船引怜美 text by Remi Funabiki

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●イングリッシュ・ナショナル・バレエ、デレク・ディーン版『白鳥の湖』

イングリッシュ・ナショナル・バレエの人気プロダクション、デレク・ディーン版円形劇場バージョン『白鳥の湖』がロイヤル・アルバート・ホールで上演されました(6月9〜19日)。今回最も注目された話題はロベルト・ボッレとの競演による、ポリーナ・セミオノワのロンドン・デビュー。イヴニング・スタンダード紙で特集記事が掲載されるなど、新しいスターの誕生に注目が集まりました。

古典的な振付を常に正面を変えながら踊るこの円形劇場版では、通常の『白鳥の湖』を踊る以上にテクニックが要されることでしょう。観客に360度囲まれ、常にすべての角度から鑑賞されていることになります。そういった特別演出でポリーナは、白鳥初挑戦とは信じがたいほどの自信とテクニックの安定感を示しました。その驚異的才能にロンドンの観客は興奮を覚えました。ポリーナのバレエ漫画のバレリーナのような超理想的プロポーションはとても印象的です。しかし、その超完璧なプロポーションが十分に生かされていないアラベスクのラインや白鳥・オデットとしての演技力/表現力の弱さにおいては、“まだ彼女は若干19歳である”という幼さ/若さを感じました。ある新聞批評ではポリーナの今後の成長には、非常に経験のあるコーチが必要であると指摘しています。

ロベルト演ずるジークフリートは、気品、役作り、テクニック、すべての点で素晴らしく、バレエ漫画の王子様よりも完璧なジークフリートでした。1幕のソロはため息が出るほどに美しく、叙情的。3幕のバリエーションで見せたグラン・ジュッテは宙を滑る姿を目で確認できるほどに伸びのある跳躍。黒鳥のコーダでは、円形舞台特別演出と思われる1/8回転ずつ正面を変えていくアラスゴン・ターンを何気なくこなし、観客の興奮はピークに達しました。

作品全体として、私的には競技場のような空間に『白鳥の湖』独特の雰囲気を見出す難しさを感じましたが、アイススケートリンク大の楕円形舞台に舞う60羽の白鳥、スケールの大きさ、古典的な振付を残したまま人数や空間構成を変えた特別演出(4組のパ・ド・トロワ、2組の4羽の白鳥など)はとても興味深く、印象的。『白鳥の湖』を十分に知る人から、初めて観る人まで、誰もがバレエの魅力を味わうことのできるプロダクションだと思いました。(2004年6月9日、ロイヤル・アルバート・ホール)
●テレグラフ紙、シルヴィ・ギエム インタビュー (2004年6月1日掲載)

日本発売から遅れること7ヶ月、ロンドンでは8月の公演を目前にしてDVD『マルグリットとアルマン』が発売。発売に際し、テレグラフ紙にシルヴィのインタヴューが掲載されました。“マドモワゼル・Non”と言われたシルヴィ、彼女のポリシーが語られました。

< 写真・映像>
 肖像・映像権に対する硬い姿勢、その理由は… :「私は見世物じゃないわ」「ビデオに収められた舞台には味も、香りも、感動もない。できることなら存在しないほうがいいと思う」

<『マルグリットとアルマン』>

 1998年当時芸術監督のダウエルはシルヴィに『マルグリットとアルマン』に再演の話を持ちかけますが、シルヴィは「Non」と言い続け、二人の我慢合戦は2年間続いたと言います… :
「1998年にマーゴとルドルフの映像を見た時に、自分をその中に置き換えることができなかった。私が演ずるものではなかった。彼(ダウエル)はしぶとかったわ」

<2004〜2005シーズン>
 シルヴィが出演すると思われる作品は… :(『眠れる森の美女』?)「Non」、(『シンデレラ』?)「Non, もうやったわ。やっている自分にうんざりしてしまうのがいやなの、それだったら昔を振り返らないほうがいいわ」、(『白鳥の湖』?)「白鳥の湖なんて、悪夢だわ。ひとつひとつの動き、呼吸、何もかも完璧でなくてはならない。それを達成するなんて、不可能極まりないものよ。完璧でなくてはならないプレッシャーに19歳から苦しめられ続けてきたの、もう十分だわ」

ジョージ・バランシン振付
『放蕩息子』
シルヴィ・ギエム(シレーン)

<活動したい振付家・今後の予定>
 2000年RB『オネーギン』初演時、タチアナ役を希望したシルヴィに、“NON”と言う返事がクランコ作品の上演権保持者から返ってくると誰が予想できたでしょうか?? 彼女は今後活動したい振付家として、クランコの名前を依然として挙げます…:「今まで様々な役に魅かれてきたわ、でもその役を踊る権利を与えてくれなかった人にはお会いしたことがなかったわ…」
「でも、新たなチャレンジはいくらでもあるわ」… :そしてラッセル・マリファンとアクラム・カーンを“これから活動を共にしたい振付家”として挙げていたシルヴィ。昨年12月にマリファンとのコラボレーションは実現し、この9月には更に2つの新作(シルヴィのソロとバレエ・ボーイズと競演作品)がサドラーズ・ウェルズにて公演予定。カーンとのコラボレーション実現も遠い話しではないでしょう。来春にはギエムの写真集発売が予定。その写真集ではシルヴィの素顔(シルヴィの好きなもの、夢見るもの、考えるものetc)を見ることが出来るようです。

私自身、シルヴィの映像権に対するこだわりは納得できます。なぜならビデオで観る舞台には冷凍食品を食べるような味気なさがあるような気がします。いつでもレンジで手軽に、それなりに美味しく味わうことはできるけど、新鮮な食材が料理されたものとは香りも風味もこくも異なり、その美味しさに感動を覚えることはできません。それと同様に、ビデオで鑑賞する舞台と劇場で鑑賞する舞台にはそこで味わう感動の違いがあるように思います。しかしながら、「保存されたものでしか感動を味わうことのできない舞台」というものも多く存在するのも事実です。「シルヴィの超古典作品」はもう「保存されたものでしか感動を味わうことのできない舞台」なのかもしれません…。しかし、今だから味わうことのできるシルヴィに出会う機会、自分の肌でその舞台の感動を味わうことのできる機会は、これからのロイヤル・バレエ2004/5シーズンや日本公演であるでしょう。常に新しいものにチャレンジしていき、変わり続けるシルヴィ、過去にこだわらないほうがいいのでしょう…。

 

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