(関口 紘一)

『ロパートキナ 孤高の白鳥』

『ロパートキナ 孤高の白鳥』という映画が2016年1月に公開ロードショーされる。
ウリヤーナ・ロパートキナはいうまでもなく、今年11月から12月にかけて来日公演を行っていたマリインスキー・バレエ団のダンサーたちの頂点にいるばかりでなく、21世紀最高のバレリーナ、といっても異論をとなえる人はいないだろう。
20世紀を代表するバレリーナ、といえば間もなくさよなら公演を終えるシルヴィ・ギエム、マイヤ・プリセツカヤ、ガリーナ・ウラノワ、タマラ・カルサヴィナ、アンナ・パヴロワなどの名前が思い浮かぶ。そして21世紀の今日、彼女たちに比肩しうるバレリーナといえば、やはり、ロパートキナをおいて名前を挙げることはできない。その巧緻を極めるテクニックはもちろんのこと、感情の極北をも示す表現力、アーティストとしての気高い理念、バレエに取り組む真摯な姿勢、厚い人望、高潔な人間性、どれをとっても21世紀最高と讃えるに相応しいバレリーナである。そして今まさに、ロパートキナのバレエ芸術は彼女の人生の中でも最も成熟して、香しく輝いている。

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映画『ロパートキナ 孤高の白鳥』は、バレエ映画を作ることをライフワークにしているマレーネ・イヨネスコが監督した。イヨネスコ監督はパリ・オペラ座の元エトワール、アニエス・ルテステュやドミクク・カルフーニと息子のマチュー・ガニオ、ピエール・ラコットとギレーヌ・テスマーなどの優れたドキュメンタリー映画を制作している。
映画の中ではいくつものロパートキナの舞台映像を観ることができるが、最も印象に残ったのは『ロシアの踊り(ルースカヤ)』と『瀕死の白鳥』だ。2曲ともアンナ・パヴロワのレパートリーとしても知られている。『ロシアの踊り』はまさにパヴロワが踊る映像の印象を彷彿させた。音楽と一体となる細やかな身体の動きが、ロシア民族の感性そのものをとりわけ豊かに表していた。『瀕死の白鳥』は身体のすべての筋肉を使って、死と直面する感情のディテールに至るまでを表し、一部の隙もなかった。完璧である。映像で観た比較によると、おおらかさあるいは豊穣性という意味では、パヴロワよりやや弱いかもしれないが、鋭さ突き抜け感では、ロパートキナが一歩優っているのではないか、とみえた。もちろん、軽々に判断すべきではなく、一片の印象に過ぎないのだが、これまでいくつか観た『瀕死の白鳥』で、こうした感慨を抱いたことはなかった。
そしてインタビューで語っている、『愛の伝説』を踊ったことにより得た愛についての想いも非常に興味深い。これも軽々に言うべきではないが、愛とは得ることなのか、あるいは失うことによって得ることなのか、という考えもまた、愛娘とともに生きている彼女の人生と重ねてみると、いっそう説得力があるからである。
見事なプロポーションと柔軟でしなやかな身体性を駆使した美しいフォルムの造型、深奥まで極めた細やかな表現力、どれも21世紀のバレリーナの頂点にある、といっても異論はなかろう。しかし、「あるレベルに到達することに成功したからといって、安心し喜んではいけない、そのことは忘れてつぎのステージへとすすまなけれぼならない」、という言葉もまた、ロパートキナならではの至言である。

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『ロパートキナ 孤高の白鳥』

2016年1月30日(土)渋谷Bunkamuraル・シネマ他全国ロードショー


出 演:ウリヤーナ・ロパートキナ、アニエス・ルテステュ・ジャン=ギョーム・バール  他
監 督:マレーネ・イヨネスコ「至高のエトワール〜パリ・オペラ座に生きて〜」「バレエに生きる〜パリ・オペラ座のふたり〜」
2015/フランス/93 分
配 給:ショウゲート
公式サイト:lopatkina-movie.jp

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