関口 紘一

『愛と哀しみのボレロ』デジタル・リマスター版

監督/クロード・ルルーシュ
出演/ジョルジュ・ドン、ダニエル・オブリスキ、ロベール・オッセン、ジュラルデン・チャップリン、ジェームス・カーンほか
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『愛と哀しみのボレロ』がデジタル・リマスター版となって再上映される、このニュースを聞いた時には、懐かしい気持ちは湧いたが、それほどときめくものはなかった。しかし、試写会場(マスコミと一般と同時できていた)に着くと思いのほか長い行列が出来ていて「ほうーっ」と思った。
そして私事で恐縮だが、あの曲が流れジョルジュ・ドンがスクリーンに映し出されると、もうだめだった。身も心も映像が紡ぐ世界の中に入り込んだまましばらくは出られなくなってしまった。
当時、私は出版社に勤務していたが、この映画に衝撃を受け、早速、ムック版を編集出版。好評だったこともあり、様々の問題を切り抜けて、ついにはダンスマガジンを創刊し編集長となった。そうしたことの断片を回想して、なかなか出て来られなくなってしまった、という訳である。

ルドルフ・ヌレエフ、エディット・ピアフ、ヘルベルト・フォン・カラヤン、グレン・ミラーという20世紀を代表する偉大な芸術家の4家族をモデルとして、第二次世界大戦勃発から1980年に至るまでの劇的シーンを織り成して、人間模様を構成した壮大な構想の映画である。
そして、エッフェル塔に掲げられたレッドクロスの下のトロカデロ広場で、モーリス・ベジャール振付の『ボレロ』をジョルジュ・ドンが踊り、全世界に強烈なエネルギーを放射した。それからすで35年の時が巡り巡った。
ナチスが強制収容所を作り多くのユダヤ人をガス室に送り込んだこと。パリがナチスに占領され、レジスタンスが起こったこと。スターリンの旧ソ連とヒットラーのナチスが凄絶な戦いを演じたこと。パリが解放されて、ドイツ兵と寝た女が丸坊主にされて市中を引き回されたこと。フランスが独立を願うアルジェリアを攻撃し、今度はレジスタンスを受けたこと。映画や小説の世界であんなに身近だった生と死に関わる切実な事柄が、今、日常を何気なく過ごしていて、ほとんど忘却の彼方へと押しやってしまっていたことに改めて気付き、大いに驚き身につまされた。そう言えば、当時はスマホもインターネットも身近にはなかった。今日では想像できないような日常を、私たちはそれが当然だと思って送っていたのだ。
ユニセフの世界慈善音楽祭が開かれ、亡命を果たしたセルゲイ(ジュルジュ・ドン)は円形の台の上で踊り、ナチスとの関わりを克服して世界的指揮者となったカールがタクトを振る。
そして、英姿颯爽と踊るジョルジュ・ドンの『ボレロ』が「永遠」になったのは、まぎれもなくこの映画の力である。

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『愛と哀しみのボレロ』デジタル・リマスター版
10月17日(土)より4週間限定、YEBISU GARDEN CINEMAにて公開
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配給:コピアポア・フィルム