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関口 紘一 
[2010.10. 1]

エドガー・ドガの大回顧展を記して、19世紀の踊り子たちが甦った

横浜美術館でエドガー・ドガの大回顧展が去る9月18日から始まり、今年いっぱい12月31日まで開催される。17日の内覧会には、ドガ展広報大使に任命されたバレリーナ、吉田都も参加して華々しくオープニング・セレモニーが行われた。

今回の回顧展は、パリのオルセー美術館のコレクションを中心に、約120点が一堂に展示されている。
生涯に描いた作品のおよそ半分が踊り子の絵だった、と言われるドガの中でも傑作とされる「エトワール」が初来日し、今回のメインの展示作品となっている。一目で主役のダンスの見せ場とわかる優雅な動きの一瞬をとらえた絵で、エトワールの首を飾る細いリボンがたなびいてアクセントとなり、一際、華やかな雰囲気を醸している。舞台のやや上から見つめるアングルだが、背後の袖幕に顔が隠れるような場所に黒服の紳士が舞台を覗いている。
ドガは1872年頃から踊り子を描き始めたそうだが、当時、パリ・オペラ座ではタリオーニのパートナーとして活躍した後、サンクトペテルブルクなどでバレエ・マスターを務め、振付家としても『ジゼル』や『エスメラルダ』を振付けたことで知られるジュール・ぺローがバレエ教師として指導に当たっていた。ドガはぺローの肖像画も描いているが、「エトワール」と並んで有名な「バレエの授業」のバレエ教師のモデルもぺローだそうだ。
ドガはオペラ座の定期会員だったので、バックステージに潜入したり、時によってはクラスやリハーサルを見る機会もあったから、そういうシーンをしばしば描いた。今回、デッサンを含めてオペラ座の踊り子たちがバックステージでみせた何気ない表情を、ヴィヴィッドに描いた素敵な絵が数多く展示されている。
しかしそうした裏に入ることができる裕福な人たちの特権により、踊り子とパトロンのただならぬ関係が生まれて、オペラ座のバレエは衰退したとも言われる。「エトワール」の袖から覗く黒服の紳士は、そうした当時のオペラ座の内情を画面の中に表している。

ドガが踊り子を主題として描いていたのは、主として1870年から90年代だが、当時のオペラ座では、隆盛を誇ったロマンティック・バレエの時代が終わろうとしていた。
1875年1月15日、後に<パレ・ガルニエ>と称されることになる豪華絢爛の偉容を誇る新オペラ座がオープンし、バレエのこけら落とし公演は、サン=レオン振付、ミンクス、ドリーブ音楽の『泉』だった。翌年にはドリーブ音楽、ルイ・メラント振付『シルヴィア』が上演され、同じ振付家の『エッダ』『ラ・コリガーヌ』『二羽の鳩』、リュシアン・プティパ振付『ナムーナ』などがレパートリーとして踊られていた。

では、当時のチュチュを始めとするバレエ衣裳は、実際にはどのようなもので、今日の衣裳とはどのように違うのだろうか。
日本では21年ぶりに開催されたエドガー・ドガの大回顧展を記して、チャコットの衣裳部が「エトワール」の主役、「バレエの授業」の生徒たちや、彫刻「十四歳の小さな踊り子」などの衣裳を復元し、オープニングに合わせて回顧展会場や横浜ランドマークプラザ(26日に終了)で草月流の大きな生け花とコラボレーション展示された。

衣裳の復元にあたっては、まず、ドガの絵を集めたイメージボードやさまざまの時代や国のバレエの数多くの資料が集められて、デザイン画が起こされる。衣裳のデザインの素となる、染め、縫製、パターンなどをそれぞれの専門家が作っていく。
また、当時はチュールがなくコットン地やシルクなどが使われていたという。染料ももちろん天然ものだから、現在とは異なっている。
「エトワール」の衣裳は、最初に染められていない白い生地で試作用のものを作って試着し、ディテールを何回も何回も修正していく。ここで最も気を使ったのはシルエット。今日のものよりも腰の辺りが盛り上がったバッスルスタイル風の印象があるという。トップの袖の長さも現在より少し短く、チュチュのふっくらとした厚み、脚がほんの少し透けてみえるなどといったさまざまな細部も微妙に異なって、時代感覚が現れている。コサージュや首に巻かれた細いリボンなども、今、見たドガのパステル調の絵画から抜け出てきたように可愛らしく、典雅な雰囲気があった。
結局、チャコットの衣裳部では「エトワール」は主役を含む4体、「バレエの授業」は生徒たち3体、彫刻「十四歳の小さな踊り子」1体を復元し、微妙な色違いや素材を加えたものなど合計18体の<ドガの踊り子たち>が作られて現代に甦った。
そしてこれらの復元された衣裳は、渋谷本店を皮切りにチャコットの全国の店舗を巡回して展示されるというから、ぜひ、ご覧になってドガの時代のパリ・オペラ座バレエの優雅な気分を味わっていただきたい。

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