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大村 真理子
[2016.02.21]

「月夜に煌めくエトワール」を踊って
エルヴェ・モロー、ジョルジュ・ヴィドラムス、ドロテ・ジルベールが日本公演の印象を語った

オペラ座のエトワール、エルヴェ・モローとスイスを拠点にするピアニスト、ジョルジュ・ヴィラドムスの二人が企画したダンスと音楽のコンサート「月夜に煌めくエトワール」。ゲストにヴァイオリニストの三浦文彰、オペラ座のマチュー・ガニオとドロテ・ジルベールを迎え、東京では1月10日と11日、名古屋は1月13日、大阪は1月14日と合計4公演が行われ、いずれも好評を博した。感動を胸に会場を後にしたのは、観客たちだけではないようだ。公演を振り返り、まずはエルヴェ・モローに語ってもらおう。

160221_03.jpg 大阪公演カーテンコール

----公演の成功は、予想していた通りのものでしたか 。

エルヴェ いいえ、僕が予想していた以上のものでした。大勢の人々が足を運んでくれ、公演を受け入れてくれたのは本当に素晴らしいことです。公演中も公演後も、日本の観客はぼくたちメンバーをとても温かく歓迎してくれて・・・深く感動しました。公演のコンセプトもプログラムも、気に入ってもらえたようで、とてもポジティブな反響を多く耳にできました。

----録音の音源と生の音楽。どのように踊り手には異なりますか。

エルヴェ 僕は録音の音源で踊るのは、あまり好きではありません。なぜならオーケストラにせよあるいはピアノ一台にせよ生の音楽に勝るものはなく、これで踊るときには得られる強いインパクトが録音音源では得られないからです。とくに今回のコンサートは、舞台上で演奏者ととても近い距離で踊るという特殊なもので、それゆえに音楽とダンスがひとつになって溶け合うことができるのです。お互いにインスパイアーしあい、物理的に近距離にいるという事実。体が音楽をより深く感じることができます。バレエの伴奏者ではなく、ジョルジョやフミアキ(バイオリニストの三浦文彰)といった、コンサート奏者と一緒に仕事をすることで僕が気に入っていることのひとつは、彼らが素晴らしいアーティストだということ以上に、舞台上で直接のやりとりが互いの間にあることです。真の芸術的な結びつきが生まれます。「月夜に煌めくエトワール」をご覧になった観客も、それを感じることができたにちがいありません。

----マチュー・ガニオのソロ『それでも地球は回る』は、昨年「美の饗宴」で彼がこの作品を踊ったときと演奏が異なりました。

エルヴェ これに使われているヴィヴァルディの音楽は、オペラ『バヤゼット』の中のアリアです。だけど今回は生のピアノとヴァイオリンの演奏でこの作品を紹介したいと、僕が希望したんです。そうすれば、マチューもジョルジョとフミアキの二人と舞台上で共演できることになるので(注・マチューがドロテ・ジルベールと踊った『トリスタンとイゾルデ』のパ・ド・ドゥは録音音源にて)。この作品を振付けたジョルジョ・マンチーニもマチューもこの提案に同意をしてくれました。その結果・・・とても美しい舞台となりましたね。

----ヴァイオリニストの三浦文彰との初共演。彼とはどのように関係を築きましたか

エルヴェ フミアキは素晴らしい音楽家ですね。そして人間的にも愛すべき人物。大きな才能と人間性に恵まれたアーティストです。僕たちダンサーもジョルジュも彼と一緒に仕事をするのを、今回多いに楽しみました。初めてとはいえ、彼との関係はとても簡単に築けたんですよ。将来また何かの機会に彼とぜひ舞台をともにしたいと、心から願っています。

----ドロテ・ジルベールが踊った『瀕死の白鳥』は東京ではヴァイオリン演奏でしたが、そののちヴィオラに楽器が変わりました。あなたのアイディアですか。

エルヴェ まさか。この素晴らしいアイディアは、フミアキが出してくれたものです。
サン・サーンスはこの曲をチェロのために作曲しました。それでチェロの重厚な音に近づけるべく、フミアキがヴィオラでの演奏を提案してきたんです。

----あなたが踊ったソロの『ツクヨミ』は、この公演のための創作ですね。


エルヴェ はい。今回のこのコンサートで、本と関係のあるオリジナル・ソロをぜひとも紹介したいと思いインターネットで何日もかけていろいろとリサーチをしました。そのときに、偶然にこの日本の神話の人物に行き当たったんです。日本の月の神様を象徴するツクヨミ。これぞ、僕が求めていた理想そのものでした。この公演のための創作だけど、日本以外の国でも今後紹介してゆきたいですね。そうした機会があるといいと期待しています。

----衣装デザインもしたのですか。

エルヴェ このソロの衣装を考え始めたとき、このツクヨミという人物の神性を感じさせるようにどこか宗教的で、そして日本的なインスピレーションの衣装がいいと思ったんです。神主が儀式できる伝統的衣装の写真を見ているうちに、コスチュームのヒントが得られました。月の冷たい光の中に現れたツクヨミの、ほぼ非現実的で幽霊的なイメージを作り上げたいので、とても軽くて、ふわふわした素材がぜひとも欲しい、と !  そして見つけたのが、日本でだけでしか作られていないSuper Organzaという素材でした。この布はとても軽いので、文字取り空中にふわふわと浮かぶんですよ。

----『ツクヨミ』はプログラムによると、ジョルジョによるピアノ演奏となっていましたが・・・。

エルヴェ はい、最初の考えでは、メグミ(注・振付家の中村恩恵)と僕が選んだアルヴォ・ペルトの曲をジョルジュが舞台上で弾くことになっていました。ところが舞台の背景に巨大な月が欲しく、そして、その映像と音楽が同時に終わるためには完全なシンクロが必要となって・・・生演奏ではそれが不可能だということになったので録音に変更せざるをえませんでした。

----イリ・ブベニチェックがあなたのために創作した『月の光』では、ダンスとピアノが会話を楽しんでいるようでした。

エルヴェ ぼくとジョルジュが初めて舞台を共にしたのが、この『月の光』なんです。二人のコラボレーション、そして僕たちの深い友情を象徴するもので、特別な思い入れが二人にあります。この作品は僕たちの芸術的な会話なのです。演じるごとに、僕たちの喜びは大きくなってゆきます。実は、ジョルジュが弾くピアノを僕が初めて聞いたのが、この曲だったんです。彼はこの曲を実に詩情豊かに、見事に弾きますね。これを聞きながら踊るのは、幸せそのもの。今や、ジョルジュはぼくの親友の一人なんです。彼はいつか日本にゆきたいと願っていたので、このコンサートを機会に彼が日本を発見できることがでたのは、とてもうれしいです。彼、日本という素晴らしい国、住んでいる人々の魅力にすっかり参ってしまいました。日本と日本人への僕たちの共通する愛情が、二人の友情をさらに深める要素となっています。この公演、そしてこのような新たなプロジェクトをもって再び日本に戻れる機会があることを心の底から願っています。


この公演を成功へと導いた立役者の一人、ジョルジュ。彼にも話を聞いてみよう。

----日本について、公演について、何が一番思い出深いですか。

160221_02.jpg リハーサル中の三浦文彰とジョルジュ・ヴィラドムス

ジョルジュ 一番心に残る日本の思い出。それは人々のクオリティです。公演に関わったすべての人々との素晴らしい思い出があります。そして観客は公演中、とても熱心に音楽を聴いてくれているのがわかり、リスペクトを感じることができました。公演の最後、全員が勢ぞろいするカーテンコールの際に、真っ黒く見える観客席を前に僕たちの心臓が強く鼓動し、感動でいっぱいになって。そこで突然会場が点灯されると、観客が見え、巨大な会場が見え・・・。この時に感じたセンセーション、これは絶対に忘れることはないでしょうね。日本という素晴らしい国に行くことができ、大変幸せに思っています。いつか再び音楽、ダンスを日本の人々と更に分かち合うことができたらと、期待しています。

----コンサート奏者のあなたがダンスの伴奏をするというのは、珍しいことですね。

ジョルジュ はい。ダンサーと演奏家が舞台上で共演すること。それがこのコンサートの美しさです。ダンサーたちは、演奏家と舞台をともにして至近距離で音楽の美しさ、緊張を感じられることは、とても強いことだといっていました。これは僕たち演奏する方にも、言えることです。こうしてエルヴェと芸術的な面での協力関係がますます強くなっています。二人の間にはもともと影響し合うものがありましたが、それは回を重ねるごとに大きくなっていくようです。二人の間にはたくさんの共通するアイディアがあり、とりわけ、コンサートの最中、二人してとても大きな喜びを得ています。今回はドロテとマチューに知り合うこともできました。人間的にも芸術的にも、彼らを深く知ることができる素晴らしい機会でした。二人とも例外的なアーティストで、こうした彼らと舞台を共にして、これほど強い瞬間を分かち合えたというのは栄誉なことです。フミアキは偉大なバイオリニストだし・・・最高のグループでした。


エルヴェとジョルジョは "Luz de Luna" というタイトルで、毎回異なるゲストを迎えてコンサートを定期的に開催している。「月夜に煌めくエトワール」は日本のために企画された、その特別ヴァージョン。ゲストの一人としてこれに参加したドロテ・ジルベールは、どんな感想をもったのだろうか


ジルベール 舞台上であれほど近い距離にいると、音楽家の感動が踊る側にも伝わってきます。音楽とダンスの間に一種の共謀のようなものが生まれ・・・それによって音楽も踊りも、精神面での関わりがより大きなものとなります。『瀕死の白鳥』では楽器がヴァイオリンからヴィオラに変わって、よりドラマチックな響きとなって・・それゆえに、作品の厚みが増しました。音楽とダンスの緊密な結びつき。信じられないような経験ができました。

160221_01dorothee.jpg ドロテ・ジルベール photo James Bort

今から約5年位前だろうか。何度も怪我に見舞われたエルヴェは、オペラ座を去ることを考えた時期があった。それについては、エルヴェ本人もインタビューなどで語っているが、あのとき彼が本当に辞めていたらこのコンサートは開催されなかったことになる。また、以前にも増して雄々しく伸びやか、かつ繊細な踊りで会場を酔わせた彼の踊りも、我々は見ることができなかったことになる。

----もしもあのとき辞めていたら、と考えることがありますか。復帰後、体の管理はどのようにしているのですか。


エルヴェ そうですね。かなり深刻な怪我が続き、ダンスを止めたいと思ったことが確かに何度もありました。こうして続けることができて、今は大変に満足しています。そうでなければ、この『月夜に煌めくエトワール』という素晴らしいコンサートを経験することもできなかっただろうし、昨年夏のワールドバレエフェスティバルで『椿姫』のような作品を再び、しかもオーレリー(・デュポン)と踊る機会はなかったのですからね。
今は42歳(オペラ座の引退規定年齢)まで踊り続けるために、避けられる怪我は避けようと努めています。つまり体を疲れさせないように同じ時期に複数の作品に関わらないように、以前以上に気をつけています。ここのところオペラ座で舞台に立つ機会が減っているのは、膝に危険が及ばない作品だけを選んで踊るようにしているからなんです。今のぼくの体に極端な負担となるクラシック作品は、それゆえもう踊りません。オペラ座で残されたわずかな年月を最高にエンジョイし、将来のプロジェクトの実現が可能なように、もう二度と怪我をすることなくオペラ座でのキャリアを終えたいと願っています。『月夜に煌めくエトワール』のプログラムでも、予定していたソロの『Luna』からパ・ド・ドゥの『煌めくエトワール』に変更をしたのもそれゆえです。公演がもうじき、というときに腰を痛めてしまったので、怪我に負担とならない作品を選ぶ必要があったからです。

----今夏は東京、名古屋、大阪での『エトワール・ガラ』がありますが、この他にもオペラ座以外で、何か公演の予定がありますか。

エルヴェ 僕とジョルジュの "Luz de Luna" の次のコンサートが、4月にメキシコ、6月にスイスのジュネーヴで開催される予定です。これにはオーレリー・デュポンに参加をお願いしました。彼女とこのコンサートで再び踊れるのかと思うと、すごくうれしいですね! 彼女の他には、メキシコではチェロ奏者Lionel Cottet、そして6月13日のジュネーブの公演にはオペラ歌手Natalie Dessay、そしてピアニストのPhilippe Cassardが参加予定です。「月夜に煌めくエトワール」は準備から実現まで約2年がかりでした。その間一瞬一瞬を大切にした僕にとって、日本での4回の公演は幸せ以外の何物でもありません。僕だけでなく、他のアーティストたちも、これに関わった人々みんな、終了後心からの満足感が得られました。日本でのこの経験がとにかく気にいったので、パリに戻って以来、日本の観客のための未来のプロジェクト、そのための新しい作品についてといろいろと考え始めているんですよ。新しいソロ、新しいパ・ド・ドゥを振付けたいと・・・」