アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
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大人の観客が楽しむ『ベアトリクス・ポターの世界』
『ベアトリクス・ポターの世界』は、元々1970年にバレエ映画として作られ、その後、舞台化された。
映画『ミス・ポター』でおなじみのベアトリクス・ポター女史が描いた動物たちの絵本『ピーター・ラビットと仲間たち』のバレエ版で、今回10年ぶりの上演であった。
日本ではうさぎのピーターが最も良く知られたキャラクターだと思うが、バレエの中で魅力的に描かれているのは、暴れん坊のリスのナトキンや、跳躍の大技を見せる飄々とした魅力のカエルのジェレミー・フィッシャー氏、いたずらねずみのトム・サムとハンカ・マンカ。男性ダンサーもトウ・シューズでバレリーナに負けじとポアント技術を披露する子豚のピグリン、あひるのジェマイマと彼女を騙そうというキツネ、山高帽に、キリリと巻き上げた雨傘をステッキのように束さえるイギリス紳士のような町のねずみのジョニーである。
(c) Angela Kase
イギリス人は家族関係が非常にドライで、冷めた国民として有名なことをご存知だろうか? これは上流階級の子息が、小さな頃から両親と引き離されてパブリック・スクールに代表される寄宿学校に入れられてしまうことなどからきている、とされているが真相はどうなのだろう。今でも下層階級は強い親子愛に結ばれているが、階級が上になればなるほど親子関係はドライで、頬や額に挨拶のキスする、挨拶の抱擁をする、といった肉体的コンタクトも少なく、握手程度。
世界的に、<子供や人間より動物を愛する国民>として知られており、動物愛護運動が盛んで、自国の貴族のスポーツであった「狐狩り」は今や<残酷である>という理由で違法となり、同じ理由からロイヤル・ファミリーも国民も冬に毛皮のコートを着なくなった。
そのような背景から、日本人の感覚からすると<子供向けバレエ>であるこの作品の観客も、イギリスではそのほとんどが大人である。
10年前、このバレエの初日に1階席にいた子供はたった二人で、一人はその時ピーター・ラビットを演じたアシュレー・ペイジ(現スコティッシュ・バレエ団芸術監督)の息子さんで、チケットの安い天井桟敷もほとんどが大人客だったということは、今だに語り草となっている。今回も観客層の平均年齢は非常に高く、ポターの絵本で育ったお年寄り世代が多かった。
冬とはいえ、着ぐるみを着て踊るダンサーたちにとって、この作品の主演は非情な激務で、汗をかくことから水分の補給が欠かせず、被り物をしていて視界に限界があることから怪我をしてしまうダンサーもまた多い。
10年前は、キツネをアダム・クーパー、カエルのジェレミーをウィリアム・トレヴィットが踊り話題であった。今年は、リスのナトキン役で、重く大きな着ぐるみを物ともせずに旋回に跳躍にテクニックの持てるテクニックのすべてを奮ったスティーブン・マクッレー、カエルのジェレミー役のザッカリー・ファルークと蔵健太、ジョニー・ザ・タウン・マウスのリッカルド・レルヴェーラの活躍が際立っていた。
イギリスではクリスマスからお正月にかけて、BBCでロッホとアコスタによる『ロミオとジュリエット』、ダーシー・バッセル関連のバレエ番組など、数々のバレエ関連のテレビ番組があり、『ベアトリクス・ポターの世界』も年末に放映され、劇場に足を運ぶことのできない地方在住のバレエ・ファンから一般国民にまで、作品の魅力を余すことなく伝えたのであった。
(c) Angela Kase
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