(荒部 好)

『ブラック・スワン』

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今、世界中のダンサーたちがインタビューで語ったりコメントで触れるなど話題にしている映画『ブラック・スワン』。ナタリー・ポートマンが第83回のアカデミー賞と第68回ゴールデン・グローブ賞の主演女優賞を受賞したこともあって、大いに注目を集めている。

物語は、ニューヴァージョンの『白鳥の湖』のヒロイン、スワンクィーンに抜擢されたダンサー、ナタリー・ポートマン扮するニナ・セイヤーズが、清純なオデットと男性を誘惑して思いのままにする黒鳥オディールを演じ分けるために苦しみ、様々な過激な妄想に襲われて身を苛まれ、激しいプレッシャーに押し潰されそうになりながら本番の舞台に突入していく‥‥というもの。
『レスラー』でヴェネチア国際映画祭金獅子賞を授賞したダーレン・アロノフスキー監督が、ホラー映画やサイコ映画のあらゆる脅しのテクニックを縦横に駆使して、初めての大役のプレッシャーに超緊張し恐れおののくか弱いバレリーナを、心理的にじわじわと追い詰めていく。そのスリリングな設定の妙とポートマンの迫真の演技によって、少々、荒唐無稽な仕掛けだなと感じても背筋には思わずヒヤリとしたものが流れる。
このバレエ・カンパニーに長年君臨したが、新作の主演から外れて引退を余儀なくされた元プリマのベス・マッキンタイア(ウィノナ・ライダー)や、黒鳥を官能的に踊ることができ、自由奔放思いのままにに生きているようにみえるライヴァルのダンサー、リリー(ミラ・クニス)がしばしば彼女の妄想の中に登場して、ナーバスな主人公の不安をむしりついばむ。元バレリーナで彼女を妊娠したために将来を捨てた、という過保護の母親(バーバラ・ハーシー)の態度も陰に陽にプレッシャーに感じられる。野心家の芸術監督トーマス・ルロイ(ヴァンサン・カッセル)は黒鳥の役柄に強烈で即物的な官能性を求め、ニナの実人生の性をすぐに解放するように強く迫る。
心理的に袋小路に追いつめられたニナは、知らず知らずに生爪を剥がすように自分自身の身体を痛めつけていく。そしてついに初日の本番の楽屋で起きた異変に抑えきれない激情にかられ、ライヴァルを殺害して観客の待つ舞台へと向う。じつはここに、今まで自身の身体を痛めつけてきたひとつの帰結があったわけだが……。

バレエは身体を厳しくコントロールして表現する芸術であるため、そのプレッシャーがメンタルに及ぼす影響は計り知れない。精神性と身体性が尋常ではないレベルで錯綜しているのである。世界中のダンサーたちがこの映画に関心をもち話題にしているということは、多かれ少なかれポートマン演じるニナが抱いた妄想を理解し、共感するところがあるということになるだろう。
少女時代にバレエを習っていたというポートマンは、特訓を重ねて舞踊シーンもほとんど代役なしで演じたという。登場した時から神経質に表情を少し歪めるようにしてヒロインを演じていたので、せっかくの美貌に笑顔がほとんど宿ることがなかったのはいささか残念だった。しかしラストのクライマックスでは、体当たりの演技が見事に功を奏し、まさに鬼気迫るブラック・スワンを現出させてアカデミー賞受賞を決定的にしたのではないだろうか。とにかくスッゴイ迫力でした!!

近年、新進の振付家としてパリ・オペラ座などにも作品を提供して注目を集めるニュ−ヨーク・シティ・バレエ団のベンジャミン・ミルピエがバレエ・シーンの振付を担当し、ニナの相手役のダンサーとして出演している。

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(c) 2010 Twentieth Century Fox.

『ブラック・スワン』
2011年5月11日(水)TOHOシネマズ日劇ほか全国ロードショー