荒部 好

『talk to her』

  プロローグとエピローグにピナ・バウシュの舞台が登場する映画『トーク・トゥ・ハー』の試写を観た後、私は何をしたか?

  まず、かつて国立劇場で観たピナの『カフェ・ミューラー』の舞台、とりわけピナ自身のダンスを何回も何回も頭に浮かべた。そして、カエターノ・ヴェローゾの歌う「ククルクク・パロマ」のCDを購入、何度も何度も聴いた……。知らなかったから、「ククルクク・パロマ」がこんな悲しい歌だったなんて。

  と、まあ私が何をしたってどうでもいいんだけど、アルモドバル監督の『トーク・トゥ・ハー』という映画は、そういう、観た人を突き動かすような、あるいは、何か行動しないと罪の意識を感じてしまうような、そんな映画だった。というのも、この映画が強烈な愛の喪失感といたたまれない孤独を描いているからだ。

 物語の始まりは、偶然隣り合わせになった二人の男が、ピナの『カフェ・ミューラー』を観ているシーンから。見知らぬ同士だが、一人の男がピナの舞台を観て涙を流しているのに隣の席の男が気付く。

  一人は看護士。母親の看護のために青春を無にしつつあった彼が、初めて惚れたバレリーナが交通事故で植物状態になってしまう。彼は経験を生かし彼女の専属の看護士になってすべての世話をしている。もう一人は、手痛い失恋から必死の想いで立ち直ったのだが、女闘牛士に惚れてしまう。彼女の愛も得られたのではないか、な、と思った時、女闘牛士は暴れ牛の角に切り裂かれ、植物状態になってしまった。

 この二人はやがて知り合い、奇跡的な愛の運命に翻弄されることになる。そしてクライマックスで、カエターノ・ヴェローゾの「ククルクク・パロマ」のライヴが、愛を失った主人公の心情にかぶさる。そう、「ククルクク・パロマ」は愛の絶望を歌った悲しい歌。
 
もっと書きたいけれど、観てない人に叱られるので、この辺で。もうひとつだけ、スペインの無声映画『縮みゆく恋人』が出てくるシーンもとってもおもしろい。さらに蛇足を加えれば、ピナは本拠地のヴッパタールで毎年開催しているフェスティバルに、ペドロ・アルモルドバルやカエターノ・ヴェローゾを招待したりして交流を深めているそうだ。