佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
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〈ユカリューシャII〉:セルゲイ・フィーリンを迎えた『ジゼル』

「ユカリューシャ」の愛称で親しまれている東京バレエ団のトップ・プリマ、斎藤友佳理が、ボリショイ・バレエ団のダンスール・ノーブルとして評価の高いセルゲイ・フィーリンをアルブレヒト役に招いて『ジゼル』(ラヴロフスキー版)を上演した。ジゼルは彼女の当たり役だが、今回は演技に一層の磨きがかかり、フィーリンとの息遣いもしっとりと合い、東京バレエ団の好演もあいまって、平成16年度の芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した記念公演の第二弾にふさわしい、充実した舞台になった。 

 斎藤はアルブレヒトへの想いを全身で表す。彼の元に近づきたいと思いながら、つま先立ちでこらえて恥らいを見せるといった細やかな演技を積み重ねて繊細な心理を伝え、彼への恋心を次第に強く募らせていく。その柔らかなジャンプからは、ジゼルの優しさや恋する喜びが伝わってきた。正気を失うところも自然で、彼女が受けた衝撃が共感できた。ウィリになってからの姿は宙に漂うようにはかなげで、アルブレヒトへのしのばせた愛を漂わせて悲しみを誘った。フィーリンは、すらりと伸びた美しい脚、柔軟な動きで魅了した。斎藤の動きの一つ一つに反応し、彼女を優しさで包み込む。身分を隠した後ろめたさを、ジゼルへのストレートな恋心で押し切ってしまったという感じだ。それだけに、幸せ一杯の斎藤との前半のデュオと、魂が共振するような幻想的な後半のデュオの対比が生きていた。特に、フィーリンが後半で見せた律動的な跳躍は絵画的で印象に残った。

木村和夫はヒラリオンの役をすっかり手中に収めたようで、踊りの切れも鋭く、ジゼルへの燃える純朴な想いを直截に表現してドラマを築いた。ミルタ役の井脇幸江は、二幕冒頭のソロで、ウィリとなった哀しみを全身に滲ませて秀逸。ウィリたちを従える後半の峻厳さとの対比が際立った。跳躍や回転技を織り交ぜた四組の男女による「ペザントの踊り」(ここはワシーリエフの振付)やウィリたちの群舞は、バレエ団のレベルの高さを示すもの。総じて完成度の高い公演だった。
(3月22日、ゆうぽうと簡易保険ホール)


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新国立劇場バレエ団『ナチョ・ドゥアトの世界』

 新国立劇場が、バレエ界で最も注目される振付家の一人、スペインのナチョ・ドゥアトの代表作三作による公演を行った。題して『ナチョ・ドゥアトの世界』。日本初演となった一作を含む三作品は、それぞれ全く作風が異なり、ドゥアトの豊かな表現力を改めて認識させるものだった。新国立劇場のダンサーが、伝統的なバレエとは異質な動きが要求されるドゥアトの振りに嬉々として挑み、結構、器用にこなしていたのにも感心した。

幕開けは、ドビュッシーの音楽による『ドゥエンデ』(1991年)。右手奥の細長いスクリーンに樹木や模様がモノトーンで投影されるほかは何もない舞台が、かえって想像をかきたてる。ダンサーは男女六人ずつ。第二ポジションでのプリエが多用され、ダンサーはバネのような強靭さで次の動きに移る。小気味良い、実にスピーディーな展開だ。手首や足先を奇妙に曲げたポーズが目立ち、ダンサーがミステリアスな生き物のように見えた。


「ドゥエンデ」


「ジャルディ・タンカート」
続く『ジャルディ・タンカート』(1983年)はカタルーニャ語で「閉ざされた庭」の意味で、ドゥアトの処女作。郷愁を誘うカタルーニャ語の労働歌にのせ、細い枯れ木で囲まれたスペースで、三組の男女が深く沈み込み、背を反らせて踊る。素朴でいてシャープな動きは、自然と同化するように映った。女性の揺れ動くフレアスカートも効果的だった。

最後は日本初演の『ポル・ヴォス・ムエロ』(1996年)。「あなたのために死ぬ」という意味で、15〜16世紀のスペインの音楽に、同時代の詩人ガルシラソ・デ・ラ・ベガの詩の朗読を交え、当時の宮廷や文化を現代の感覚でとらえたもの。後方の雅な真紅のカーテンとは不釣り合いに、女性六人はレオタード、男性六人は短パンツで動き回る冒頭は、無垢な姿か現代を象徴するのだろうが、違和感を覚えた。女性が裾長のワンピース、男性が黒のシースルーのシャツになると、古楽の魅力も手伝って、エレガントな雰囲気が満ちてきた。ダンサーは機敏に跳ね、身をよじり、ペアを組むなど、流れるように踊りつないだ。

コミカルなデュオで笑いを誘う男性や、白い仮面を持った女性たち、香炉を振り回して聖体降臨祭の儀式を模す男性たちが、当時の生活をしのばせた。三作の中で最も洗練されていたのは、音楽とテーマに添ったからだろう。よく練り上げられた舞台だった。ダンサーでは、酒井はなや湯川麻美子、山本隆之が好演した。(3月23日、新国立劇場中劇場)

 

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