(荒部 好)

CRAYZY HORSE『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』

2009年に『パリ・オペラ座のすべて』、1995年には『BALLET アメリカン・バレエ・シアターの世界』をヒットさせ、ダンスに特別の関心を持つドキュメンタリー映画の巨匠、フレデリック・ワイズマン。その映画創りは徹底していて、ナレーションやテロップ、インタビューなどの言葉による説明は一切使用せず、ひたすらその世界に起る現象を撮った映像だけで映画を構成する。観客がひたすら映像に集中することを目指しているのだ。
そしてワズマン監督が新たに選んだ世界は、パリの絢爛たるナイトショー<クレイジーホース>だった。

1951年、パリのジョルジュ・サンク12番地に12ものワインセラーの壁を壊して造られたクレイジーホースは、世界最高峰の女性ダンサーによるエンターテインメントショーを開催。今日まで15,000回のショーを披露し、600万人もの観客を動員してきた。ワイズマン監督はこのクレイジーホースに「無制限の許可を取得」して、70日間時完全密着し撮影に取り組んだ。

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すらりと脚の長い、しかし豊満な女性ダンサーたちがトップレスでヒールを履いて闊歩するクレイジーホースの楽屋。彼女たちは楽しそうにおしゃべりし、入念にメイクし、神経質そうに思いに沈み、時には怒りそして心から笑う。絹のような肌にフェザータッチの感覚が息づいている。彼女たちのごく自然な存在感の中にいて、まったくカメラの目を意識していない。撮影する側もカメラを持っているときも持っていない時も、まるで変わらずにおしゃべりしているからだ。
折から、振付家のフィリップ・ドゥクフレが『DESER』と名付けた最新のショーを振付けている。ドゥクフレはアルベールヴィル冬季オリンピック開会式、閉会式、ラグビーのワールド・カップの開会式などの振付を行ったことで知られる。しかしスペクタキュラーなものばかりでなく、07年の来日公演では一人で踊ることのエスプリを様々に展開した『SOLO』という作品を上演した。視覚の錯覚を駆使して様々な不思議な造型を創り、光と影と色彩を融合させてマジカルな空間を動かす独特の才能で観客を魅せた。特に、かつてハリウッドのミュージカル映画で活躍した天才、バズリー・バークレーのモブシーへのオマージュは素晴らしかった。
そのドゥクフレがダンサーに振り移しするシーンや、アーティスティックな新たなショーを創ろうとスタッフたちに熱弁を振う姿も印象的だ。そして出来上がった鏡のフロアで踊るショーは見事。トリックを使った演出は抑えて、磨き込まれた女性の身体の神秘的な美しさを鮮やかに浮かび上がらせた圧巻のシーンだった。
めくるめくようなエロティシズムが横溢して、女性ダンサーたちの息詰まるような官能が花開き、強烈な印象を刻印された。しかし、あっという間に過ぎ去った134分だった。

CRAZY HORSE『クレイジーホース・パリ 夜の宝石たち』
監督・音楽・編集/フレデリック・ワイズマン、撮影/ジョン・デイヴィ、製作/ピエール・オリヴィエ・バルデ
出演/フィリップ・ドゥクフレ、クレイジーホースダンサー他

2012年夏、Bunkamuraル・シネマ他にて公開
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