関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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牧阿佐美バレヱ団の『リーズの結婚』

フレデリック・アシュトンが振付けた『リーズの結婚』(フェルディナン・エロールの曲をランチベリーが編曲)は、牧阿佐美バレヱ団の数多くのレパートリー中でも人気の高い作品のひとつである。
 とにかく、アシュトン版『リーズの結婚』は、いつ観ても何回観ても楽しめる。オープニングの若いおんどりと四羽のめんどりの暢気な踊りから、エンディングの誰もいなくなった居間にアランが忍び込んできて、「また、なにをやらかすのか」と観客が注目すると、真っ赤なコウモリ傘を見つけて小躍りするシーンまで、全編がじつにウィットに富んだ軽妙なタッチで、時間のゆっくり流れる田園生活を活き活きと描いて、観客の心を和ます。

 たとえば小道具だけをみても、アランと一心同体のこうもり傘はもちろん、色とりどりのリボン、横笛、鎌などの農具、収穫された麦、スカーフや木靴、さらには小さな馬車などが、それぞれ自然に与えられた役割を過不足なく担って的確な効果を発揮しているのは、見事と言うほかない。
 リーズは佐藤朱実が可愛らしく軽やかに踊った。マイムも細かい感情にまで気持ちが入っているので、自然に観客の笑いを誘う心の温まる演技だった。コーラスの京當侑一籠は、小技が少々不馴れだったかもしれないが、大きな踊りを伸び伸びと踊ってみせた。少し細身になったようにも見えた。
 シモーヌの保坂アントン慶は、相変わらず芸達者。シモーヌ一人で見せるシーンでも、観客の気持ちを惹き付ける安定感のある演技で好演した。アランの武藤顕三は、こうもり傘へのフェテッシュな執着も嫌味なく表し、意味のない気恥ずかしさを可愛く見せていて感心した。これからもぜひがんばってほしいダンサーである。
 これだけ楽しく、気持ちをリラックスさせてくれるバレエは、他にないのではないか。
(10月21日、ゆうぽうと簡易保険ホール)



オーストラリアン・ダンス・シアターの『HELD』


 オーストラリアのコンテンポラリー・ダンスの振付家、ゲアリー・スチュアート率いる、オーストラリアン・ダンス・シアターが来日。アデレード・フェスティバルでヘルプマン賞やオーストラリア・ダンス賞を受賞した『HELD』を上演した。

 この『HELD』は、ポスト・モダンダンス華やかなりし頃からニューヨークで「ヴィレッジ・ヴォイス」や「ニューヨーク・タイムズ」にダンスの写真を提供してきたロイス・グリーンフィールドと、実際の舞台上でコラボレーションを展開する。グリーンフィールドはダンスが踊られているステージの上で、観客の視線を浴びながらシャッターを切る、と同時にその瞬間が巨大映像となって背景のスクリーンに映し出される。
したがって観客は、自分の目で舞台上のダンスを観ながら、グリーンフィールドのカメラ・アイのフレームワークを感じ、クローズアップされた映像も観ることになる。振付家がこの点にどういった趣旨を込めたのか、若干理解しにくい面もあった。

 ダンスは、格闘技の動きを短いシーケンス風にまとめて構成したものであった。ハーフスピードのような動きで、バイオレンスやエロティシズムやスリル、といったことを特別に主張しようという気持ちはないようだ。 動きの流れの中で瞬時に切りとられるショットは、さすがに美しい。
 写真とのコラボレーションを展開するために、ダンスがこうした動きのリズムになっているのか、それもわからなかった。ただ、写真がかなり大きな比重を占めるこのパフォーマンスは、アーティスティックなシーンをショー的にみせている、と危惧させる危険も私には感じられた。
 舞台上で生成されている動きのクローズアップをフラッシュで挿入することと、ダンスそのものをだけを見ること、その違いをどう意識すればいいのか、理解が到らぬうちに、現実のダンスが終ってしまった、そんな鑑賞体験だったことを告白しておく。
(9月30日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)



コンテンポラリー・ダンスの公演から

「Dance Selection 2006」では、4つのカンパニーが4つの日本初演作を上演した。

・北村明子『RONDO』
 レニ・バッソの芸術監督の北村明子が振付け、フィラディルフィアのグループモーションダンスカンパニーの6名のダンサーが踊る。兼古昭彦のライヴ映像と粟津祐介のオリジナルスコアによる作品である。最初はダンサーたちの生理的動きから始まり、映像ともシンクロする動きやそのシャドーと、指を組んで作ったフレームとフレームの映像が重なったり離れたりして、現実音を使った音楽とともに、ロンドが繰り広げられる。
 動きと映像と音楽が過不足なく現れていて、バランスのいい洗練された舞台だった。


・BABY-Q『GEEEEEK』
 11月に大阪で初演される新作から抜粋された作品である。演出、振付は東野祥子。少女の未成熟な感覚から生れた少女趣味的な抒情が、空想された特異な日常世界で解放されていく。偏光した光が浮かび上がらせる美しさが描かれている。

・辻本知彦『緑の愛情』
 舞台の上手に、両手に野の花を持った男が仏像のように座している。烏面を被った男(辻本)が静かにに近寄る。暗いモノトーンの中、座した男へ向けた様々な感情を表すようなダンスが繰り広げられる。最後に発せられた言葉に意味を込めたダンスで、辻本の集中力と素晴らしい身体が際立った舞台である。

BABY-Q『GEEEEEK』

・黒沢美香『つきわ』Gold Moon
 この月は妹が庭にも清けかりけり、という万葉集の歌が添えられている。
 カナダのインド伝統舞踊とコンテンポラリー・ダンスを基本とするMarga(代表ノバ・バータチャリャ)が、黒沢美香の作品を踊った。  舞台の床から光りを受ける透明なブルーの衣裳の女性。もう一人のインド系の女性が現れて、ゆっくりと周りを回る。光の前の女性と重なるように後ろに立って、腕を持ち上げたり、下ろしたり、そして二人の女性の動きが、月明りの中で次第に同調していく。周囲を靄のように包み込む微妙な光の中で、二人の女性ダンサーの朧げなダンスが美しく感じられた。
(10月15日、シアタートラム)



北村明子『RONDO』

辻本知彦『緑の愛情』

黒沢美香『つきわ』

近藤良平/伊藤千枝の「日本昔ばなしのダンス」

 コンテンポラリー・ダンスの人気グループ<コンドルズ>と<珍しいキノコ舞踊団>でお馴染みの振付家、近藤良平と伊藤千枝が、日本昔ばなしを題材にしたダンスを上演した。
 伊藤千枝が選んだ話は『へっこきよめ』。気だてが良くて働きものだが、とてつもなくおおきなおならをする嫁の話である。おならの壮大さや、おならをしたために実家に帰されるが、おならの効用が認められて家に戻される、というストーリーを二人のダンサーが踊った。ダンサー一人では、おならをダンスで表すことはできなかっただろう。若い女性とおならとダンスという関係がおもしろかった。

『昔ばなしのダンス』

 近藤良平は『ねずみのすもう』。貧乏なおじいさんの家のねずみは長者の家のねずみとすもうをとって連戦連敗。おじいさんが餅をついてねずみにあげると大勝利。おじいさんのねずみは、長者のねずみに銭をもってきたら餅をご馳走するといった。その銭で貧乏なおじいさんたちは幸せにくらしました、というストーリー。近藤良平は三人のダンサーを使って、行司と二人のねずみの力士によるすもうの様子まで見せる、楽しいダンス。そのほかにも<コンドルズ>お得意のユーモラスなパフォーマンスを演じて、子供たちも喜んでいた。他のコンテンポラリー・ダンスの振付家も、子供たちにアピールするダンスを創ってみてはいかがだろう。
(10月7日、彩の国さいたま芸術劇場 大稽古場)

 

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