アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
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今月号から「英国ダンスロイヤルシート」を担当させて頂くことになりましたロンドン在住のダンス・ジャーナリスト、舞台写真家の加瀬と申します。
これより毎月、読者の皆様にお楽しみいただける公演レポートと舞台写真をお届けできるよう努力してまいります。どうぞよろしくお願いいたします。
「ロシア・バレエのスターたち」によるチャリティ・ガラ
8月19日、ボリショイ・バレエ団は3週間のロンドン公演を終え帰国した。
一方、英国のバレエ関係者やファンの多くも、新シーズン開幕まで短い休暇を楽しもうと仲間たちに暫しの別れを告げ、ヨーロッパ、あるいは世界各地に散っていった。
ただ一部のロシア・バレエ・ファンは、英国最後の3連休初日の8月26日から、3カ所の地方都市で予定されていたガラ公演に興味を持っていた。
「ロシア・バレエのスターたち」と題されたこのチャリティ・ガラは、8月29日に公演が予定されていたウェールズのカーディフ市の会場以外には、ポスターやチラシの類もなく、直前になっても出演者や演目についてはっきりとした発表が全くなかったのである。
一人の熱心なファンが劇場に直接電話し、招聘元にも連絡を取り、出演ダンサー名を確認し、バレエ・ファン・サイトに書き込んだのが、ガラ2日前24日の夜だった。そこにはグラチョーワ、ペレトーキン、ベロゴロフツェフ、レドフスカヤ、バターロフら、ボリショイ、マリインスキー、モスクワ音楽劇場バレエ団のスター11人の名前があり、パソコンの前のファンを大いにあわてさせたのである。
ウラノワ最後の弟子として至芸を誇るグラチョーワが最後に英国で踊ったのは7年も前のこと。またペレトーキン、ベロゴロフツェフといえば『スパルタクス』のクラッススとタイトル・ロールがあまりにも有名だが、今年夏のロンドン公演には彼らの姿はなく、ファンを涙させたばかりだった。英国のロシア・バレエ・ファンが見ることを諦めていた大スターたちのあまりにも突然の来訪だったのである。
今回のガラ公演は、生まれつき心臓に欠陥を持ち、手術なくしては3歳まで生きられないというロシアの子供たちの治療費を募るチャリティ・ガラである。公演の趣旨に賛同したスターたちは、それぞれ休暇や客演スケジュールをやりくりして集ったのだという。
ノッティンガムと、ウェールズのカーディフの2公演を見た。
ノッティンガムはロンドンから車で3時間半のイングランド北部の街。昨年春、ボリショイ・バレエ団がこの地を訪れ『ジゼル』全幕と、『白鳥の湖』、『スパルタクス』からの抜粋を含む「ガラ・コンサート」を上演したことがあったからか、今回の公演も3都市の中で最も観客を集めた。
公演は2部構成で、それぞれのダンサーが休憩を挟んで2作品に挑戦した。
幕開けはモスクワ音楽劇場バレエ団のナターリヤ・クラピーヴィナとゲオルギー・スミレフスキーによる『眠れる森の美女』のグラン・パ・ド・ドゥ。
『眠れる森の美女』
クラピーヴィナ、スミレフスキー
クラピーヴィナ
スミレフスキー
かつてこのバレエ団のスター・ダンサーだったクラピーヴィナ、クラピーヴィンを両親に持つナターリヤと私生活のパートナーでもあるスミレフスキーは、それぞれ優雅な所作が印象的。古典作品になくてはならないプリンセス=姫と貴公子を踊った。また第2部では『グラン・パ・クラシック』を踊って、技術や音楽性もあるところを示した。
『スパルタクス』のクラッススと愛妾エギナのパ・ド・ドゥは、グラチョーワとペレトーキンが踊った。グレゴローヴィッチの傑作らしい、ダイナミックで煌びやかな跳躍を見事に決めたペレトーキンは、今年43歳とはとても思えない美丈夫ぶりで観客を圧倒した。
また今年初めに念願の男子を出産して、7月22日にボリショイ劇場で行われたガラ公演で舞台復帰したばかりのグラチョーワも、母になったことを微塵も感じさせないプロポーションと柔軟性で魅了した。二人の至芸は、セットのない舞台で大叙事詩の抜粋を踊りながら、観客を古代ローマ帝国へ誘う説得力を持っている。ノッティンガムの観客は驚異のまなざしで舞台を見つめていた。
マリインスキー・バレエ団の技巧派キャラクター・ダンサー、アンドレイ・イワーノフは、ソロで登場し、ヤコブソン振付『ヴェストリス』を踊った。これはヤコブソンがモスクワ・バレエ・コンクールに出場するバリシニコフのため作った小品である。イワーノフは持ち前の技巧と、飄々とした魅力を発揮し、じつに爽やかな印象を残した。
『スパルタクス』
グラチョーワ、ペレトーキン
『ヴェストリス』
アンドレイ・イワーノフ
ボリショイ・バレエ団のエレーナ・アンドリエンコとドミトリ・ベロゴロフツェフは、このガラでアロンソ振付の『カルメン』に初挑戦。ベロゴロフツェフはこの作品を選んだ理由を問われて「技術より踊り手の表現力がキーとなる役、そして恋愛において男性そのものであるホセを踊ってみたかった」と語っている。そして魔性の女に魅せられた男の苦悩を鮮やかに描いて見せた。 『ジゼル』第2幕のグラン・パ・ド・ドゥを踊ったのは、モスクワ音楽劇場バレエ団のナターリア・レドフスカヤとミハイル・プーホフである。愛する男性に裏切られ、死して精霊=ウィリとなりながらも、アルブレヒトを救うため踊るジゼル。冷たい夜の森に蒼白く浮かんでは消えるレドフスカヤ=ジゼルによって、観客は夢幻の世界に誘われ、深く嘆息した。
『カルメン』
エレーナ・アンドリエンコ、ドミトリ・ベロゴロフツェフ
『ジゼル』
ミハイル・プーホフ
ナターリア・レドフスカヤ、ミハイル・プーホフ
クリスティーナ・クレトーヴァとマリインスキー・バレエ団のアンドレイ・バターロフは『海賊』のグラン・パ・ド・ドゥで超絶技巧を披露し、第1部のトリをつとめた。
第2部では、クレトーヴァとバターロフ、イワーノフらがガラ公演ならではの珍しい小品や現代作品を披露し、様々な魅力を見せた。また、グラチョーワとペレトーキンは『ザ・ラスト・タンゴ』で濃密な大人の愛の世界を、アンドリエンコとベロゴロフツェフは『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥでボリショイ・バレエの粋を見せた。レドフスカヤ、プーホフ組は映画『タイタニック』の音楽とテーマの小品を踊った。
観客はロシアのスター・ダンサーたちによる至芸に驚喜し、英国では珍しい観客総立ち=スタンディング・オベーションで、このガラ公演は締めくくられた。
この他にも9月には、ロンドンにアルヴィン・エイリー・アメリカン・ダンス・シアターがやってきたが、2週間3プログラムの公演はすべて完売。このカンパニーの人気を示した。
『海賊』
クリスティーナ・クレトーヴァ、アンドレイ・バターロフ
アンドレイ・バターロフ
『ザ・ラスト・タンゴ』
グラチョーワ、ペレトーキン
『タイタニック』
レドフスカヤ、プーホフ
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