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濱田琴子 
[2016.11. 7]

ジェルマン・ルーヴェ、セ・ウン・パク他が昇級を果たしたパリ・オペラ座バレエ団2016 昇級試験の詳報

毎年恒例のオペラ座バレエ団コール・ド・バレエの昇級コンクール。本年度は11月4日(男性)、5日(女性)に両日とも午前10時から開催された。
今年、踊る順はクジ引きにより男女共苗字の頭文字がPから。また、ダンサーの審査員についても、今回は立候補者への投票制ではなく、くじ引きでエトワールの男女各1名、プルミエールダンスールとコール・ド・バレエ(コンクール参加者)の中から3名が選ばれた。なお当初エルヴェ・モローの名前が審査員のメンバーに含まれていたが、彼はコンクール参加者の個人指導に当たったため審査員の資格がなくなり、補欠用員の中からジョジュア・オファルトが男性エトワールとして正式に審査に参加。怪我で降板中のダフネ・ジェスタンに替わって、オーレリア・ベレが審査員に、という変更があった。

審査員
オレリー・デュポン(バレエ団芸術監督)
クロティルド・ヴァイエ(バレエ・マスター)
ギレーヌ・テスマー(エトワール・ダンサー、バレエ指導者)
アナ・ラグナ(ダンサー、コレグラファー、バレエ指導者)
アマンディーヌ・アルビッソン(エトワール)
ジョジュア・オファルト(エトワール)
シャルリーヌ・ギゼンダネ(コール・ド・バレエ)
オーリア・ベレ(コール・ド・バレエ)
アレクサンドル・ラブロ(コール・ド・バレエ)
(審査員補充員)
ローラ・エケ(エトワール)
フランチェスコ・ヴァンタジオ(コール・ド・バレエ)
フロリアン・マニュネ(プルミエ)

課題曲
男性
カドリーユ ヌレエフ『ドン・キホーテ』第一幕バジリオの第二ヴァリエーション
コリフェ ヌレエフ『眠れる森の美女』 第二幕 王子の第二ヴァリエーション
スジェ ヌレエフ『眠れる森の美女』 第二幕 王子のスロー・ヴァリエーション
女性
カドリーユ ヌレエフ『眠れる森の美女』プロローグ、6番目の妖精のヴァリエーション
コリフェ  ヌレエフ『眠れる森の美女』 第1幕 オーロラ姫のヴァリエーション
スジェ ヌレエフ『ドン・キホーテ』 第二幕第二場のダルシネのヴァリエーション
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コンクール結果

男性カドリーユ

1. フランチェスコ・ミュラ Francesco Mura 昇級
自由曲 『エスメラルダ』 パ・ド・ドゥのヴァリエーション
2. トマ・ドキール Thomas Docquir 昇級
自由曲 『白の組曲』マズルカ
3. アクセル・マリアーノAxel Magliano
自由曲 『ラ・バヤデール』 第二幕 ソロールのヴァリエーション
4. シュン・ウィン・ラム Chun-Wing Lam
自由曲 『眠れる森の美女』 第三幕 王子のヴァリエーション
5. シモン・ルボルニュ Simon Leborgne
自由曲  ジョゼ・モンタルヴォの『竪琴の笑い』
6.イザック・ロペス・ゴメス Isaac Lopes-Gomes
自由曲 『白鳥の湖』 王子のスロー・ヴァリエーション

男性コリフェ
1. ポール・マルクPaul Marque 昇級
自由曲 『マルコ・スパダ』
2. パブロ・ルガザ Pablo Legasa
自由曲 『ドン・キホーテ』第一幕 バジリオのヴァリエーション
3. アントワーヌ・キルシェールAntoine Kirscher
自由曲 『エチュード』 マズルカ 
4. マチュー・コンタ Mathieu Contat
自由曲 『ラ・バヤデール』 第二幕 ソロールのヴァリエーション
5. イヴォン・ドゥモル Yvon Demol
自由曲 『アパートメント』 TVのシーン
6. ミカエル・ラフォン Mickaël Lafon
自由曲 『MC 14/22 』

男性スジェ
1. ジェルマン・ルーヴェ Germain Louvet 昇級
自由曲 『エチュード』 マズルカ
2. マルク・モロー Marc Moreau
自由曲 『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』 ブラウンボーイの第1ヴァリエーション
3. ジェレミー・ルー・ケール Jérémy-Loup Quer
自由曲 『カルメン』ドン・ホセのヴァリエーション
4. ファビアン・レヴィヨンFabien Révillion
自由曲 『エチュード』 マズルカ
5. ヤン・シャイユー Yann Chailloux
自由曲 『ダンシーズ・アット・ア・ギャザリング』 ブラウンボーイの第1ヴァリエーション
6. セバスチャン・ベルトーSébastien Bertaud
自由曲 『プッシュ・カムズ・トゥ・ショヴ』


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1611paricon01.jpg ジェルマン・ルーヴェ
Photo Sébastien Mathé / Opera national de Paris

まず4日の男子のコンクールから。コリフェからスジェへはポール・マルク、スジェからプルミエへはジェルマン・ルーヴェという下馬評に番狂わせもなく、今回は誰もの予測と期待通りの結果となった。新芸術監督オレリー・デュポンが若手の中で気になるダンサーとして、常日頃名前を挙げている二人である。クラシック・バレエに優れ、コンテンポラリーもこなすダンサーを求める彼女にとって、彼らは正にオペラ座の未来を背負う逸材だろう。二人ともそのクラスにあって、第2位以下を大きく切り離す課題曲と自由曲の出来栄えだった。

男子カドリーユは入団間もないダンサーも年数を積んでいるダンサーも、難易度の高い課題曲に泣かされたようだった。オペラ座はクラシック・バレエのカンパニーであると芸術監督は宣言をしている。ヌレエフの『ドン・キホーテ』のヴァリエーションというのは、いささかタガの緩んでいた感のあるカンパニーに喝を入れようという、意欲を思わせるセレクションだ。
そんな中で健闘したのが昇級を決めたフランチェスコ・ミュラとトマ・ドキールの二人である。彼らはつま先さばきが美しく、プティット・バッテリーにも優れ、エレガント。フランチェスコはいささか小柄であるが、優雅で弾けるような力のある踊りでコール・ド・バレエの中で一人際立っている。コンクールの課題曲では緊張も見せず、笑顔でバジリオのヴァリエーションをスタート。彼の『ドン・キホーテ』をいずれ見てみたい、という気にさせるものだった。二人とも2015年入団し、今回が初めてのコンクールだった。この勢いで、ポール・マルクの後に続いてゆくのだろうか。将来を楽しみにしよう。
4位にとどまったが、ラムは課題曲でクラシック・ダンサーとしての大いなる可能性をみせた。また短期間契約を繰り返した後、今年正式入団したルボルニュはコンテンポラリー作品に優れたダンサーである。自由曲に以前セバスチャン・ベルトーが踊ったモンタルヴォの『竪琴の笑い』という独特なセレクションをすることで、彼は早くも自身の個性を印象付けることに成功したといっていいだろう。

1611paricon02.jpg ポール・マルク
Photo Sebastien Mathe / Opera national de Paris

コリフェは8名の参加予定だったが、あいにくとユーゴ・ヴィリオッティがコンクール前夜の公演中、怪我にみまわれる不幸があったため欠場し、スジェ1席を7名が競った。昇級を決めたポール・マルクは、今年7月に開催されたヴァルナ・コンクールの金賞優勝者である。もっとも、オペラ座の公演ではヴァルナ受賞以前から、クラシック作品およびコンテンポラリー作品の両方で配役に恵まれている。課題曲も自由曲の『マルコ・スパーダ』も“難なくこなし”としか表現しようのないパフォーマンスだった。2位のパブロ・ルガザは課題曲も自由曲も手応えのある出来だったが、今回は少々相手が悪かったようだ。

男性スジェのクラスは参加者が8名。昇級を決めたジェルマン・ルーヴェは技術面での卓越にとどまらず、詩情豊かで、“行間を読ませる”といったタイプのダンサーである。今回の課題曲は、彼のそうした面を見せるのに相応しいヴァリエーションだった。前回の自由曲で『白鳥の湖』のスロー・ヴァリエーションを彼が踊った時、コンクールであることを忘れさせる出来で、そのままこの作品を踊り続けて欲しい、という餓えを残した彼。今回、自由曲の『エチュード』のマズルカでは舞台空間を見事に操り、短い演目だったこともあるが、時間を忘れさせる見事なパフォーマンスだった。
年末公演の『白鳥の湖』では主役に配役されている彼は、マチュー・ガニオ以来久々に現れたオペラ座のプリンスというイメージにぴったりのダンサー。足りないのは経験だけ、というこの若者が、芸術監督オーレリーの初のエトワールとなるかどうか、バレエ・ファンにとって気になるところである。
ソリストとして十分なキャリアがある2位のマルク・モローは、優れた自由曲を披露。2016年度のカルポー賞に輝いたジェレミー・ルー・ケールは3位に。4位のファビアン・レヴィヨンは課題曲で優れたクラシック・ダンサーであることを証明したのだが、課題曲がジェルマンのそれと重なったのは不運だった。

1611paricon03.jpg フランチェスコ・ミュラ
Photo Sebastien Mathe / Opera national de Paris
1611paricon07.jpg トマ・ドキール
Photo Sebastien Mathe / Opera national de Paris

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女性 コンクール結果 

女性カドリーユ

1. カミーユ・ボン Camille Bon 昇級
自由曲 『グラン・パ・クラシック』
2. クレール・ガンドルフィ Claire Gandolfi
自由曲 『ワルプルギスの夜』
3.アンブル・キアルコソ Ambre Chiarcosso
自由曲 『ライモンダ』 第二幕 ヘンリエッタのヴァリエーション
4. キャロリーヌ・オスモン Caroline Osmont
自由曲 『イン・ザ・ミドル・サムホワット・エレヴェイティッド』
5. カミーユ・ドゥ・ベルフォン Camille de Bellefond
自由曲 『白の組曲』ラ・シガレット
6.アメリー・ジョアニデス  Amélie Joannidès
自由曲『シルヴィア』 パ・ド・ドゥ

女性コリフェ

1. アリス・カトネ Alice Catonnet  昇級 
自由曲『ジュエルス、エメラルド』 ファースト・ヴァリエーション
2. レティティア・ガロニ Letizia Galloni
自由曲 『ワルプルギスの夜』
3. ロクサンヌ・ストジャノヴ Roxane Stojanov
自由曲 『バクティ III』
4. ソフィー・マユー Sophie Mayoux
自由曲 『ラ・バヤデール』 第二幕 ニキアのヴァリエーション
5. ジェニフェール・ヴィゾッキ Jennifer Visocchi
自由曲 『カルメン』 寝室のヴァリエーション
6. ジュリエット•イレール Juliette Hilaire
自由曲 『ミラージュ』 オンブルのヴァリエーション

女性スジェ
1. セ・ウン・パク Sae-Eun Park 昇級
自由曲 『パキータ』 第二幕 グラン・パのヴァリエーション
2.マリオン・バルボー Marion Barbeau
自由曲 『アザー・ダンシーズ』 第二ヴァリエーション
3.エレオノール・ゲリノー Eléonore Guérineau
自由曲 『アザー・ダンシーズ』 第一ヴァリエーション
以下順位なし


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カドリーユの参加者は、今回11名が1席を争った。カミーユ・ボンは課題曲を踊り終えた時点で昇級がすでに感じられる、というように1つ頭が抜きん出ていた。そして自由曲においても、“さぞやプラテル校長は鼻が高いことだろう”と思わせる高い音楽性、正確さ、そして存在感のある『グラン・パ・クラシック』をみせ、他者を大きく引き離していた。
舞台ではコール・ド・バレエとして多いに活躍しているものの、なぜかコンクールの結果がこれまで今ひとつに終わっていたキャロリーヌ・オスモン。ブロンドのとてもフェミニンなダンサーである。今回は自由曲でみせたパワフルで鋭いダンスが注目されたのだろう、4位に入ったのは何よりだ。

コリフェは前回は12名が4席のスジェの空席を争ったのに対し、今回はスジェの空きは1席。10名の参加者にとってカドリーユ同様に熾烈な戦いである。その結果、前回のコンクールでカドリーユからコリフェに上がったアリス・カトネが、1位に。アカデミックという点で定評のあるダンサーである。自由曲に選んだ『エメラルド』では、控えめだといわれる彼女の内側からの輝きを見せる美しいパフォーマンスだった。
レティティア・ガロニの昇級を期待する声がパリのバレエ・ファンの間ではとても多かったのだが、あいにくと課題曲の後半で尻餅をついてしまった。ピアニストも指を止め、会場も息を飲んだ一瞬だった。すぐに立ち上がって果敢に最後まで続けたが、この失敗は高いものについてしまったようだ。次回の健闘を祈りたい。

1611paricon04.jpg セ・ウン・パク
Photo Sebastien Mathe / Opera national de Paris

8名が参加したスジェのクラス。1席のプルミエール・ダンスーズのポストを獲得したのは、セ・ウン・パクである。2位のマリオンも3位のエレオノールもセ・ウンに並ぶ課題曲をみせたのだが、自由曲でセ・ウンは一種の驚きをクリエートしたのだ。どちらかというと物静かなイメージが強いダンサーなのだが、自由曲の『パキータ』では会場の空気を一瞬止まらせるほどの勢いで彼女はいきなり舞台上手から高いソーで登場。呆気にとられた会場を尻目に、そのまま非のつけどころのないパフォーマンスを終えた。昇級を決めた晩、セ・ウンは「ジョージ・バランシン」の『ブラームス・シェーンベルグ・カルテット』でファビアン・レヴィヨンを相手に第三楽章を踊ったのだが、すでにプルミエール・ダンスーズの存在感を醸し出していた。
マリオンが2位、エレオノールが3位という順位については、逆を唱える声もある。踊ったパートは別だったが、奇しくも二人が自由曲に選んだのはロビンスの『アザー・ダンシーズ』(なお、今回8名のうち4名の課題曲がロビンス作品)。タイプの異なるダンサーだけに、この順位を受け入れる、受け入れないは好みが大きく作用するようだ 。
前回のコンクールではプルミエールの空席は2席。3位となり昇級が叶わなかったエロイーズ・ブルドンなので、今年こそ !という期待は彼女には相当強かったのだろう。緊張が大きすぎたのか、課題曲では足が思うように運ばない、という彼女らしからぬ結果となってしまった。自由曲には今回は挑戦の意味があったのか彼女が選んだのは、マッツ・エック作品。もし自由曲にクラシック作品を選んでいたら、挽回の余地があったのかもしれないが、“もしも”が通用しないのがコンクールである。

コンクールが行われた11月4、5日というのは、「ジョージ・バランシン」公演の真っ最中。男子も女子も前夜そして、コンクール当日の夜も舞台があるという極めてハードなスケジュール。しかも3演目中2演目に配役され、踊りっぱなしというダンサーも少なくない。コンクール参加者全員にエールを送りたい。

1611paricon05.jpg アリス・カトネ
Photo Sebastien Mathe / Opera national de Paris
1611paricon06.jpg カミーユ・ボン
Photo Sebastien Mathe / Opera national de Paris