月9日のプログラムは以下の通りだった。
1 ローラン・プティ振付 『旅芸人』から 旅芸人の登場
2 ダヴィッド・リシーン振付 『卒業舞踏会』
3 ルドルフ・ヌレエフ振付 『ライモンダ』第二幕アラビアダンス
4 ニジンスキー振付 『牧神の午後』
5 ローラン・プティ振付『若者と死』
6 マッツ・エク振付『アパルトマン』から ドアのパ・ド・ドゥ
7 ニコラ・ル・リッシュ振付 『カリギュラ』 カリギュラとインシタトゥス
8 モーリス・ベジャール振付 『ボレロ』
ケヴィン・ローデス指揮 パリ・オペラ座管弦楽団
特別出演 シルヴィ・ギエム マチュー・シェディッド、ギヨーム・ガリエンヌ

1407nicola10.jpg (C) Opera national de Paris
/ Anne Deniau
1407nicola11.jpg (C) Opéra national de Paris
/ Anne Deniau
1407nicola12.jpg 「アパルトマン」
(C) Opéra national de Paris/ Icare
1407nicola14.jpg 「若者と死」
(C) Opéra national de Paris/ Icare
1407nicola15.jpg 「アポロ」
(C) Opéra national de Paris/ Icare
1407nicola16.jpg 「白鳥の湖」カール・パケットと(C) Opéra national de Paris
/ Anne Deniau
1407nicola13.jpg 「白鳥の湖」(C) Opéra national de Paris/ Icare 1407nicola17.jpg (C) Opéra national de Paris/ Maurizio Petrone